お酒
「IWA 5」ピカール社長と「和光」庭崎社長が語る
日本酒とチョコレートの“Amazing”なマリアージュ。
2025.12.30
天才的な醸造センスを持つ、元「ドン ペリニヨン」の醸造最高責任者、リシャール・ジョフロワ氏が緻密なアッサンブラージュの技術で紡ぎ出した「IWA 5」。この類稀なる日本酒に、銀座「和光」が自家アトリエで作る「ショコラ・フレ」を合わせた驚きのマリアージュを、そのティーサロンで提供している。株式会社 和光の代表取締役社長である庭崎紀代子氏が酒蔵を訪ね、株式会社 白岩の代表取締役 CEOのシャルル・アントワン・ピカール氏と共に、「IWA 5」と和光の「ショコラ・フレ」のマリアージュを紐解いた。
シャルル・アントワン・ピカール社長(以下・ピカール氏) ようこそ白岩へ。冬の富山は雪や雨が多いのですが、今日は晴れています。
庭崎紀代子社長(以下・庭崎氏) 富山では「弁当忘れても傘忘れるな」という教えがあると聞きましたが、今日は立山連峰まで眺められますね。
ピカール氏 富山市からやや遠く、冬は雪に閉ざされることもありますが、清々しい空気は酒造りに最適です。
庭崎氏 建物も素敵です。杜氏さんや蔵人さんは、天井まである広い窓ガラスからこの景色を見ながら仕事ができるのですね。ゲストのためのレセプションルームが土間のようになっていて、ガラスの向こうの酒蔵を眺められるのも素晴らしいです。リシャールさんは、「米以上に蔵が大切」とおっしゃっているとか。
ピカール氏 はい。日本酒とワインの造り方で何が一番違うのかというと、プロセスなんです。日本の酒造りは、麹、酒母、それに人の力の絶妙なバランスで成り立っています。その環境を作るのが蔵です。蔵には酵母や乳酸菌が息づいています。酒造りに最適な環境を維持するためには、蔵がとても大切です。
庭崎氏 なるほど。ワインはテロワールが大切と言われますが、日本酒は蔵なんですね。
ピカール氏 そうなんです。ワインの味はテロワール=風土でほぼ決まります。「日本酒のテロワールは蔵なのだ」という話をリシャールは何度もしていました。たとえば、ぶどう1kgをおいておくと、味はともかく、いつかはワインになります。米はおいておくだけでは酒にはならない。ねずみが来るだけ(笑)。蔵と人間の力が必要なんです。
庭崎氏 確かに。日本酒作りにおいては、米より蔵が大切という意味がよくわかりました。
ピカール氏 ですから、どこに酒蔵を建てるかが、とても重要なことでした。
庭崎氏 リシャールさんは建築家の隈研吾さんと共に探されたとか。
ピカール氏 リシャールと隈さんは方々を見て回り、この土地をひと目見て気に入り、すぐに決めたと聞いています。海と山が眺められ、古くから住んでいる人たちの生活があるから、という理由でした。
庭崎氏 空気が清らかですね。細かい酒造りのお話を隈さんとされたのですか。
ピカール氏 どんな蔵にしたいかはお話ししました。たとえば、入ってすぐにガラスの向こうに蔵の中が見えるところなど、ないでしょう? 蔵人には自然を眺めながら仕事をして欲しかったんです。
庭崎氏 私どもの岩手県雫石の「グランドセイコースタジオ」も隈研吾さんにお願いしました。工房も一面のガラス張りにし、岩手山と周辺の自然を感じながら仕事ができるようになりました。なんといっても、作り手が四季を感じ、目にも優しい。彼らのモチベーションはとても上がっています。こちらの酒蔵とうちのスタジオはとても似ています。
ピカール氏 それはぜひお伺いしたいです。
庭崎氏 もちろん、ぜひいらしてください。ご案内いたします。
ピカール氏 よろしくお願いします。
庭崎氏 2025年から「和光」で「IWA 5」の取り扱いをさせていただくことになり、ティーサロンのメニューにも載せています。初めていただいたとき、品があって華やかな味わいに驚きました。アッサンブラージュしているからこそ生まれる味わいなのでしょうか。
ピカール氏 そうだと思います。お酒の業界で味を表現するとき、アミノ酸がどうだなど、テクニカルな言葉が飛び交いますが、誰もが飲みたくなるワードが大切と考えています。庭崎さんの言葉、わかりやすく表現されていてとても嬉しいです。
庭崎氏 リシャールさんはどんな味を目指しているのでしょう。
ピカール氏 ひと言で言えば、「完璧なバランス」です。フランス語では「équilibre(エキリーブル)」。日本語では「調和」「ハーモニー」という意味でしょうか。ただ、リシャールにとって、目指す「équilibre」は、毎年異なるんです。日本の蔵元さんや杜氏さんとお話しすると、みなさんが目指しているのは「いちばんきれいな1本の線を描くような味」。うちは正反対なんです。きれいな1本線ではなく、まろやかで広がりのある味わいにしたい。だからこそバランスが大切なんです。出発点が違う。
庭崎氏 完璧なバランスをリシャールさんがつくり上げるのですね。アッサンブラージュが完成したとき、リシャールさんはどんな感じなのですか? 「できた!」と叫ばれるとか?
