旅と暮らし

クレオール語で「交流」を意味するユニットが初来日
卓越した演奏と歌、文化とリズムの交流を体感したい

2018.09.13

内本順一 内本順一

クレオール語で「交流」を意味するユニットが初来日<br>卓越した演奏と歌、文化とリズムの交流を体感したい
Photo by Francois Bisi

10月にブルーノート東京で2日間行なわれるボカンテのライブがとても楽しみだ。今回が初来日であって、自分もまだライブを観たことがない。が、YouTubeでライブ映像を観て、これは最高じゃないかと思った。間違いなく凄いライブになることを確信した。

ボカンテとはどういうバンドなのか。まず、バンドというよりはユニットだ。中心人物としてこのユニットをスタートさせたのはスナーキー・パピーのベーシスト(プロデューサー/作編曲家)であるマイケル・リーグ。ということで先にスナーキー・パピーについて書いておこう。

マイケル・リーグがテキサスでスナーキー・パピーを結成したのは2004年で、その後ニューヨークのブルックリンに拠点を移して活動。彼はJafunkadansionという音楽を提唱していたが、それは何かというと、ジャズ、ファンク、ダンスミュージック、フュージョンを合わせたものだ。要するに大きく括るならジャズだけど、もっとこう踊れるいろんな音楽をあれこれ混ぜたもの。

メンバー構成は流動的で、わりと早い段階で40数人が関わっていたが、その後はさらに増加。それに伴ってブルーズ、アフロ、ラテン、ブラジリアン、ソウル、ディープハウスなどなど、音楽性も縦横と奥に広がっている。

2013年と2016年にはいろんな分野の力ある歌手を起用した『ファミリー・ディナー』という歌ものアルバムを発表。そのVol.1にはレイラ・ハサウェイ、エンダンビ、ルーシー・ウッドワードらを迎え(レイラ・ハサウェイがフィーチャーされた「サムシング」はグラミー賞のベストR&Bパフォーマンスを受賞)、Vol.2ではベッカ・スティーブンス、サリフ・ケイタ、ローラ・マヴーラ、ジェイコブ・コリアー、デヴィッド・クロスビーらが迎えられた。

2015年に出したオーケストラとの共演作『シルヴァ』と2016年の純バンドによるオリジナル作『クルチャ・ヴルチャ』は、2作続けてグラミーのベスト・コンテンポラリー・インストゥルメンタル・アルバムを受賞。また、スナーキー・パピーの所属メンバーはそれぞれ自由にあちこち客演したり別活動をしたりしていて、わりと最近ではドラマーのロバート・シーライト(ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』などにも参加)とパーカッションのネイト・ワースが中心になったバンド、ゴースト・ノートが7月に単独初来日してブルーノート東京で公演し、評判を呼んだりもした。

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Photo by Francois Bisi

気品と艶のあるティロリエンの魅力的な歌

スナーキー・パピーについての説明が長くなってしまったが、今回紹介するボカンテも要するにその派生ユニットといったもので、マイケル・リーグのほかに、ギターのボブ・ランゼッティ、同じくギターのクリス・マックイーン、J-Squadでも活躍する日本人ドラマーの小川慶太といった来日メンバーがスナーキー・パピーの一員だ。

ほかの来日メンバーはラップ・スティール・ギターのルーズベルト・コリアー、マーカス・ミラーのバンドでもプレイしていたドラムのルイス・ケイトー(本公演ではベース&ヴォーカルでの参加)、スティングのツアー・メンバーでもあるパーカッションのジェイミー・ハダド、ヴェーセンにも参加する同じくパーカッションのアンドレー・フェラーリら。そして最後になってしまったが、このボカンテの主役と言えるフロント・シンガーがマリカ・ティロリエン。この人の歌が実に魅力的で、気品と艶と躍動感がある。

マリカ・ティロリエンはカリブ海のフランス領グアドループ島で育ち、R&B、ジャズ、ヒップホップなどにハマっていったというシンガー。メロウなジャジー・ソウルで持ち味を発揮するが、曲によってはラップも披露する現代的な女性だ。

しかもアフリカっぽい大らかさや、カリブ海特有の明るさとその地のリズム感覚が歌に表われもする。母語のクレオール語で歌うことも多く、さまざまな文化が表現の底で混ざっている感じだ。そんな彼女は2014年にソロ・デビュー作を出しているが、その前に前述したスナーキー・パピーの『ファミリー・ディナー』(2013年)でソウルナンバー「I’m Not The One」をスケール感豊かに歌い上げていたのも評判になった。

ボカンテのノースシー・ジャズ・フェス出演時のライブ映像をYouTubeで観ると、ティロリエンは自身で手元のループマシンを操作しながらスキャットをループさせ、静かに歌い出したと思ったら途中からどんどんエモーショナルになり、やがてラップで物語を読み聞かせるような表現を。そのあとはスナーキー・パピーのドラムとパーカッションが生み出す複雑かつ原初的なリズムに軽やかにノって歌いながら歓びを表現し、観客たちを「ゲットアップ! ゲットアップ!」と煽って総立ちにさせると自身も腰を振ってダンス。

後半で前衛ジャズ的なギターが切り込んでいくとさらに彼女は高みにのぼっていき、その歌唱の幅とスキルの高さに観客たちもメンバーたちまでもその場で大喜びしているのがわかった。どんなリズムもどんなサウンドもどんな即興も柔軟に受け入れて歌でノッていける、そういう卓越した技術力と表現力を有したシンガーなのだ。

因みにボカンテとはクレオール語で「交流」を意味するそうだが、ステージで展開されているそれはまさに音と声、文化とリズムの交流そのもの。つまり超ハイブリッド。ボカンテは昨年の1stアルバム『ストレンジ・サークルズ』に続いて、この9月にはボカンテ・アンド・メトロポール・オーケストラ・アンド・ジュールズ・バックリーの名義でニュー・アルバム『ホワット・ヒート』を発表するが、それを置いといても(聴いてから行っても聴かずに行っても)10月の初来日公演は絶対に面白いものになるはずだし、絶対にとんでもない盛り上がりになるはず。見逃がすと、あとで後悔することになるだろう。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。ブログ「怒るくらいなら泣いてやる」でライブ日記を更新中。

公演情報
BOKANTÉ
ボカンテ

公演日/2018年10月10日(水)、11日(木)
会場/ ブルーノート東京
料金/ 7500円(税込)
その他詳細についてはこちら>>

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