紳士の雑学

ハワイ・ハレクラニが教えるホテルの王道
ハワイは究極の旅先なのか 番外編
[センスの因数分解]

2018.06.15

写真・図版 田中敏惠

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ファッションほどのスピードはありませんが、旅にもトレンドは確かに存在し、ホテルやリゾートの世界に少なからず影響を与えています。そんなトレンドという観点から言うと、ハワイ、特にワイキキのような早い時期から開発された成熟リゾートはいささか不利な存在です。

太平洋の中心にある島に最初に誕生したリゾートホテルは、1901年ワイキキビーチに創業したモアナ・ホテル(現モアナ・サーフライダー・ウェスティン・リゾート&スパ)です。その後もワイキキビーチ沿いの開発は続き、20世紀半ばまでにホテルはどんどん高層化していきました。約半世紀前には既存のビルがハワイの一等地に立ち並んでいるので、ホテルの建築自体に新鮮さを感じさせるのが難しく、またなんでもござれというような大胆なリゾートとしての方向転換も厳しいといった事情があります。

そんななかでもハワイには、トラベルジャーナリズムを超越したグッドホテルがあります。ハレクラニ。ワイキキビーチの約2万平米の敷地に5つの棟を有し、ハワイの言葉で“House Befitting Heaven”天国にふさわしい家という意味をもちます。このホテルの個性は、日々世界中でホテルが開業したりリノベーションされているなかで、普遍的な魅力を放っているように思うのです。

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“Seven Shades of White”をホテルのインテリアテーマとしているだけあって、多様な白の表情を見せている内装は、紺碧(こんぺき)の海や木々の緑や花の彩の美しさと見事に調和しています。同じく白を基調とした客室は、華美な装飾や仕掛けがあるわけではありませんし、最先端のモダンさとも違います。しかしゲストにストレスを与えないように、細心の注意を払っていることが感じられます。まず動線。客室エントランス~バスルーム~クローゼット~ベッドルームそしてラナイ(ベランダ)と、一切無駄がなくたどれ、バスタブはシャワーブースのすぐ隣にあります。超高級ホテルやリゾートのなかには、バスタブの対角線上にシャワーブースがありしかも床はツルツルの大理石だったり、電話がバング&オルフセンなのはいいけれど、ベッドから3段ほどのステップを下りたところにあったりと、しつらえは豪華なのにふとした行為に小さなストレスを伴うといころも少なくありませんが。しかしこのホテルは実に機能的。ワイキキビーチ沿いと絶好なロケーションにありますが、客室滞在の心地よさも素晴らしいのです。

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またハレクラニでは、毎週金曜に宿泊客を対象として“Back of House Tour”というバックヤードツアーが行われます。案内役のアウンティ・メルバ(メルバおばさん)は、御年88歳! ハレクラニを知り尽くす彼女はハツラツとホテルの裏方たちとその仕事ぶりを案内していくのですが、スタッフは誰も生き生きとしていてフレンドリー。ここで働くことに誇りをもっていることがよく伝わってきます。ちなみにこのツアー、リピート率が高いらしく40回以上参加しているという女性と一緒になりました。“House without Key”にて毎夕開催されるサンセット・カクテルは、ハワイアンのバンドの音楽に合わせてフラダンスのライブパフォーマンスが。かつて私は、ハレクラニでフラを見ながらサンセット・カクテルを楽しむというシチュエーションを“ベタすぎる”と敬遠しているクチでした。しかしホテルが提供する景色もフラダンスも随一の美しさ。暮れてゆく茜色の空とさざなみの音をバックに、風がそよぐように踊るフラダンサーを眺めながらお酒を飲むぜいたくはトレンドを超越したものでした。若さとは、ときに王道に対して斜に構えてしまいますが、自分がハレクラニに感じていたのも、まさにそれだと気づかされたのでした。

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派手さではなく品格、はやりでなく王道。それを100年余の歴史をもつホテルは、揺らぐことなく追い求めてきたのでしょう。いま“ホテルビジネス”の世界では、収益の関係から宿泊よりもイベント(宴会)に重きを置いたところが多くなっています。しかしハレクラニがフォーカスしているのは、ホテルの礎ともいえる宿泊のゲスト、そしてその歴史を担うスタッフなのかもしれません。それはリピート率の高さや、スタッフの晴れやかな笑顔やサービスからも感じられます。トレンドの刺激を享受するのは確かに楽しいものです。しかし刺激を追うのではなく、王道という心地よさを味わうこともまた至福。それをホノルル随一のエレガンスホテルは非常に洗練された心地よさをもって教えてくれるのです。

https://www.halekulani.jp/

田中敏惠(たなか・としえ)
ブータン現国王からアマンリゾーツ創業者のエイドリアン・ゼッカ、メゾン・エルメスのジャン=ルイ・デュマ5代目当主、ベルルッティのオルガ・ベルルッティ現当主まで、世界中のオリジナリティーあふれるトップと会いながら「これからの豊かさ」を模索する編集者で文筆家。著書に『ブータン王室はなぜこんなに愛されるのか』『未踏 あら輝 世界一予約の取れない鮨屋』(共著)、編著に『恋する建築』(中村拓志)、『南砺』(広川泰士)がある。
http://ttanakatoshie.com/

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