ピカール氏 リシャールは「できた!」と言ったことはないです。50種類ほどの原酒をブレンドしていく作業に1ヶ月はかかります。最初の2〜3週間でその年のプロトタイプを5〜6本つくります。この期間の作業はとてもおもしろくて、楽しい。藪田杜氏の意見も聞きながら、さらに1本に絞っていく。これを1%、あれは0.3%とか、最後の1本をリシャールは微調整を重ねるのですが、そのあたりで私が「もう終わりにしませんか」とお願いするんです。その按配は5年目になって学びました(笑)。リシャールの追求には終わりがないのです。
庭崎氏 リシャールさんは周囲に意見を聞くのですか?
ピカール氏 Yes and noです。彼は頑なではないし、人の意見に耳を傾けます。でも、人の意見を聞いてドン ペリニヨンをつくったら、あんな味にはなりません。よい意味でアーティストなんです。
庭崎氏 そして完璧なバランスは永遠に完成しない。
ピカール氏 そうなんです。
庭崎氏 「IWA 5」に特に合う料理はありますか。
ピカール氏 「完璧なバランス」だから、「IWA 5」は何にでも合うと思います。刺身でもメキシコ料理でも、ピザにも合う。リシャールはタイのグリーンカレーとの相性がとてもいいと言っています。
庭崎氏 グリーンカレー! それはびっくりです。
ピカール氏 試してみてください。あのスパイシーさと「IWA 5」はとても合います。
庭崎氏 今度試してみます。たとえばワインも、完璧なバランスの、どの料理にも合うものはあるのでしょうか。
ピカール氏 ワインより日本酒のほうがどんな料理にも合わせやすいと以前から感じています。
庭崎氏 料理にはワインのほうが合うイメージがあります。
ピカール氏 ワインのほうが難しいです。相性のよい料理の幅が狭いんです。強いて完璧なバランスをもつワインといえば、シャンパーニュです。日本では食前酒やお祝いの席のお酒と思われていますが、食事中ずっと飲めるのがシャンパーニュです。料理の邪魔をしない。
庭崎氏 リシャールさんはそこを目指している?
ピカール氏 そうですね。ドン ペリニヨンと「IWA 5」を同時に飲んでみてください。同じ人がつくったとわかると思います。
庭崎氏 リシャールさんの世界観がわかってきたような気がします。
ピカール氏 飲みやすさがあり、複雑さもある。そのバランスでしょうか。ドン ペリニヨンにも「IWA 5」にも、水のように消えるのではなく、印象に残る複雑味があります。ただ、複雑さのための複雑な味わいでは1本は飲めない。1杯でいい。飲みやすいだけでも印象に残らない。このバランスがとても難しい。
庭崎氏 確かにそこを目指すのはハードルが高いですね。そんな完璧なバランスの日本酒にどうしても合わないものってありますか?
ピカール氏 あるんです。酸味が強すぎる味です。漬物が難しい。酢の物は大丈夫なんですが。
庭崎氏 ワインとピクルスもNGなんでしょうか。
ピカール氏 個人的にはNGな組み合わせです。
庭崎氏 この秋から「IWA 5」を和光のティーサロンでも提供できるようになり、さらにうちのチョコレートを添えてお出しすることになりました。お客さまから、「日本酒とチョコレートがこんなに合うなんて!」などとおっしゃっていただいています。チョコレートに合わせたいと私どもからお願いしたとき、どう思われましたか?
