旅と暮らし

上海の歴史ある住宅群をリノベしたホテルに泊まり、
スタルジックに浸る

2019.01.18

写真・図版 大石智子

写真・図版

CAPELLA SHANGHAI, JIAN YE LI
カペラ 上海 ジャン イエ リー/中国・上海

写真からして、かつてないスタイルのホテルだった

アマンヤンユン、W、エディション、ブルガリetc.。2017年から2018年にかけて、上海はラグジュアリーホテルのオープンラッシュだった。そのなかで、私が最も泊まりたいと思ったのが、2017年9月にオープンした「カペラ 上海 ジャン イエ リー」。

ひかれた一番の理由は、ユニークなリノベーション物件だったこと。ホテルが立つのは、上海の建築遺産保護区となっている建業里。そこは1930年代に造られた、200軒以上の元住宅が並ぶエリア。つまり、昔の上海人の長屋のような場所の一画が、ホテルに生まれ変わった。一軒の住宅が、客室(ヴィラ)となっているのだ。

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客室(ヴィラ)が並ぶ路地。宿泊するゲスト以外はこのエリアには立ち入れない。

写真を見ると、路地に面して客室の石門が連なる様子に驚いた。そのたたずまいは、いままで知っていた大都市にあるホテルとまるで違う。写真からはタイムスリップしたような空気感が伝わり、ビルではない面白みに好奇心が高まった。

カペラというブランドだったことも大きい。8年前に初めて「カペラ シンガポール」を見たとき、「なんて格好いいホテルなんだ!」とほれぼれした。さらに、宿泊ゲストではなくバーに遊びに行っただけなのに、ホテルのスタッフが館内を丁寧に案内してくれた。メディアの人間だとは、ひとことも言っていない。シンガポールのひとりのスタッフのおかげで、それ以来カペラの印象がずっとよいのだ。

また、このホテルはザ・リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールドにも加盟している。そんなこともあり、どこか安心した気持ちで「カペラ 上海 ジャン イエ リー」へ向かった。

ひとりの時間をもてる4フロア構造がうれしい

上海へは同じくライターをしている女友達とのふたり旅だった。ホテルに向かうタクシーが止まったのは、「建業里」と書かれた石門の前。門は昔の役所のような雰囲気だが、両サイドにはレンガ造りのおしゃれなカフェやブティックが並んでいる。

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ホテル周辺は街路樹が多くて気持ちがいい。門をくぐったところには、おいしいアイスクリーム屋さんがある。

近代的な高層ビルがひしめく外灘エリアと違い、建業里が位置する旧フランス租界地区は、アールデコ調の低めの建物が並ぶ。19世紀中頃から100年近くフランス人居住区だったこの地区は“東洋のパリ”とも呼ばれ、クラシックなしゃれ感を醸していた。女性とデートして歩くにもぴったりの街だと思う。

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宿泊ゲストのみが利用できるレセプション前のラウンジ。反対側にはドリンクやスイーツを常備するライブラリーがある。

広めのリビングルームのようなレセプションで鍵を受け取り、かつては住宅だった客室の前へ行く。家は石庫門(せきこもん)という中洋折衷型のレトロな建築様式。その名のとおり、石の門が特徴で、鉄の扉と高いレンガの壁があるため中の様子は察せられない。プライバシーを重視するホテルにおいて、この構造は好都合だ。

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客室への入り口である鉄の扉。カードキーでの操作となり、意外と開けやすい。

鉄の扉を開けると小さな中庭があり、2つ目の扉を開けて中に入る。外からは2階建てに見えた家は3階建て構造で4フロアあった。計111㎡。1フロアがリビングとトイレ、2フロアがティールーム、3フロアがベッドルーム、4フロアがバスルーム、そして屋上テラスとなっている。

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    鉄の扉を開けると小さな中庭があり、赤茶色の扉を開けるとそこはリビング。
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    1フロアはリビングで奥にトイレがある。インテリアがおしゃれだと、この階でさっそく確信!
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    2フロアは冷蔵庫やお茶セットを備えたティールーム。ソファの向かいにはテレビが置かれている。
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    3フロアは寝室とクローゼット。この階がいちばん天井が高く窓も大きい造りだった。
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    4フロアはバスルーム。アメニティにはイタリアのフレグランスブランド、アクア ディ パルマを採用。
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    屋上から眺める客室(ヴィラ)の並び。周囲に高い建物が少なくて見晴らしがいい。

