紳士の雑学
靴好きが集うソーシャルクラブ、
「紳士靴探究塾」体験記。
2018.12.03
原宿駅の宮廷ホームに近い千駄ヶ谷3丁目界隈。その閑静なマンション街の一角で、無類の靴好きが集まり行う、紳士靴の勉強会があるという。澄み切った秋晴れも清々しい11月の某日。正式名称を「紳士靴探究塾」と呼ぶ、その勉強会への取材の機会を得た。
磨きの達人と修理の達人が導く紳士靴探究の醍醐味
発起人は、靴磨き職人の「Brift H(ブリフトアッシュ)」代表、長谷川祐也氏と、靴修理職人兼シューズデザイナーの「Studio-hidden(スタジオ ヒドゥン)」代表、佐藤正兼氏。共に職歴15年余であり、世代も近しく、そして、すでにいくつかの逸話に彩られるこの二人の若きマイスターがタッグを組み、紳士靴を“修理”、“靴磨き”、“デザイン”、などの観点を通して探究する私塾として本年8月に立ち上げたのが、この「紳士靴探究塾」。この度は、その第2回開塾となる。
会場は“職人のセレクトショップ”をコンセプトに掲げる「Studio-hidden」の店舗兼工房。開始も間近になると、期待を隠しきれない面持ちの参加メンバー10名程度がそれぞれの席につき、用意されたワインの味には気もそぞろ、イベントのはじまりに固唾をのむといった状況となる。
解体にどよめき、修理に感動する、塾生興奮の実演講義
定刻通り、長谷川氏の挨拶を皮切りに、いよいよ開塾。まず、本日のプログラムは、最初に佐藤氏の行う紳士靴の解体、次に同氏の靴修理の実演、最後に長谷川氏の指導による参加者自身の靴磨き体験、この3部構成であることが案内される。予定される4時間が濃密なものになるという確信で、塾生の目の輝きは一段と増している。
いよいよ第一部の始まりとなり、佐藤氏によって解体する靴が発表されるやどよめきが起きる。解体する靴として選ばれたのは、英国はノーザンプトンの地に130年近い歴史を刻む大名門の作る靴だったからだ。その興奮冷めやらぬうちにも、佐藤氏の解体作業は粛々と進む。やがて、グッドイヤー製法の内部が顕になったところで、興味の対象はそのシャンクの扱いに向けられ、長谷川氏も交えた全員の参加による活発なディスカッションへと転じ、第1部にして熱気は一気に上昇する。
短い休憩を経て、始まった第2部は、ヒールの交換。佐藤氏は慣れ親しんだ道具とオランダ製の大きな研磨機を駆使して、的確な説明を加えながら手際よく作業を進める。しかし、思った以上に作業工程は多く、丁寧な仕事が要求されることを知り、比較的かんたんな作業を想像していた多くの塾生はひとしおの感慨にふけるのだった。
気のおけない体験学習で覚える職人の技
サンドウィッチ(美味!)とワインで空腹を満たした後は、ほんのりとほろ酔い気味での靴磨きの講習会。それぞれが持ち寄った大切な靴を磨き上げていく。長谷川氏のウィットに富んだ語り口も相まって、現場の雰囲気は和気あいあいとしたものなのだが、教わる技は紛れもないプロのもの。シューシャインクロスの持ち方から、シューズの取り回し方、正しい手順やクリーム類の扱い方と、寸分の手抜きもない指南によって、神髄を知ることとなる。
“日本の紳士靴文化を修理、磨きからも発展させよう!”という理念の下に始まったという「紳士靴探究塾」。そこでは、師範と塾生との敷居が低く、忌憚のない交流が育まれている。マニアックなアプローチも、気負いなく実行されている。SNSなどでは得ることが難しい、深身のある知識に触れることができる。靴を巡る社交クラブ。そんな趣を感じるのは筆者だけではないはずだ。
今後は、ゲストスピーカーの招聘も視野に入れ、さらなる充実を図った定期開催を計画するという「紳士靴探究塾」。今後の動向におおいに注目していきたい。
問/Studio-hidden(スタジオ ヒドゥン)03-6885-4573
mamo@studio-hidden.com
Photograph:Yuki Kohara
Text:Koki Nakasu