ピカール氏 いい意味で驚きました。そんなテがあったのかと。「IWA 5」と合わせるチョコレートのセレクトを送っていただいたとき、これは合う!とわくわくしました。
庭崎氏 何種類かお送りして選んでいただいたのでしたね。「アッサンブラージュ 5」とレモンガナッシュのショコラ「シシリア」の組み合わせは衝撃的でした。日本酒と柑橘系のショコラが合うなんて、想像もしませんでした。
ピカール氏 新作「アッサンブラージュ 6」と生姜の味の「ジャンジャンブル」とのマリアージュも最高です。どちらも余韻の深さがあり、お互いの風味を引き立てています。
庭崎氏 いま、「和光」のテーマは「Amazing」です。フードだけでなくて、お客さまにご提供するとき、幸せな驚きをお伝えしたい。お客さまがこのマリアージュを味わった瞬間に、「わーっ」と高揚感が高まるのが伝わってくるんです。自分の想像を超えたところに感じる何かがあったり、見つけるものがあったり。「和光」としてやりたいことのひとつです。
ピカール氏 私にとってもAmazingでしたよ。
庭崎氏 「和光」のチョコレートはフランスのレシピをベースに作られており、根底にはフランスの文化が流れていると感じています。40年経って「IWA 5」に出合ったことにご縁を感じました。「和光」は、世界のカルチャーを日本に持ってくることも大切にしていますが、今後は日本のカルチャーを世界に発信していこうと思っています。
ピカール氏 我々がここにきたモチベーションも同じです。『「IWA 5」のプロジェクト』では、「フランス」という言葉をなるべく使わないようにしています。たまたま、リシャールと私、マネージャーのマチユはフランス人ですが、他は全員日本人です。日本の米を使い、富山で造っている。日本産の日本酒を造ることが重要なんです。フランスで日本酒を造ろうとは考えていない。フランス人がアッサンブラージュという技法で仕上げていますが、これは日本のお酒なのです。「和光」のチョコレートはとても繊細で、私にとってはとても日本的です。パリのアラン・デュカスのチョコレートとも違う。
庭崎氏 まさに日仏融合ですね。今後も「IWA 5」との、さらなるコラボレーションを期待しています。
ピカール氏 スイーツならバニラがいいかな。
庭崎氏 バニラ! それならアイスクリーム、ケーキ、チョコレートもあり、ですね。
ピカール氏 スパイスでチャレンジしてみたいです。スイーツで使うスパイスといえばバニラなので。
庭崎氏 なんと! 食品部の担当によると、「うちのパティシエが次はバニラでやりたいって言っている」ということですので、実現の可能性は高いですね!
ピカール氏 来年は「アッサンブラージュ7」が発売となります。
庭崎氏 そちらも楽しみです。「IWA 5」と「ショコラ・フレ」の組み合わせは、幸せな驚きをお客様にお届けできていると感じています。今回は、素敵な蔵と日本酒造りを見せていただき、本当にありがとうございました。
和光アネックス
住所/東京都中央区銀座4-4-8
TEL/03-3563-9701
https://www.wako.co.jp/
2階のティーサロンで、「IWA 5」、および「ショコラ・フレ」のセットを提供。
IWA 5 アッサンブラージュ 6(2024) 1杯(90ml)3300円
IWA 5 アッサンブラージュ 2(2020) 1杯(90ml)4400円
IWA 5 アッサンブラージュ 6(2024)& 2(2020) 各1杯(45ml)3850円
ショコラ・フレとのマリアージュセットは、
IWA 5 アッサンブラージュ 6には「ジャンジャンブル」
IWA 5 アッサンブラージュ 2には「グアナラ」を提供。各プラス605円
飲み比べセットには、「ジャンジャンブル」「グアナラ」を提供。プラス1210円
地階のグルメサロンで「IWA 5」をボトルでも販売中。
※数量限定のため、売り切れる場合があります。
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki(INTO THE LIGHT)
Text:Mika Kitamura