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2018年、ここが気になった! そのファッション大丈夫?
2018.12.26
2018年の暮れも迫ってきました。そこで毎年恒例、メンズファッションイラストレーターの巨匠・綿谷 寛さんをお迎えし、アエラスタイルマガジンの山本晃弘編集長との今年話題となったファッションをチェック! 目利きならでは、「この着こなし、どうなの?」と話題の人、トレンドを辛口で総括します。
小物使いは? でも改革の精神を着こなしで見せた元貴乃花
編集長 昨年はトランプ大統領を俎上(そじょう)に載せましたが、政治家ではあれを超える人はいなかったですね。登場人物が、あまり変わり映えしない。むしろ気になったのはスポーツ界。
綿谷さん(以下敬称略) いろいろ話題の人が出てきたけど、元貴乃花親方かな。あのストール姿がね。なんでいつも巻かずに垂らすんだろうね。
編集長 格闘技系だからでしょうか。
綿谷 確かにセンスがいいとは思うけどね。
編集長 基本的におしゃれさんでしょう。マフィアみたいと言われる麻生財務大臣もそうだけど、クラシックなイタリアスタイルでファッション好きなんですよね。スーツのサイズ感、色のセンスもツボを押さえている。
綿谷 それでいて自分の主張も感じさせるのはさすが。いままでの角界とは違います、というスタンスが服にも表れてる。
編集長 その意味ではずしちゃったのが、日大アメリカンフットボール部の内田前監督。
綿谷 確かに辞任会見にピンクのネクタイというのはちょっと……ピンクは日大アメリカンフットボール部のチームカラーなんだよね(※正しくはレッド)。
編集長 ああ、それでピンク。
綿谷 おしゃれだとは思う。個人的にピンクのタイってロマンチックで好きだけど、「華麗なるギャツビー」っぽくて……。でもあの場の意味がわかるなら、せめてネイビーの無地とかにしないと。
編集長 学問やお役所の世界だけで生きている人って、こういう失敗をやりがちな気がします。外の世界と触れていないからでしょうか。わが道を行くって感じで。
綿谷 野球だと、復帰した巨人の原監督も気になる。
編集長 還暦を迎えた割に見た目は若いけど、コーディネートが地味なんですよね。
綿谷 ジャケットとパンツの組み合わせが多いですね。でも、なんか中途半端な感じがする。ジャケットスタイルって難しいんだよね。あんまり女子ウケしないし(笑)。スーツのほうがわかりやすい。覚えなければいけない着こなしの約束事も少ないから。
スマホでスーツをオーダーする。ZOZOスーツってあり!?
編集長 スーツと言えば、ZOZOスーツ(ZOZOSUIT)も話題になりました。センサー付きの専用スーツを着て、スマホで撮影するんですよね。
綿谷 あれはどうかなぁ。僕なんかオーダーはお店で採寸しないとダメ。
編集長 どうやって着て測定したかによって、データも違ってきますよね。実際、測ってつくったのに合わないというSNSやWEB記事もよく見かけます。「ダメでした。肩が入らない」とか。
綿谷 ZOZOスーツの記者会見の写真を見ても、前澤社長のスーツからして合っていない。
編集長 前澤社長自身、普段からスーツを着ている印象がないですしね。スーツに対する愛が、あまり感じられない。
綿谷 安いのかな。
編集長 3万9900円。
綿谷 え、意外にするんだね。もっと安いかと思った。ZOZOに限らず、最近だと採寸して1週間で届くのもあるんでしょ。変わったね。
編集長 そう、オーダーはどんどん手軽になってきています。スピード、値段、クオリティーの競争ですよ。確かにそれで満足いくものがつくれるのであれば、人気になりますよね。既製のスーツブランドにとっては脅威だと思います。
綿谷 最近の若い人のスーツの着こなしって、実際のところはどうなんだろう。
