紳士の雑学

バッグ業界に新風をもたらすF/CE.

2018.06.19

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創業者でありデザイナーの山根敏史氏と、その妻でありデザイナーである(旧姓:春山)麻美氏。山根氏は1997年からメンズ・ビギでデザイナーとしてのキャリアを積み、2004年からクロックス日本支社の立ち上げに参画。2010年に独立し、自身の会社オープン・ユアアイズを設立。春山氏はセレクトショップのチャオパニックでウィメンズのPRと雑貨バイヤーを歴任した後、2013年から同社のデザイナーとして参画。

通勤用のリュックや透湿防水素材のコートなど、ビジネスシーンにも機能性が問われるようになった現在。有名アウトドアブランドや老舗バッグブランドがしのぎを削るなか、大きな注目を集めている日本のブランドが、今回紹介するF/CE.(エフシーイー)だ。先の東京コレクションにおいて、ゲストデザイナーとして参加したことで業界内での評価も高まっているこのブランドのデザイナー両名に話を伺った。

自分たちの情熱を伝える努力を怠らないこと

ご存じの方は少ないだろうが、日本のバッグ業界は非常に閉鎖的で、新規参入者にとってハードルの高い業界である。それはバッグの生産・流通・小売を、既存の大手が占めていることが原因である。そうした状況にありながら、F/CE.は急速に知名度と存在感を高めることに成功した。前身ブランドを立ち上げ、安定的にするための助走期間は、肉体的にも精神的にもストレスの多い日々だったと振り返る。

山根「もともと僕は洋服のデザイナーで、バッグのデザイナーではありませんでした。だから、僕のような若造が(バッグの)量産をお願いしようと工場を訪れても、門前払いになることがほとんど。腕の立つ職人さんがいるいい工場は、すでに大手ブランドの仕事で埋まっているのです。国内で1社だけサンプルを作成してもらったのですが、自分たちが思い描く仕上がりとはほど遠いものでした。どうしても使いたかったパーツのほとんどが、海外製だったということもあり、海外の工場へと打診してみたのです。展示会を通じて、探し当てた工場へ何度も足を運んで話をしたのですが、そこでもやはり取り合ってもらえない。それでも諦めず、粘り強く交渉を続け、ベトナムの工場がようやく生産を受け入れてくれました。現在はその工場を含めたベトナムの2社、ドライラインと呼ばれる防水性の高い無縫製のバッグの生産を依頼している中国の1社で、量産を行っています」

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素材もパーツも自分たちが考える最高のものを

通常であれば、商社を通じて行う海外工場とのやりとりだが、自ら出向き自分たちの言葉で伝える。こうした無鉄砲とも思えるやり方でバッグの量産をスタートしたが、シーズンを重ねるごとに信頼関係が深まり、現在では作りたいバッグのイメージを工場側と共有することができるようになったという。そしてナイロン素材においては米国インビスタ社(コーデュラやクールマックスなどで知られる世界的に有名な繊維会社)とオリジナルのコーデュラナイロンを開発し、バッグづくりに欠かせないジッパーやバックルといったパーツには最高レベルのものを厳選した。

山根「もともと洋服のデザイナーがバックグラウンドなので、バッグの生地もオリジナルにこだわりたかった。そこでインビスタ社にかけあって、自分たちのアイデアを提案しました。実際に工場まで足を運び、打ち合わせを重ね、インビスタ社の承認を得た理想のコーデュラナイロンをつくることができたのです。最も壊れやすいパーツであるジッパーにはグレードの高いYKK社製を、レザーパーツには国内最高峰レベルと言われる栃木レザーを、プラスチックパーツにはアメリカ軍の軍装品にも採用されているウージン社製を使っています」

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F/CE.で定番的な人気を誇るバックパックは、耐久性に加えて非常に軽量なオリジナルのコーデュラバリスティック・ナイロンを採用。シーズンを重ねるごとに、ディテールに改良を加え使い勝手のよさを追求している。バックパック(左)¥24,000・(右)¥26,000/ROOT

ファンクショナルであることは時代の要請

2010年以降のファッションにおいて着目すべきキーワードは、毎日のアクティビティーにおける“機能性”であろう。F/CE.のバッグは、決して奇をてらったようなデザインではなく、基本はあくまでもオーセンティック。都会の日常に求められる機能とファッション性にこだわるのはもちろん、アウトドアや旅先でも便利な工夫を凝らしているのが特徴だ。デザイナーの山根夫妻が実際に旅したさまざまな国で得た体験、そこから見えてくる問題点や改良点がモノづくりのヒントとなるそうだ。

春山「それまでの経緯も知っていましたし、バイヤーとしての経験もあったので“ここをこういうふうにしたらいいんじゃない?”と意見することが多くなりました。それなら、一緒にデザインをやってみようということになり、2011年から一緒に仕事をするようになりました。実際に子どもを連れて海外に出かけると、重くてかさばったり、雨で濡れてしまったり、いままで使っていたバッグの不満点がたくさん見えてくるのですね。そうしたことが次のシーズンへのアイデアにつながっていきます。多い単なるおしゃれとしてのバッグよりも、キャンプや旅行といったアクティビティーを快適に過ごせるバッグを求めている人がたくさんいるということがわかってきました」

