腕時計
バーゼルワールド2018 レポート
ジャケ・ドロー
2018.08.17
年明け1月のSIHH(ジュネーブサロン)に続いて、バーゼルワールドがスイスで3月22日〜27日に開催された。1917年から始まった商品見本市をルーツとして、昨年に100周年を迎えた国際的な時計と宝飾の展示会。多彩な新作が数多く披露された。今年のトレンドは最後にまとめるとして、日本でも人気の高い有力ブランドから注目のモデルをピックアップしていく。
8の字をシグネチャーとするコレクションに、ブランド初のスケルトンを追加
小鳥が羽ばたきながらくるくると忙しく体を動かすだけでなく、ピヨピヨと可愛い鳴き声まで奏でる。これが機械仕掛けとはとても信じられないが、18世紀に活躍した時計師、ピエール・ジャケ・ドローの代表作のひとつ「シンギングバード」として知られている。
こうした「オートマタ」(機械仕掛けの自動人形)で天才的な技巧を発揮した希代の時計師を創業者とするブランドが、ジャケ・ドローだ。創業時の伝説にとどまらず、2012年にはシジュウカラのつがいが動き、卵が割れてヒナが姿を現す「バード・リピーター」を発表。その後も「トロピカル・バード・リピーター」など、オートマタを現代的に発展させた世界限定のハイレベルな超複雑時計を開発してきた。エナメルを得意分野とする装飾性でも高く評価されている。
今年はスイスのラ・ショー・ド・フォンに時計工房を開設した1738年から数えて280周年を記念して、「グラン・セコンド トリビュート」が登場。12時のオフセンターに配置した時分計と、6時位置の大きな秒表示(通常の時計ではスモールセコンド)が8の字を構成する独特のスタイルだが、18Kイエローゴールドのケースにアイボリーのエナメルダイヤルがラグジュアリーなイメージ。この記念モデルは世界限定88本と希少なので、9月以降に発売予定の新作を紹介していきたい。
「グラン・セコンド スケルトン」は、この8の字スタイルをそのままブランド初のスケルトンにした意欲作。時分表示と秒表示にサファイアクリスタルのダイヤルを配置。それによって、深いところまで光を取り込みながらも「8」のシグネチャーを印象づけている。背後にある自動巻きのローターもオープンワークが施されており、スケルトンを遮ることがない。ハイレベルなデザインセンスを高度な技術力で実現した傑作だ。
「グラン・セコンド ムーン」は、同じ8の字スタイルの下部にあたる秒表示(6時位置)の中にムーンフェイズを搭載して昨年発表されたが、やはりコレクション初となるブラックエナメルのダイヤルが新たに追加された。18Kレッドゴールドのケースが官能的とも言える絶妙なコンビネーション。それだけでなく、同じくコレクション初となる39㎜径モデルが追加された。
男女を問わないジェンダーレスとして、シルバーとダークブルー(アベンチュリン)ダイヤルの2タイプ。アベンチュリンのモデルはステンレススチールケースに172個のダイヤモンドがちりばめられている(約1.16カラット)。シルバーのモデルでは月の背後にあるブルーの夜空が美しくコントラスト。針もブルースチールで合わせている。どのモデルも122年に1日の誤差の高精度ムーンフェイズを搭載。浮き出るようなレリーフが施された立体的な月と星の金細工が美しく輝く。
秒表示を伝統的なスモールセコンドにして9時位置に配置したベーシックなスタイルのエントリーモデルが、「グラン・ウール ミニット」。ダイヤルは装飾を可能な限り排しており、インデックスも外周のドットのみ。遮るものがないだけに、ピュアな美しさを存分に堪能できるモデルだ。新たにスレートグレーとシルバーカラーの2種類を追加。グレーダイヤルは針が光沢のあるロジウム加工のステンレススチール。立体感があり、視認性にも優れている。ノーブルで格調高い雰囲気が特徴といえるだろう。税込みで100万円を切る価格も魅力。
問/ジャケ・ドロー ブティック銀座 03-6254-7288
掲載した商品はすべて税抜き価格です。
プロフィル
笠木恵司(かさき けいじ)
時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房や職人、ブランドCEOなどのインタビュー経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)。