旅と暮らし

新しい感覚に出合う。美しく、刺激的な映画2選

2018.01.24

美しく、まるで芸術作品を見ているような感覚に陥った。今回紹介する2作品は、新しい世界にふれたときに、五感が研ぎ澄まされる作品。劇的なストーリー展開があるわけではない。そこには静かに時間が進むなかで、人間が生み出すアートともいえる刺激がある――。

写真・図版
© 2016 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE

『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』

雑誌やセレクトショップで、その美しい洋服を見かけたことはある。でもそれがどこの国のものなのか、その服の特徴さえも、正直この映画を見るまでは知らずにいた。だから、「ドリス・ヴァン・ノッテン」というブランドが25年間一度も休まず、年に4回、メンズとウィメンズのコレクションを発表していること。広告は一切せず、自己資金のみで活動を続けていること。小物やアクセサリーは作らず、洋服だけで勝負していること。そして、現代のファッション業界において、それらがほぼ奇跡であるということ−—−。映画の冒頭、さまざまな関係者によって語られるその事実に、これから伝説の物語でも始まるんじゃないかとドキドキした。

写真・図版
© 2016 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE

およそ1年かけてその創作の源を追ったカメラは、パリで行われたコレクションの舞台裏や、ドリス自身による過去のコレクションの解説、世界中から集められた生地が並ぶアトリエで作業をする様子など、これまで明かされることのなかったさまざまな場面を映す。なかでも、今回初めて公開されたアントワープ郊外の彼の邸宅「ザ・リンゲンホフ」。その完璧な美しさに息をのんだ。手入れされた緑豊かな庭、そこに咲く季節ごとの花、自ら育てた野菜、所狭しと並べられた芸術品。その色彩が、彼の想像とクリエイションに大きく影響していることは、誰が見ても明らかだった。庭から切ってきた花を部屋に飾るまなざしと緊張感は、アトリエで布や柄を重ねていくときのものと何も変わらない。

写真・図版
© 2016 Reiner Holzemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE

これは、単なるファッションドキュメンタリーではない。そもそも、ドリス・ヴァン・ノッテンの服は、ファッション(流行)ではない。選ぶものはその人自身であり、それは洋服だけでなく、暮らしや生き方のすべてに言えること。美しいものを愛し、本人が言うように“異常なまでの完璧”を求め、そのための努力を惜しまず真っすぐに歩みつづけるドリスの姿勢。それは、何か崇高な儀式を見ているようでもあった。

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©東京藝術大学大学院映像研究科

『わたしたちの家』

ホラーやサスペンス映画の怖さは、幽霊や殺人鬼そのものにではなく、目に見えない気配を感じることや、自分の感覚と意識、普段当たり前だと思っていることが本当に正しいのかどうかさえも疑わざるを得ない状況に置かれてしまうことにあると思う。

とある古い一軒家に、二つの時間が流れている。母親と二人で暮らす14歳の少女セリは、姿を消した父親を忘れることができず、母親の新しい恋人ともなじめずにいた。一人で家に帰った夜、誰かの声が聞こえた気がして辺りを確かめるが、誰もいない。それ以降、セリは何度も部屋の中に不思議な気配を感じるようになる。一方、突然記憶をなくし、船の中で目覚めたサナ。そこで透子という少女に助けられ、二人は一緒に暮らすようになる。自分は誰なのかわからない不安を抱えながらも透子との暮らしを楽しんでいたサナだが、次第に透子の不審な行動が気になりはじめる。そしてサナもまた、この家に不思議な気配を感じていた。

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©東京藝術大学大学院映像研究科

交わりそうで交わらない二つの世界。近づいてくる気配、反響する音。ホラー、スリラー、ミステリー、サスペンス、家族、友情、青春物語。そのすべてであり、そのどれでもない、演劇なのか映画なのかもわからなくなるような不思議な時間だった。「疑う余地のない世界が本当に正しいのか、ほかにも違う世界があるんじゃないか?と、見えていない領域を想像することが重要。そんな映画が撮りたい」と語る清原 惟は、1992年生まれの25歳。映画完成時はまだ24歳だった。東京藝術大学大学院映像研究科の終了作品として監督したこの作品は、黒沢 清、諏訪敦彦、アピチャッポン・ウィーラセタクンら名だたる映画監督からも評価され、来月にはベルリン国際映画祭(フォーラム部門)で上映されることも決まっている。メディアが多様化し、新しい価値観を持った作家が今後もどんどん増えていく。それは、決して前衛的でマニアックなだけでなく、“わたしたち”の時間と意識を少しだけ疑ってみるきっかけになりそうだし、それってすごくおもしろそうだ。

〈作品情報〉
『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』
監督/ライナー・ホルツェマー
出演/ドリス・ヴァン・ノッテン、アイリス・アプフェル、パトリック・ファンヘルーベ ほか
上映時間/93分
製作国/ドイツ、ベルギー
HP/http://dries-movie.com
2018年1月13日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野ほか全国順次公開中

『わたしたちの家』
監督/清原惟
出演/河西和香 安野由記子 大沢まりを 藤原芽生 菊沢将憲 他
上映時間/80分
製作国/日本
HP/http://www.faderbyheadz.com/ourhouse.html
2月2日(金)まで渋谷ユーロスペースにて上映。ほか、全国順次公開。

Text:Asako Saimura

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