旅と暮らし
長いキャリアを誇りつつ進化を続けるふたりがそろって来日
UKジャズとUKソウルが合わさる夜をコットンクラブで。
2018.07.17
コートニー・パインとオマーが9月にそろって来日し、丸の内コットンクラブでジョイント公演を行う。このスペシャルな組み合わせによる日本公演は、2017年5月に続いて今回が2度目。自分は評判のよかった前回公演を見逃したので、なんとしても観に行きたいものだ。
コートニー・パインは1964年にイギリスのロンドンで生まれたジャマイカ系イギリス人のジャズ・サックス奏者。サックス(ソプラノ、テナー、バリトンと臨機応変)だけじゃなく、フルート、クラリネット、鍵盤なども操るミュージシャンで、サックス奏者としての概念に捉われない自由で柔軟な進み方が恰好よく、ゆえにいまも若々しい。自由で柔軟な進み方は音楽性にも反映され、とりあえずジャンルでくくるならジャズ・サックス奏者ということにはなるが、レゲエやらソウルやらファンクやらドラムンベースやらカリプソやらアフリカンやらといろいろ取り込みながらそのときのモードを反映させた作品、またはその時代に即した作品をコンスタントに発表しつづけてきた。そんなパインは2000年に大英帝国勲章のオフィサー位を、2009年にはその上級のコマンダー位を叙勲されるほど、英国音楽界においては大御所でもあるわけだが、しかしそれでも貪欲さと旺盛な好奇心をずっと持ちつづけているあたりがこの人の魅力でもある。
一方のオマーは、1968年に北ロンドンで生まれた自作自演の歌手。レゲエ歌手デスモンド・デッカーのバンドのドラマーを父親にもち、その影響で幼少のころからドラムをたたいたり、トランペットやコルネットを吹いたりしていたそうだ。90年にひとりで制作した『There’s Nothing Like This』を父親のインディー・レーベルから発表するとUKソウルチャートのトップに上り詰め、ジャイルス・ピーターソンが設立したレーベル<トーキング・ラウド>から91年に同作が再発されると、日本を含め世界で高い評価を受けることに。続いて翌92年に発表した2ndアルバム『MUSIC』もヒット。当時は英国のスティーヴィー・ワンダーなんていうふうにも呼ばれていたが、そのワンダー自身が92年にオマーの「There’s Nothing Like This」を聴いて才能にほれ込み、その14年後(2006年)のオマーのアルバム『Sing(If You Want It)』では共演も実現した(ワンダーは「Feeling You」でボーカルとキーボードを担当。ワンダーがロンドン滞在時にオマーを呼び、ジャムセッションして生まれた曲だそうだ)。スティーヴィー・ワンダーのほかにもこれまでエリカ・バドゥ、アンジー・ストーン、コモン、リオン・ウェア、ロバート・グラスパーなどなどさまざまなアーティストと共演してきたオマーは、2012年には大英帝国勲章のひとつであるMBE(Member of the Order of the British Empire)を受勲。昨年発表の8作目『Love In Beats』の評判も上々だった。
チャーリー・ワッツらとの共演を経てコートニー・パインがソロ・デビューしたのは1986年だが、自分が初めに好きになったのは1990年にリリースされた『CLOSER TO HOME』というレゲエ作。とにかく気持ちよく、夏に聴くのに最高のアルバム(ジャケットがかなり強烈)だったが、パインは録音が気に入らずに全面改訂したリミックス盤を92年にリリース(ジャケットも無難に変更。90年盤は廃盤となり、いま普及しているのはこっちの盤だ)。それ、夏になると必ず聴き返したくなる傑作だ。傑作と言えば、同じく92年発表の『to the eyes of creatiom』もそう呼ぶのがふさわしい一枚で、アフリカの色合いを濃くしながら完全にオリジナルなジャズをわかりやすく伝えようとしていた。そしてオマーはというと先述したとおりこの頃に『There’s Nothing Like This』や『MUSIC』で天才性を世に示していたわけだが、思えばこの時期(90年~92年ごろ)は本当にUKの音楽が刺激的だった。トーキング・ラウドが設立されたのが1990年。ブラン・ニュー・ヘヴィーズがアシッド・ジャズ・レコードと契約して純1stアルバム『Brand New Heavies』を出したのも90年(エンディア・ダヴェンポートの歌を追加した再発盤で世界的ヒットを記録したのは92年)。インコグニート「Always There」、ガリアーノ「Long Time Gone」、ヤング・ディサイプルズ「Apparently Nothin'」といったトーキング・ラウド発のシングルが次々に全英チャートでトップ20入りしていったのが91年。ジャミロクワイのデビューが92年。新しいUKソウルを印象づけたオマーはもちろん、クラブミュージックに片足を置いてUKジャズを発信したコートニー・パインもそのころはそういうシーンの一翼を担っていたわけだ。
時間は流れ、同じジャマイカ系イギリス人で同じ(または近い)シーンから世に認められていったふたりは、2017年からジョイント・ツアーを開始して、冒頭に書いたとおり昨年5月にそろって来日。そして昨年10月、コートニー・パインは4曲でオマーをフィーチャーした新作『Black Notes From The Deeps』をリリースした。ハービー・ハンコックがプロデュースした笠井紀美子の『Butterfly』表題曲のカバーなどオマーが歌った4曲は確かにふたりならではの化学反応が生れていて、非常に味わい深いアルバム。「Darker Than the Blue」というブルーズ・フィーリングの曲を歌うオマーはちょっとホセ・ジェイムズなんかに通じるところもあったりしたものだ。
ジャズ側からソウルをはじめいろんな音楽にアプローチしてきたコートニー・パインと、ソウル側からいろんな音楽にアプローチしてきて最近は特にジャズ的なヴォーカル表現もよくするようになったオマー。90年代前半のアシッドジャズ的な音楽が再評価されだしてもいるいま、長いキャリアを誇りながらいまだ進化することをやめようとしないふたりのおおらかさと快楽性と内にうごめく何かがあふれ出るステージは、期待以上のものとなることだろう。
プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」でライブ日記を更新中。
公演情報
COTTON CLUB
COURTNEY PINE
with special guest OMAR
コートニー・パイン・
ウィズ・スペシャル・ゲスト・オマー
公演日/2018年9月6日(木)-9月8日(土)
問い合わせ/03-3215-1555
所在地/〒100-6402 東京都千代田区丸の内2-7-3 東京ビルTOKIA 2F
その他詳細についてはオフィシャルウェブサイトにて
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/courtney-pine/