旅と暮らし

ブラジル音楽に対する愛情を込めた新作を携えて来日する
若きトランペッター兼ヴォーカリストの魅力を
ブルーノート東京&モーション・ブルー・ヨコハマで

2019.03.22

内本順一 内本順一

ブラジル音楽に対する愛情を込めた新作を携えて来日する<br>若きトランペッター兼ヴォーカリストの魅力を<br>ブルーノート東京&モーション・ブルー・ヨコハマで
Credit@Jean-Marc Viattel

シンガーでありトランペッターでもある美しき23歳、アンドレア・モティスが4月にブルーノート東京とモーション・ブルー・ヨコハマで公演を行なう。ブルーノート東京での公演は3度目で一昨年のクリスマス以来、そしてモーション・ブルー・ヨコハマには初登場となる。

簡単にキャリアを紹介しておくと、アンドレア・モティスはスペインの大都市バルセロナ出身。トランペッターの父親の影響で7歳から吹き始め、10歳で地元サン・アンドレウ地区の公立音楽学校に入学してジャズを学び、同校の講師でもあったジャズ・ベーシスト兼バリトン・サックス奏者のジョアン・チャモロに師事。そのチャモロが音楽監督を務めるビックバンドのサン・アンドレウ・ジャズ・バンドに9年間在籍してトランペットを吹いた。

歌を始めたのは13歳で、レコードデビューは14歳のときの『Joan Chamorro Presents Andrea Motis』(2010年)。そのアルバム名からもわかるように、アンドレアはジョアン・チャモロが送り出すシンガー兼トランペッターとして活動を始め、その後も両者は共同名義で6枚のアルバムをリリース。その多くはライブ盤であり、つまり彼女はジョアンとの精力的なライブ活動によって力をつけていったのだ。因みにそんなアンドレアが一躍脚光を浴びたのは、2012年にバルセロナで開催されたジャズ・フェスでクインシー・ジョーンズが彼女をステージにあげたことがきっかけだった。

正式な意味での1stソロアルバム『エモーショナル・ダンス』で世界デビューを果たしたのは2017年、21歳のとき。ノラ・ジョーンズやグレゴリー・ポーターの作品に関与したブライアン・バッカスとジェイ・ニューランドがプロデュースを担当したそのアルバムは、彼女の爽やかな歌声によく合ったスウィング曲からブラジル音楽のカヴァーまでなかなか多彩で、聴く層を限定しない作りになっていた。

ビリー・ホリデイのレパートリーとして有名になった「ヒーズ・ファニー・ザット・ウェイ」で軽やかに始まり、ジュディ・ガーランドやバーブラ・ストライサンドも取り上げたフランク・レッサー作の「ネヴァー・ウィル・アイ・マリー」、コール・ポーター作の「ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ」、ホレス・シルヴァー作の「セニョール・ブルース」といったスタンダード曲も重くなりすぎないタッチで歌って聴かせていた。またアンドレアのオリジナル曲も3曲あり、スペインのジャズピアニストであるイグナシ・テラザの曲に歌詞をつけた表題曲は雨の日に聴くのが似合いそうなボサノヴァとして絶品だった。

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Credit@Jean-Marc Viattel

ブラジル音楽の優れたカヴァーに加え、
オルジナル曲では歌作りの才能もアップ

そのアルバムから約2年が経ち、つい先頃リリースされたのが2ndアルバムの『もうひとつの青(原題:Do Outro Lado Do Azul)』だ。こちらは自身の音楽性の幅を見せた世界デビュー作から変わって、ボサノヴァやサンバといったブラジル音楽にスタイルを絞り込んだもの。レコーディングもブラジルで行なわれ、リズムに対する挑戦心をのぞかせながらヴォーカリストとしての表現力を一層アップさせている。

トランペットのソロは前作より少ないが、聴きどころは多い。オープナーはギターを中心にしながら歌う、サンバの巨匠イスマエル・シルヴァの「アントニコ」。アンドレアはまだ23歳だが、抑えた歌唱が大人びて感じる。ジョアン・ジルベルトも歌っていた7曲目「マダムとの喧嘩はなんのため」は彼女の早口が楽しい気持ちにさせるし、ギターと間奏のクラリネットが効いているパウリーニョ・ダ・ヴィオラの「孤独のダンス」は歌にも演奏にも深い味わいがあって引き込まれる。アンドレアの快活な面と大人びた面の両方が感じ取れるアルバムだ。

ブラジル音楽のカヴァーのほかに、自身のオリジナルは(日本盤ボーナストラックを含めて)5曲収録。彼女のトランペット・ソロも聴ける軽快な「ソンブラ・ヂ・ラー」、テンポのいいサンバ「ブリーザ」、カタルーニャ語で歌う「センシ・プレッサ」や「レコル・デ・ニット」など、曲作りの才能にも磨きがかかっていることを実感させられる。ジャズのスタンダード曲はなくなったが、こうしたオリジナル曲にジャズの成分は確かにあるようだ。

ヴォーカル、トランペット、ソングライトと、全ての面で成長しているアンドレアの、このアルバムを携えての来日公演は、ベース、ギター、ピアノ、ドラムスと彼女の5人によるもの。師匠のジョアン・チャモロは今回は来ないが、それだけに伸び伸びと彼女自身が音楽表現を楽しみ、開かれた雰囲気のライブになることだろう。

プロフィル
内本順一(うちもと・じゅんいち)
エンタメ情報誌の編集者を経て、90年代半ばに音楽ライターとなる。一般誌や音楽ウェブサイトでCDレビュー、コラム、インタビュー記事を担当し、シンガーソングライター系を中心にライナーノーツも多数執筆。Note(ノート) https://note.mu/junjunpaでライブ日記などを更新中。

公演情報
ANDREA MOTIS QUINTET
-Do Outro Lado Do Azul-
アンドレア・モティス・クインテット
-もうひとつの青-

公演日/2019年4月23日(火)、24日(水)、25日(木)
会場/ブルーノート東京
料金/7500円(税込)
その他詳細についてはこちら

公演日/2019年4月28日(日)
会場/モーション・ブルー・ヨコハマ
料金/自由席7000円 BOX席28000円+シートチャージ6000円(税込)
その他詳細についてはこちら

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