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古着道楽のすすめ。
2018.01.31
海外旅行に出かけるようになった1970年代から、ロンドンのケンジントン・マーケットや、パリの蚤(のみ)の市などで、ヴィンテージ・ウエアの面白さに開眼させられた。
イギリスやフランスのおしゃれ人間が、古着のもつ魅力を日常的に採り入れていることを、それらの国にできた友人たちを通じて知った。
たとえば1970年代のパリ、クリニャンクールの蚤の市などには、戦後すぐの時代の1950年代に作られた洋服や、アクセサリーがまだたくさん商われていて、戦前の流行だったと思われる緑色の革コートや、不思議なトウ・スタイルの編み上げ靴などを手に入れて楽しんだものだった。
もちろん古着と言ってもただのズタボロではなく、コンディションの良いものを慎重に選ぶわけだが、なぜそうまでしてヴィンテージものを探したかというと、まず流行の新品に比べると価格が安いということに加え、それらがもう現代では再現できない技術や、素材で作られていたからでもあった。
義父の形見の花紺(ダークネイビー)のホップサック地のスーツや、キャメルのコートをいただいたことがあるが、それらは昭和30年代末から40年代にかけて仕立てられたもので、その時代の仕立て職人たちの、まさに魂のこもった丁寧な仕立て技術と、英国製の服地の素晴らしさを感じさせてくれるもので、それらは今でも僕のワードローブのなかでも、重要なアイテムとなってくれている。
最近またアメリカに出かける機会が多くなったのだが、昨年の春ハリウッドのヴィンテージ・クローズ・ショップに、何か面白いものはないかと立ち寄ると、すぐに目に入ったコートがあり、すぐに手に取り内側のラベルを見てみると、なんと100%インポーテッド・ヴィキューナとあり、さらにハリウッドの仕立屋さんのラベルが縫ってあった。
ご存じと思うがヴィキューナというのは、南米のペルーの高地に生きている野生の動物で、その緻密な毛質が人気で、一時は絶滅が危惧され、その原毛をとることができなくなっていたものだ。
しかしまた再びその頭数が増えたため、市場に出回るようになったが、その生地で作られるコートは、一着なんと500万円くらいするというから、とても庶民に手が出せるものではない。恐る恐るお店の人に値段を聞くと、なんと120ドルだという。そのまま買ってもよかったが、とりあえず古いものを買うときの癖で値切ってみると、それじゃあ100ドルでいいというので買って帰った。
時にはこんな幸運が待っている。だから古着同楽はやめられないのである。
プロフィル
松山 猛(まつやま・たけし)
作詞家、作家、編集者。映画『パッチギ』の原案となった『少年Mのイムジン河』ほか、著書多数。メンズファッション業界の御意見番でもある。