旅と暮らし
艶やかな雰囲気をまとうカバーの歌姫に酔いしれる
今年のバレンタインデーはコットンクラブで
2017.12.21
どんなジャンルのどんな曲でも自分色に染め上げてしまう。この女性が歌うと、それは完全にこの女性のものになる。カバーなのに、まるでオリジナル曲のようにさえ感じられる。“カバー名人”なんていうふうにも言いたくなるくらい、いくつもの絶品カバーによって人気を博してきた才色兼備の歌姫、カレン・ソウサのことだ。
徳永英明の『VOCALIST』(2005年)の特大ヒットをきっかけに、JUJU、May J.、中森明菜、クリス・ハート、平原綾香らが続いて日本に空前のカバー・ブームが巻き起こり、それがひとつのピークを迎えたのは2010年のこと。もちろんその後もさまざまな歌手によるさまざまなカバー作品が世に出ているが、当然ながらカバー集であればなんでもヒットするなんてことはなく、カバーによって魅力や持ち味を発揮できる人とそうじゃない人が世の中にはいるものだなと実感させられもした。国外アーティストとて同じこと。アレンジによる独自性も必要条件としてなくてはならないものだが、それにも増して大事なのは、やはり歌声そのものの絶対的な個性なのだ。そしてカバーするその人の解釈があり、その人の情感があり、その人の色気がにじまなくては、面白味も感動もないものなのである。
カレン・ソウサが歌うとどんな曲も彼女のオリジナルのように思えるのは、それぐらいボーカルに彼女特有の情感表現や色気があって、それが個性と魅力に結びついているから。ややハスキーで、憂いがあって、けだるさを感じさせ、どこか妖艶でもある。その歌声で場の空気や温度を変えてしまえるシンガーということだ。
そんなカレン・ソウサはアルゼンチンのブエノスアイレス出身。ビリー・ホリデイ、エラ・フィッツジェラルドらの影響を受け、2000年代半ばから本格的に音楽活動をスタートさせた。といっても初めからジャズ系を志向していたわけではなく、活動当初は匿名でエレクトロやハウスの企画アルバムに参加。ジャズに転向したのは2006年に出た『JAZZ AND 80’』という80’sロックのジャズ・アレンジ・アルバムがヒットしてからで、つまりこの時点で現在のスタイルの萌芽があった。そして2009年に自身のカルテットでブラジル・ツアーを成功させ、それからL.A.に渡ってホイットニー・ヒューストンやアレサ・フランクリンらのソングライターであるパム・オーランドに師事。ロックやポップスのカバー集『Esenciales』(2011年。日本盤は2013年)、ジャズやボサノバのカバーとオリジナル曲を交ぜた『Hotel Souza』(2013年)、1stアルバムの続編と言える『Esenciales Ⅱ』(2014年)といったアルバムで、ジャズ……というよりジャジーなボーカルを愛する音楽ファンたちの心を捉えた。
12月6日に日本盤で出たばかりの『Velvet Vault(邦題:夜空のベルベット)』は彼女の3年ぶりとなる新作で、これはセルフ・プロデュースによるもの。これまでUSよりもUKのポップ/ロックをカバーすることが多く、実際のところ憂いを帯びた声質とUK特有の湿ったメロディーの相性は非常によかったものだが、今回の新作ではグッとカバーの範囲を広げているうえ、オリジナル曲でソングライティング・センスに磨きがかかったことを示してもいる。取り上げられたのはデューク・エリントン「アイム・ビギニング・トゥ・シー・ザ・ライト」から、エルトン・ジョン「僕の瞳に小さな太陽」、10cc「アイム・ノット・イン・ラヴ」、エイミー・ワインハウス「ヴァレリー」、キュアー「イン・ビトウィーンズ・デイズ」、ビル・ウィザース「エイント・ノー・サンシャイン」まで、スタンダード、ソウル、ロック、ポップと、ジャンルのまたぎ具合に面白さあり。それぞれのアレンジの妙にもうならされるが、とりわけ光っているのはルー・リードの「ワイルド・サイドを歩け」で、これはブラジリアンっぽい高揚感のあるリズムの上にホーンが華々しくかぶさった驚きの仕立て。この大胆なカバーには気持ちが上がったし、カレンのトーキング的な歌いまわしも実にかっこいい。またカレンと彼女の師でもあるパム・オーランドが共作した「ユー・ガット・ザット・サムシング」は、日本のボーカリスト兼フリューゲルホルン吹奏者のTOKUをデュエット相手に迎えたオリジナル・ナンバーで、これも大きな聴きどころのひとつだ。
さて、2018年2月13日から3日間、カレン・ソウサがコットンクラブに登場。2013年と2015年にはブルーノート東京に出演しているが、バレンタインのコットンクラブで新作収録曲を聴くことができるのはとても楽しみだ。さぞかしジャジーで、ムーディーで、味わいのあるバレンタインになることだろう。
プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」(http://ameblo.jp/junjunpa)でライブ日記を更新中。
KAREN SOUZA
- St. Valentine's Day Special Live -
公演日/ 2018年2月13日(火)-15日(木)
問い合わせ/ 03-3215-1555
所在地/ 〒100-6402 東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルTOKIA 2階