お酒
グランピングに合うのはウイスキーだった。
グランド モルト テイスティング2017
2017.10.12
グランピングのワンシーンに見立てた会場でのテイスティング
初秋の一夜、都会の真ん中にこつぜんと現れた森でシングルモルトを味わう。そんな小粋なイベントが、9月7日、8日に「恵比寿アクトスクエア」で開かれた。会場にしつらえた芝生の向こうにはタープが張られ、その下にはディレクターズチェアが置かれている。まるでグランピングのワンシーンのようなこちらは、MHDモエ ヘネシー ディアジオが扱う12ブランドのシングルモルトをテイスティングできる「グランド モルト テイスティング2017」の会場なのだ。
振り返れば、ウッディーなバーカウンターの上に、スペイサイドやハイランドなどの山のエリアで造られるシングルモルトと、潮風に洗われるアイラ島やスカイ島で造られるシングルモルトが、コーナーごとに並べられている。エントランスで渡される、マイグラスに好みの一本を注いでもらい、飲み比べられるという粋な仕掛けだ。それぞれのシングルモルトの前には固有の香りや味わいを表すハーブやフルーツ、スパイスなどが置かれ、香り立つ繊細で美しい味を喚起させてくれる。もちろん、オーダーすればロックやハイボールなど、好みの飲み方に対応してくれるが、シングルモルトはまずストレートで少量を口に含み、香りや味の広がりを楽しむのが王道だ。そのうえで、ラガヴーリンのロックには、コーヒーのグラニテをどうぞ、グレンモーレンジ シグネットにはチョコレートを、などと粋なマリアージュも提案してくれるのだから、シングルモルト好きにはたまらない。
スコットランドの蒸留所巡りの思い出を語る
タープの上には広角のスクリーンが設置され、シングルモルトの故郷であるスコットランドの風景が映し出されている。ディレクターズチェアに腰かけたJ-WAVEのナビゲーターであり作家のロバート・ハリス氏と、写真家兼アウトドアコーディネーターとして活躍する猪俣慎吾氏によるトークショーが繰り広げられている。映像は猪俣慎吾氏がこの夏、スコットランドの蒸留所をキャンピングカーで回ったときのものだ。雄大な景色に心躍らせ、ときに厳しい大自然に向き合いながらも、たき火のもとで味わったシングルモルトがどれだけ心を癒やし、身体を温めてくれたか。ヴィヴィッドな映像と共に語られた思い出は、参加者の心を遠くスコットランドの地へといざなった。
アイラ島の自然を体感することで知る至高のアードベッグ「アン・オー」
会場の1階が森であるなら、2階はアイラ島の海辺だ。カウンターでは今回の目玉である、アードベッグの新商品「アン・オー」が味わえる。そして隣のブースには、究極のアイラモルトとして愛されているアードベッグの生まれ故郷を知ることができる仕掛けが用意されていた。VRコンテンツのゴーグルを装着すると、アイラ島の断崖に立っているかのごとく、激しく打ち寄せる波や吹き付ける風などを体感できるのだ。その体験は、アードベッグの気高くも力強い味わいが、過酷な環境のなかでこそ生まれ得たものだということを納得させてくれる。
「アン・オー」の名はアイラ島で最も手つかずの場所、最南端にあるMull of Oa(マル・オブ・オー)、オー岬に由来する。高さ200mに及ぶ断崖絶壁が、荒波や風雪からアイラ島南の海岸を守りつづけている。オー岬の、アイラ島の盾となることで長い年月のうちに丸みを帯びた地形のように、角の取れた丸みのある味わいを表し、「アン・オー」と名付けられた。
口に含めばピーティーな風合いのなかに、糖蜜のコクのある甘さやバナナのようなみずみずしい果実香も感じられる。舌の上を転がるまろやかなテクスチャーとシロップのような甘さのなかにあるアニスのスパイシーさ、スモークしたハーブのような香り。それらが時間差で押し寄せ、至福の味わいへと導かれる。
再校蒸留・製造責任者が語るアードベッグ アン・オーの誕生秘話
再度階下へ降りると、最高蒸留・製造責任者であるビル・ラムズデン博士が、アン・オーの奇跡の味わいの誕生について、技術的な側面を熱く語っていた。甘さをもたらすペドロ・ヒメネスシェリー樽、スパイシーさを生む新樽、アードベッグらしさをもたらすファーストフィルのバーボン樽の3種で熟成した原酒を特別に作られたギャザリング・ルームでヴァッティングさせ、長い年月をかけて熟成させることで初めて結実した、と聞いて納得し、アン・オーの長い長い余韻がいっそういとおしくなるのである。
さて、最後は、全国を旅しながらライブを重ねている「Caravan」氏のライブショーケースで締めくくられた。奏でる音楽がアウトドアシーンにふさわしいこともあり、アウトドア好きからの支持は絶大だ。軽やかななかに、人生の機微を感じさせる深みのあるそのメロディーは、シングルモルトのアフターテイストそのままに心地よく、いつまでもふわりとした酔いに身をゆだねながら、メロディーを口ずさんでいたい、そう思わせられるのだった。