編集長 まだまだなことが多いですよね。あれはテレビに出てくるお笑いタレントの影響でしょうか。変にネクタイをずらしてみたり……。
綿谷 昔はもっとちゃんとしてたでしょ。漫才ブームのころのザ・ぼんちなんてアイビーだったし。
編集長 確かに(笑)素地がありましたよね。いまは、ともかくサイズ感がなっていない。私もイベントなどで若いビジネスマンと会いますが、明らかに体に合っていないスーツを着た人もいます。それを指摘すると、「え、買ったお店では、これでいいって言われたんですけど」とびっくりしている。
綿谷 お店で自分の姿を見て、ちゃんと確認しないとね。
編集長 若いころに間違ったサイズ感で思い込んでしまうと、それをずっとと引きずってしまう。だからこそ、既製であれ、オーダーであれ、最初に自分の正しいサイズを把握することが大切です。
「いいスーツを着ている」ように見えることが大事
綿谷 メンズファッションの流行は、クラシック傾向がさらに進んでいる。
編集長 それは顕著ですよね。
綿谷 パンツの股上が深くなっているでしょう。ツープリーツが復活しているし。ベルトレスも増えてきている。
編集長 そう、英国調。
綿谷 コートだって長くなっているでしょう。
編集長 でもファッション業界にいる人と一般のビジネスマンの距離はまだまだ遠いです。そうしたクラシック傾向は、現状のビジネスシーンにはほとんど浸透していません。「なんでプリーツの入ったパンツはいているんですか」と聞かれることさえありますから。トレンドの時間差はすごく感じます。
綿谷 なるほど。
編集長 まだまだ、細身スーツが一般的です。コートもショート丈が多いですよね。12月のうちはウールのコートを着るなって言われる会社もあるくらいで……。
綿谷 そう、大変だね。そもそもいいスーツを着ているメリットってあるのかな。ブランド品の高級なものじゃなくてもいいけど、仕立てのいいスーツを着ている人と、つるしのそれなりのスーツを着た人、見た人の評価の差はあると思う?
編集長 それは絶対あると思います。
綿谷 そうか。シャツの袖がシングルカフスとダブルカフスの部下がいたら、「そこの段ボール運んどいて」っていう指示はシングルカフスのほうに頼んじゃうかもね(笑)。
編集長 正しくは、いいスーツに見えることが大切なんですよ。「仕事ができそう」ってオーラをまとえる。言い換えれば、よく見えるスーツを選ばなきゃいけない。そして、それが相手に伝わらないといけない。相手の業種や立場までわかって着こなしを決められるくらいであれば、それはもう十分に仕事はできていますよね。
綿谷 そこまでバランスを取れるのであればすごい。やっぱり、スーツスタイルは単に服を着るだけじゃないってことだよね。
プロフィル
綿谷 寛(わたたに・ひろし)/イラストレーター
1957年、東京生まれ。愛称は“画伯”。 1979年、雑誌『ポパイ(POPEYE)』よりイラストレーターとして活動。以後『メンズクラブ』をはじめとして数多くの男性誌に寄稿し、特に1950~60年代黄金期のアメリカン・イラストレーションを継承したタッチで描く正統派のメンズファッション・イラストで人気。クラシックな男の装いについても造詣が深い。一方、コミカルなタッチのイラストと文による体験ルポも人気を博するなど、多彩な顔を併せ持つ。
山本晃弘(やまもと・てるひろ)/AERA STYLE MAGAZINE編集長
「MEN’S CLUB」「GQ JAPAN」などを経て、2008年に朝日新聞出版の設立に参加。同年、編集長として「アエラスタイルマガジン」をスタートさせる。新聞やWEBなどでファッションとライフスタイルに関するコラムを執筆する傍ら、幅広いブランドのカタログや動画コンテンツの制作を行う。トークイベントで、ビジネスマンや就活生にスーツの着こなしを指南するアドバイザーとしても活動中。
Illustration:Hiroshi Watatani
Text:Mitsuhide Sako (KATANA)