4フロアの構造を把握していなかった私たちは、正直、「面倒くさいのでは……」とはじめ思ったのだが、3時間で慣れた。忘れものをして階段を上り下りすることも多々あったが、それを繰り返すと不思議と愛着が湧いた。マンションや普通のホテルでは聞かない、階段を駆け上がる音が懐かしい。日本の家のように玄関で靴を脱ぐスタイルなので、足音が柔らかいのもよかった。

初日の夜にディナーを終えて部屋に戻るときすでに、「うち、どの通りだっけ?」と、私たちは客室のことを“うち”と呼んでいた。いい意味で、ホテルにいるという感じがしなくてくつろげた。

また、今回よかったのが、4フロアあるためお互いプライベートな空間を確保できたこと。共に旅先ながらデスクワークを抱えていたが、1フロアが友人、2フロアが私と、仕事場をそれぞれ確保することができた。カップルでも、ひとりになれる空間があるのは気楽だし、離れたり会ったりと張り合いが出るんじゃないだろうか(年がいもなくかくれんぼしてみたい)。

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玄関のような場所で靴を脱ぐ決まりとなっている。

スタッフの対応でうれしかったこともある。私たちは上海到着直後、腹ペコで何か気軽に食べられるおいしいものを欲していた。そこでコンシェルジュではなく、エントランスにいた若い男性スタッフに「ローカルなものを食べたいのだけれど、おすすめはある?」と聞いたところ、彼はホテルから徒歩3分の場所にある麺料理屋を教えてくれた。

5つ星ホテルで「ローカルな店を教えてほしい」と聞くと、そうはいっても、そこそこ小ぎれいな外国人もいそうな店を教えられることが多い。しかし、その麺料理屋は本当に街の人が普段使いするような店で、Googleマップにすら載っていない。副菜3品と麺2杯を頼んで1000円ほど。高菜とイカの炒めものをつるつるの麺にのせて食べれば、まさに求めていたおいしさだった。

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    ふたりで再訪したいと言い合った麺料理屋。烏魯木斉(ウルムチ)南路の上海園菱と言うビルの付近にある。

歴史建築をよみがえらせた、デザイナーがよかった

リノベーション物件は、どうデザインするか案配が難しいところだが、「カペラ 上海 ジャン イエ リー」においては、最高のバランスだったように思う。手がけたのは、シンガポール、バンコク、上海にオフィスをもつ、ブリンク デザイン グループ。ホテルデザイン界のレジェンド、ジャヤ・イブラヒム氏(1948-2015)が設立した会社で、この会社のHPから旅先を選びたいほど、どこもステキなのだ。

彼らは歴史ある住宅をホテルとしてよみがえらせるにあたり、構造はそのまま生かし、デザインは中国的要素と19世紀のフランスのエッセンスをミックスさせた。例えば、パリのアパルトマンのような壁がある一方で、クローゼットや仕切り戸には中国らしい六角形の格子を使用している。レストランの家具は西洋的だが、宮廷のような石壁があり、床のタイルはエキゾチックな花柄だった。

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    ホテルに唯一入るダイニング「ピエール・ガニェール」の内装。
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    「ピエール・ガニェール」は朝食を食べる場所にもなる。

客室で美しいのが、石庫門の住宅によく見られる枠の細かい窓だ。この枠を通して入ってくる光や、枠越しに見る隣家のレンガがなんとも趣がある。4フロア構造なので、当然ながらどの部屋にも同じ方向に窓があり、どこにいてもすがすがしい。

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3フロアにある寝室の窓。

上海は変化のめまぐるしい街であるけれど、「カペラ 上海 ジャン イエ リー」では、時間が止まったようなノスタルジックな空気を味わえる。こういう、優雅さに加え異国情緒を感じられるホテルは、旅の理想の宿。ただそこで生活するだけで、上海の古きよき時代を体感することができるのだから。

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「CAPELLA SHANGHAI, JIAN YE LI」
https://www.LHW.com/capellashanghai
日本での問い合わせ
ザ・リーディングホテルズ・オブ・ザ・ワールド
0120-086-230(平日9:30-18:00、土日祝を除く)
宿泊料金: 3,707.88人民元〜(税・サービス料込)

プロフィル
大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、年に10回は海外に渡航。タイ、スペイン、南米に行く頻度が高い。最近のお気に入りホテルはバルセロナの「COTTON HOUSE HOTEL」。Instagramでも海外情報を発信中。

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