お酒
バランスのよいカナダの赤ワインの魅力を端的に表す一本
トーズワイナリー - ランドリー・ヴィンヤード カベルネ・フラン 2013
[今週の家飲みワイン]
2018.09.28
「世界の最高峰クラスのワインがこの価格で楽しめるのは、とても魅力です」と梁さんが絶賛するカナダワインの4本目は、2本目のノーマン・ハーディと並んで、カナダの東海岸を代表する生産者、トーズワイナリーのカベルネ・フラン。2010年から3年連続で最優秀カナダワインに選ばれたほどの実力派ワイナリーの自信作だ。
オンタリオ州ナイアガラ半島で、1990年代よりトーズ家によって営まれている、小規模・家族経営のワイナリー。美しい建物、ビオディナミで育てられているぶどう畑、その横では羊や山羊などがのどこかに草を食(は)んでいるという、サステナブルな農業を目指し、実践している。
カベルネ・フランは仏ボルドーが原産で、カベルネ・ソーヴィニヨンなどとブレンドされることが多い。ほどよくしなやかな渋みと酸味を併せ持った繊細な味わいが特徴で、ブルーベリーやカシス、さくらんぼや木イチゴといった果実味が際立つぶどうだ。トーズワイナリーでは2001年より100%カベルネ・フランをリリース。
多数の品種を育てながらも、あえて力を入れているのは、ナイアガラの厳しい気候風土のなかでカベルネ・フランを育てることが、とても理にかなっていると判断したから。いまではランドリー・ヴィンヤードは、60%が樹齢20年以上と、ナイアガラ地区でも最も樹齢の進んだカベルネ・フランの畑のひとつとなっている。オンタリオ湖のおかげで過酷な寒さが緩和され、香り高く複雑な味わいのワインが生まれるのだという。
グラスを近づければ、清涼感のあるドライハーブと、ブルーベリーやブラックベリーの濃厚な香りが立ち上がり、口に含めば果実味があふれながらも、ほどよいタンニンと酸がバランスの取れた、エレガントなワインとしての魅力を存分に発揮してくれる。いい意味でクラシックながらも、ボルドーのカベルネ・フランの、新たな魅力が開花したといっていい。
「カベルネ・フランというぶどうを単一品種で醸造したという意味では、この一本は完全無欠のバランス。どこにも欠点が見いだせないほど。」と梁さんの評価は実に高い。
「これもひとえに、無理をしなくともぶどうが熟すのを待って、ごく自然に醸造することで見事なワインになってくれるという、カナダ東部の恵まれたテロワールによるところが大きいですね。作られた美しさを感じず、すごくナチュラルでバランスの取れた美しさを感じさせてくれます。しかも、ナイアガラのテロワールを生かしながらも、ワインの造りとしてはインターナショナルなニーズに合った方向を向いているのがまた魅力。残念ながら、温暖化は厳然とした事実です。これまでの銘醸地で、厳しい局面を迎えているところもたくさんあります。それは悲しいことですが、こうして新たに光が当たる土地もある。そのダイナミズムを知り、受け入れていけば、新たなワインの楽しみ方が広がるのも事実です」と梁さん。
この非常にバランスのよい一本は、チーズやドライフルーツに合わせて、ワインそのもの存在感を存分に味わうのもよし、ステーキやシチュー、またスパイシーな料理に気軽に合わせても、その度量の広さを発揮し、すんなりと料理を受け止めてくれるのがいい。価格は¥5,000とやや値が張るが、梁さんのお墨付き、ぜひ、試してみたい。
Photograph:Makiko Doi