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腕時計
グランドセイコーが刻む「時のモノ語り」
第八回
2018.10.12
仕合わせの時間
作家 矢島裕紀彦
来月、結納なんです。同じ職場で出会った彼と。式は来春を予定しています。エンゲージリングは、ひと粒のピンクダイヤモンドがついてるの。近未来の花嫁は、少しはにかんだように俯(うつむ)いて続ける。彼への結納返しのことを両親に相談したら、母が「銀座のテーラーでスーツを誂(あつら)えたらどうかしら」とアドバイスしてくれました。
それで、次の日の昼休み、彼にそのことを伝えると、ちょっと困惑したような面持ちで、「俺、基本、スーツ着ないからなあ」と頭をかいた。わたしたちの勤務先は、子ども向けアプリの開発会社。職場全体が自由闊達(かったつ)な雰囲気で、クリエイターの彼のファッションはすごくラフなんです。そのくせ妙に堅実な実用主義でもあるから、「スーツをつくってもお蔵入りさせとくだけじゃ却(かえ)って申し訳ない。折角なら日常的に長く使えるものがいいかな」なんて言うんです。しばらく思いあぐね、ふとわたしの頭に浮かんだのが父の腕時計でした。彼も同じことを考えついて、宝物を発見したときの子どものように目を輝かせて、「時計なんてどうかな。君のお父さんがしてるみたいなやつ」と言いました。
父は航空管制官なんです。花嫁は言葉を続ける。「お客様の大切な命と時間を預かる仕事」。父は日頃からそんなふうに言っています。温厚にして冷静沈着、そして芯には厳格な強さがある。そうした性格も、職業柄からくるものでもあるのでしょう。毎日、仕事に出かける前に、時計を左手首に巻く。すると、表情まで引き締まる。父にとってはそれが、仕事モードに切り替わるひとつのスイッチになっているようです。
わたしはそんな父の腕時計が大好き。クラシカルな趣の中に重厚感がある。誠実に、「確かな信頼」を目指すというのが父の生き方のポリシー。「周囲から信頼されるような人間になれ」と、わたしも子どもの頃、よく言われました。父の腕時計は、そんな持ち主の姿を映し出しているよう。父は、家ではこの時計の置き場所をリビングの棚の飛行機の模型の脇と決めています。帰宅すると時計を外して所定の位置に収め、静かにひとりの家庭人に返る。わたしは、そこに置いてある父の時計を見るだけで、頼もしさと安らぎを感じる。そう、結納返しはやっぱり時計がいい。父と同じGSのロゴの入った腕時計。彼とわたしはそう決めました。
その夜、ふたりで相談したことを父に告げると、父は改めて時計をわたしの手に持たせ、「この時計はね、母さんにもらったんだよ」と言いました。そして、こんな打ち明け話をしてくれた。
「父さんはね、はじめパイロットを目指していたんだ。ところが、航空会社に入社してパイロット養成訓練も終わる頃、転倒する自転車の母子(おやこ)を助けた弾みで怪我をし道を閉ざされてしまった。父さんはひどく落ち込んだ。会社も辞めてしまった。そんな時、CAだった母さんが、そばで見守り続けてくれた。自暴自棄になって何もかも投げ出しそうになるのを、『あなたはパイロットの夢を失ったかもしれないけど、自転車の母子の命を救ったのよ』と励ましてくれた。その言葉でなんとか立ち直り、航空管制官という新たな目標を見つけ、勉強し直し、再出発することができた。その再出発のお祝いに、母さんがこの時計をプレゼントしてくれたんだ。嬉しかったなあ」
いつになく照れた顔つきの父の傍らに、いつのまにか母が立っていました。
「母さんだって嬉しかったわ。だって、そのとき、父さんがプロポーズしてくれたんだもの」
先週末、彼とふたりで腕時計を選びにいきました。少し若向きのスポーティなデザインのもの。お店を出るとき、彼はわたしに言いました。「これから一緒にたくさん、仕合わせの時間を紡いでいこうね」と。
※この物語はフィクションです
グランドセイコー スポーツコレクション
キャリバー9F 25周年記念限定モデル
SBGN001
グランドセイコーマスターショップ専用モデル
クオーツムーブメント キャリバー9F86、日常生活用強化防水(10気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、年差±5秒(特別精度)、ケース・ブレスレットはステンレススチール、直径39.0㎜、¥370,000(税抜き)、数量限定800本。
グランドセイコー スポーツコレクション
SBGN003
2019年1月12日発売予定
グランドセイコーマスターショップ専用モデル
クオーツムーブメント キャリバー9F86、日常生活用強化防水(10気圧防水)、耐磁時計(JIS耐磁時計1種)、年差±10秒、ケース・ブレスレットはステンレススチール、直径39.0㎜、¥330,000(税抜き)
問/グランドセイコー 0120-302-617
Text:Yukihiko Yajima
Photograph:Tetsuya Niikura(SIGNO)
Styling:Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)
Illustration:Hiroko Takashino