旅と暮らし

ソウルフード お好み焼きで心をつかむ鉄板焼き接待
[状況別、相手の心をつかむサクセスレストラン Vol.04]

2018.05.09

写真・図版 小松宏子

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はずさない接待の鉄板といえば、そう、鉄板焼きだ。おやじ?ギャグを言うつもりはないけれど、これは真実。美しい魚介や野菜、そして牛肉が目の前で音を立てて料理されていく、鉄板という舞台を特等席で楽しめるのだから。加えて締めがお好み焼きとなれば、懐かしさも相まって話も弾み、得意先との距離がぐっと縮まることは間違いない。

西麻布の露地にある、高級感のある隠れ家感がたまらない

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いっとき元気のなかった西麻布が、最近また活気づいている。年上の得意先であれば西麻布を懐かしむ方も多いはずだし、同年代や若い得意先にとっても、華やかな接待の予感をいざなうに違いない。表通りから奥に入った露地に、古い木材のどしりとした木の扉を見つければなおさらだ。小さなネームプレートのみのそこは、知らなければ扉を開けるのに勇気を要することだろう。店内に入ると、舞台である鉄板の前で黒いポロシャツを着た渋い親爺(おやじ)が、ときどき軽口をたたきながら、リズミカルに具材を焼いている。ナガオカサクモとはその個性派の店主・長岡作茂さんの名前。神戸で長年、高級お好み焼き店を営んだのち、東京に進出したのが10年前。“粉もの”を柱に据えながら、高級食材を次々に焼き、粋なコースに仕立ててくれる。軽快なトークを交えながらの、鮮やかな手さばきは、さながらNAGAOKA劇場といった風情だ。

先付け、焼き野菜のあとの、いきなりの粉もの“ねぎ焼き”で心をつかむ

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今回紹介するのは超リーズナブルな8000円の和牛ステーキコース。初めてであれば絶対にコースをすすめる。気の利いた先付のあとは、定番の季節の焼き野菜が出される。例えばパプリカであれば、片面だけを焼いて、素材の水分が最大限に膨張したところで仕上げるなど、それぞれの野菜の持ち味を生かした焼き方で仕上げる。ごまをすり込んだ自家製の味噌をつけて食べるとたまらない。そして、その後にねぎ焼きが供される。薄く溶いた生地を広げ、刻んだ青ねぎをどっさり。豚バラの薄切りを重ねてつぶしながらカリカリに焼き上げる。神戸のソウルフードだそうだが、そのおいしさといったらない。どこかかしこまっていたクライアントとの会話も、これで一気にほぐれるはずだ。

レベルの高い魚介のアレンジ、シーザーサラダと続く

次の一品が魚介料理。そのときどきに手に入る旬の魚介に、ひと手間加えたアレンジに食欲が増す。今回の料理は手長海老の鉄板焼き、ウニ載せ。半割りにした手長海老を香ばしく、けれど身はレアに焼き上げ、たっぷりウニを載せたもの。

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手長海老の甘さとウニの甘みが口の中で爆発する。蛤の季節であれば、焼いて口をあけた蛤に蛤のスープをかけて、椀代わりに出す。シーザーサラダのチキンもさっとグリルした熱々を供する。ただ、素材を鉄板で焼いたものではなく、長岡氏のセンスの光る肩の力の抜けた料理が実にいい。凝縮感のあるふくよかな白ワインと合わせるのが最高だ。

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主菜はA5黒毛和牛のステーキ

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いよいよお待ちかねの牛肉だ。正真正銘のA5黒毛和牛。それでこの価格はなぜ?「一頭買いしているんですよ。だからできるんです」と長岡さん。長らく神戸で店を営んできただけに、上質な黒毛和牛を入手する太いパイプを持っているのだ。フィレやサーロインを岩塩のみでシンプルに味つけし、好みの加減に焼き上げてくれる。それができるのも肉そのものがいいから。肉汁のしたたるジューシーな肉を頬張れば、日頃の上司への不満も忘れそうだ。「ステーキに使わない部位もさまざまに利用しています。煮込みは、すじを12時間煮て仕上げます。実は昨晩、すじを煮ていて、徹夜だったんですよ。つきっきりでアクを引かなければならないので、寝れないんですよ」と笑う。絶品だそうだ。ぜひ、一度食べてみたい。「神戸ではお好み焼きを食べている学生の隣で社長がステーキを頬張っている、そんな店でした」と長岡さん。ぜいたくと気取りのなさのバランスが抜群で、愛されるゆえんだろう。

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締めはお好み焼き、塩そば、そば飯の3つからチョイス

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ステーキですっかり満足したあとは、とっておきの“締め”。お好み焼き、塩そば、そば飯から選べるというのだから悩ましい。締めの楽しさというのはまた格別だ。そして、それが、ソウルフードともいえるお好み焼きなのだから、たまらない。そのふわふわの食感の秘密は、粉を練るときにかつおだしを使うことと、二番だしで煮たこんにゃくを生地に加えることだという。写真で紹介しているのは、シンプルに塩のみで味をつけ、ねぎとあえた塩焼きそば。なんと、神戸時代はそばも自分で打っていたのだとか。いまはそのレシピで製麺所に特注している。そば飯とは、神戸出身者以外にはなじみがないが、焼きそばを5mm程度に細かく刻んで、ごはんと一緒に炒めて食べる、まさにソウルフード。締めを選ぶころには、得意先ともすっかり打ち解けているに違いない。関西出身者が得意先であれば、どんな契約でも成立できそうだ(!?)。
「大福持ってきてくださいよ。デザートに焼きますから。最高ですよ」と長岡さん、とっておきの裏技まで教えてくれた。

Photograph:Makiko Doi

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