旅と暮らし

唯一無二の生きざまに学ぶ存在感のきわだたせ方
映画『ボヘミアン・ラプソディ』
[美しき映画ソムリエ]

2018.11.08

東 紗友美

唯一無二の生きざまに学ぶ存在感のきわだたせ方<br>映画『ボヘミアン・ラプソディ』<br>[美しき映画ソムリエ]

今年ももう11月を迎え、たくさんの物語と出合った一年でした。そんななか、際立って印象深かった作品が11月9日公開の伝説的なバンドクイーンのフレディ・マーキュリーの生きざまに焦点を当てた『ボヘミアン・ラプソディ』である。今年のラストスパートのためのパワーをみなぎらせてくれる力をもった感動作だ。

まず注目してほしいのは、公開前から映画のプロたちからも圧巻と言われているラスト21分!! ここは、予想以上に涙が止まらなかった。乾燥した空気で崩れないようにしっかりと塗った私のファンデーションにも、涙の跡がぴったりとついてしまうほど号泣してしまった……。

しかし、それほどまでに心動かされたのにもかかわらず、自分が何にこんなにも泣いたのかその理由がしばらくわからなかった。

音楽に泣いたのか。
生きざまに泣いたのか。
仲間との絆(きずな)に泣いたのか。

果たしてなぜ、こんなに涙が出るのだろうか。鑑賞後しばらく経ち、ようやくたどり着いた答え。それは、フレディ・マーキュリーという人物の唯一無二の存在感。それが、私の心を揺さぶったということでした。

『ボヘミアン・ラプソディ』サブ2

『ボヘミアン・ラプソディ』のすごさは、まさにそれなのだ。映画を紹介することを生業(なりわい)としている私に、ずば抜けた人の存在感に圧倒され涙が流れるという初体験をさせてくれた。圧倒的な人物を前に、「もう一生こんな人には出会えないかもしれない」「この瞬間は二度と来ないかもしれない……」と、言葉が何も浮かばなくなる。そんな貴重な時間を過ごさせてくれた。

大辞林によると、存在感についてこう述べられている。
――その独特の持ち味によって、その人が紛れもなくそこにいると思わせる感じ。 そこに確かに存在しているという実感。――
そう説明されている。

さて、その存在感とはいったい、何から生まれるのか。答えはいくつかあるのかもしれないが、映画を通し気づいたひとつの結論。存在感がある人とは、大前提として上手に自己主張する能力がある人。「なんでもいい」をできる限り選択しない人なのではないだろうか。

もちろん日本人の謙虚さ、周りに合わせる力は美徳だ。でも時には、攻めの姿勢が大事である。いまの人は、わかりやすい言葉で言うと「トンがって」なさすぎるのかもしれない。皆スマホとにらめっこばかりしているせいか、主張がうまい人も減った気がする。「小さくまとまるな」と入社式のスピーチでよく語られている印象だが、数年後には自分の個性を潰してしまう若者が多くないだろうか。

今年61歳を迎えるソフトバンクの孫正義社長は、どんどん新しい会社を買収していまも世界一の企業を目指している。そもそもいま考えるとIT会社がボーダフォンを買ったことも相当アグレシッブな姿勢でもあったとうかがえる。

『ボヘミアン・ラプソディ』サブ4

時代の寵児であり唯一無二のカリスマ性をもつフレディ・マーキュリーには、私はなれない。でも、映画から垣間見える彼について考えてみることで少しだけエッセンスを取り入れることができるのではないか。

そしてあの天才と呼ばれた彼でさえ、外見のコンプレックスや、人に言えない悩みを抱えていたこともわかるので、凡人の私は小さな短所や欠点にこだわらず、攻めの気持ちで、日々楽しみながら生きていきたいものだと思えるようになれたのがとてもすがすがしかった。

最後に、観る前に知っておくといいことに触れておきたい。親日家としても有名なフレディ。日本では、海外公演数世界第3位を記録し、1975年4月17日の初来日から1985年まで計6回50公演をこなし、羽田空港に彼らが到着すると3000人以上のファンが集まっていた。それだけここ日本でも一世を風靡(ふうび)したクイーンだが1986年生まれの私にとって有名な曲は何曲か知っているがドンピシャ世代ではなく、フレディ以外のことはあまりよく知らなかった。

しかし「1億人の飢餓を救う」というスローガンのもと1985年に開催された「アフリカ難民救済」を目的とした20世紀最大のチャリティーコンサートであるライブ・エイドに関しては簡単にググっておくとよりよいかもしれない。 このライブを再現した模様が素晴らしく、キャストたちに思わず敬礼さえしたくなるのだから。特にエンタメの世界で働く人はライブ・エイドについて知っておいて損はなさそうだ。

映画製作のスタッフとして音楽総指揮にクイーン創設メンバーであり世界的ギタリストであるブライアン・メイも名を連ねている本作は、劇中に全28曲が登場し映画館がコンサート会場に変化する。

権利的な問題をどうにかくぐり抜けJASRACがオーケーしてくれるのであれば、会場に来た人と手を取り、合唱上映をしたいと密かに思わずにはいられない傑作音楽映画だった。
フレディ……ユー・アー・ザ・チャンピオン!!!

『ボヘミアン・ラプソディ』日本版ビジュアル

『ボヘミアン・ラプソディ』
公開日:2018年11月9日(金)
監督:ブライアン・シンガー
製作:グラハム・キング、ジム・ビーチ
脚本:アンソニー・マクカーテン
出演:ラミ・マレックほか
配給:20世紀フォックス映画
©2018 Twentieth Century Fox

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