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ベストプライスであることへのこだわり

F/CE.の躍進を支えるもうひとつの強みとして挙がるのは、消費者目線でリアルな価格設定であること。国内外の人気バッグブランドと勝負できるプライスでなければ、手に取ってすらもらえないという現状があるからだ。F/CE.では、作り手にとっても受け手にとっても適切な価格であることを常に意識しているという。実際、アパレル関係者や同業他社から“このクオリティーでこの価格なの!?”と言われることも少なくないそうだ。

山根「決して安さを求めているわけではありませんが、買いやすさは意識しています。先ほど話したとおり、F/CE.のバッグにはオリジナルの生地と高単価のパーツを使っています。製造工場とのやりとりはもちろん、それぞれのパーツの仕入れまで、商社を入れずに自分たちでやっています。だから、そのぶん浮いたコストをプライスに反映することができるのです。ブランドを始めたときはユニセックスな雑貨を手がけていたので、現在のようにバッグが主軸のブランドになるとは自分自身想像していなかったのです。改めて考えると、バッグブランドはこうすべきという常識にとらわれず、ひとつひとつの課題をフレキシブルに対処してきたからこそ、いままでにないビジネスモデルを作ってこれたのかなという自負はあります」

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某有名アウトドアブランドのバッグ製造を手がける工場によるシリーズが、こちらの“ドライライン”。縫製に糸を使わず、特殊な圧着技術によって仕上げられた完全防水仕様だ。バックパック(黒)¥19,000、(青)¥22,000/ROOT

多忙を極める日々のなかでの東コレ参加

現在、山根氏はF/CE.を主に取り扱う代官山のセレクトショップROOTに加え、デンマークのアウトドアブランド“NORDISK(ノルディスク)”のリテールパートナーとなり、世田谷区砧にコンセプトショップも運営している。さらに、国内外で高い評価を得ているポストロックバンドtoeのベーシストとしても知られている。一方、公私にわたるパートナーの春山氏も、デザイナーでありながら二児の母でもある。こうした多忙な日々を送りながら、東京コレクションに参加し、業界内外から好意的なレビューを獲得した。

春山「夕方以降は、意識的に仕事の連絡を断つようにしています。そうしないと育児も仕事も中途半端になってしまうからです。東コレは本当に疲れました……(笑)。コレクションで発表した服やバッグを雑誌やWEBで紹介していただいても、もうその時点では生産が追いつかないからです。やっぱり3月開催という時期的な問題は大きいですね」

山根「今回、東京ファッションアワードを受賞したことでランウェイを行ったのですが、ショー自体はあくまでもプロモーションの一環として考えました。デザイナーとしてのバックグランドをたくさんに見せることができたことは重要ですし、非常に貴重な体験ができたことに感謝しています。またノルディスクについては、ビジネスの形態もブランドの世界観もF/CE.とはまるで違うので、はっきり分けて仕事をしています。ショーの音楽はtoeで作りましたが、バンド活動についても仕事とは別の頭でやっています」

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F/CE.をフルラインナップで取り扱い、国内外から買い付けたウェアや小物も販売する旗艦店が、代官山のROOT。住所 東京都渋谷区猿楽町4-5 J&Hビル1階 営業時間 12:00-20:00 Tel 03-6452-5867 http://root-store.com/roots

二人が考えるブランドのこれから

独立から会社を成長させつづけ、専門的な知見をもつ従業員を迎え入れたいま、会社の10年後、20年後も見据えながらモノづくりにあたる両氏。アパレル不況が叫ばれ、閉塞的なバッグ業界に風穴を開けた、二人の行動力と企画力は今後どこへ向かうのだろうか?

山根「現在は全体の売り上げの2割が海外で、主にヨーロッパとアジアに卸しています。今後はその比重を高めていきたい。関税と輸送コストがあるので、日本国内の値段の2倍近くになってしまうのですが、こうした商習慣の違いや障壁を乗り越えて、我々が考えるベストプライスで世界中に売っていきたいですね。今シーズン(2018AW)からいままでのモノづくりで培ってきた経験を軸に、本格的に洋服の展開もスタートします。F/CEの根底にある機能をデザインするスピリットや、さまざまな国から得たインスピレーションを人物像に落とし込み、総合的なブランドを目指していきます。それから、いままでやってこなかったコラボレーションにも取り組んでいますので、楽しみにしてください」

春山「F/CE.はメンズブランドというイメージが先行していますが、ユニセックスで使えるアイテムが多いのです。やっぱり、男性と女性ではファッションにかけるお金が違う。リボンがついたような可愛いいデザインではなくて、男性目線でも“そのバッグいいね!”と言ってくれるデザインが理想です。女性も楽しめるアクティビティーが増えているので、これからはより積極的にデザインに関わっていこうと思っています」

Photograph:YUKO CHIBA(DOUBLE ONE
Text:Takuro Kawase

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