特別インタビュー

グローバルビジネスにおける
成功の鍵「セルフ・ブランディング」

2019.04.25

安積陽子

ビジネスパーソンが装いに気を配ることは真剣に生きている証しだ。あらゆるシーンで自信が持てる、世界レベルから見る印象の新常識とは?

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自分自身の装いや振る舞いを変えることで、自分の存在感や価値を高めることを意味する「セルフ・ブランディング」は、生き馬の目を抜くようなグローバルビジネスの世界において、大切な自己プロモーションのひとつとなっています。

装いや振る舞いの洗練さが評価されたアメリカのオバマ前大統領は若かりしころ、オーバーサイズのスーツを身にまとい、下向き加減で、ぼそぼそと頼りなげな声を発しながらスピーチをしていていました。大統領としての経験が浅い時期には、ライトグレーと白シャツの組み合わせや、ベージュと白シャツの組み合わせでメディアに登場し、「大統領らしくない」「そのような軽々しい装いでは威厳に欠ける。発言に重みが出ない」と国民から非難を浴びたこともありました。しかしその後、TPOに合わせた装いを実践し、振る舞い方を洗練させていったことで、信頼性とスタイリッシュなイメージを醸成していきました。

さまざまな人種のビジネスパーソンが世界各国から集まるニューヨークでは、年下の上司が年上の部下をマネジメントするケースも少なくありません。ともすると、自分の外見や立ち居振る舞いが相手に与える印象を、客観的に把握することが重要になってきます。特に実年齢よりも若く見られがちなアジア人は、経験や実績が低く見積もられてしまうことも。威厳や自信に欠けて見えてしまう外見は、ビジネスの場で決してメリットにはなりません。そこで彼らは、セルフ・ブランディングの一環としてイメージコンサルティングにアドバイスを求めるのです。

イメージコンサルティングでは、発言に重みをもたせる話し方や、堂々と自信に満ちあふれた歩き方、スマートな握手の仕方、周囲の人々を魅了する表情の作り方、写真の撮られ方など幅広い指導をします。

どのようなレッスンでも、最初に行うのは「セルフ・アナリシス(自己分析)」から。その人自身の顔型や髪型、体型を客観的に分析し、周囲の人々にどんな第一印象を与えているのかを分析します。次に、過去数年間に撮った自身の写真を机の上に並べて、「過去から現在に至る自分のイメージ」と「在りたい姿」「在るべき姿」を明確にしていくのです。この作業はいわば、自分をひとつのブランドに見立てたイメージ戦略会議とも言えるでしょう。

男性は40代になると、更年期に入る人が徐々に増えてきます。加齢によるホルモン量の減少、身体的な衰えに悩む方が出はじめる時期。さらに職場での責務の増加に伴うストレスも心身の大きな影響に。20~30代のころのイメージを引きずると、セルフイメージと実際に他人に与える印象とのギャップが生まれてしまう可能性があります。そうならないために半年?一年に一度、ご自身でイメージ分析をしてみると、新たな気づきが得られるかもしれません。

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私たちは人の「顔型」や「体型」から、その人の印象を無意識に形成します。ご自身のイメージ分析をする際は、最初に自分の顔型と体型がどのような第一印象を与えるのかを、客観的にとらえてみましょう。

まず、顔型から。丸型の方は「温厚」「親しみやすい」「おおらか」といった印象に、長方形の顔型の方は「落ち着きがある」「成熟している」「意思が強い」、四角形の顔型の方は「意思が強い」「意欲的」「頑固」といった印象を与えます。卵型の顔型の方は「バランスが取れている」「現代的」「クール」、逆三角形の顔型の方は「知的」「繊細」「神経質」といった印象です。

顔型に加えて、顔のパーツの特徴も重要です。顔のパーツが中央に集まっている方は「勝気」「真面目」「知的」という印象に。顔のパーツが外側に集まっている遠心顔の方は「穏やか」「親しみやすい」「おっとりしている」といった印象を与える傾向があります。また、顔のパーツの色のコントラストが大きければ大きいほど「エネルギッシュ」、小さければ小さいほど「控えめ」といった印象です。 次に体型ですが、筋肉質の方は「アグレッシブ」「ストイック」「エネルギッシュ」という第一印象になる一方で、ふくよかな体型の方は「温厚」「柔和」といった好印象のほかに、「自己管理能力が低い」という側面も与えます。細身の方は「繊細」「神経質」「理知的」といった印象です。

読者の皆さまも、鏡を見ながら、ご自身の顔立ちや体型が与える第一印象を分析してみたら、次にどのような印象を周囲に与えたいかをお考えください。わかりやすい例を出すならば「社交的」「温厚」「親しみやすさ」「自然体」といった印象をより強く打ち出したいのか、それとも「厳格」「風格」「カリスマ性」「リーダーシップ」といった印象を与えたいのか? 二軸で考えてみてもよいでしょう。現在のご自身のイメージと、他者に与えたい印象との間にギャップがあるのなら、目標とするイメージゴールに近づくための戦略が必要となります。

顔立ちと、スーツ、シャツ、ネクタイから成る「Vゾーン」のコントラストを利用した印象作りの手法をひとつ紹介しましょう。あなたの瞳や眉、口のコントラストが弱い場合、顔から受ける印象は控えめで、中性的な印象になります。しかし身につけるシャツとネクタイ、スーツから成るVゾーンの濃淡をハイコントラストにすることで、控えめだった顔の印象をぐっと強めることができます。

逆に、もともとの顔のパーツのコントラストが強い方がVゾーンの濃淡をハイコントラストにしすぎると、アグレッシブな印象が強くなり、相手に威圧感を与えかねません。このタイプの方が穏やかな印象を演出したい場合は、Vゾーンのコントラストを控えめにし、肌触りのいいテクスチャーの素材をジャケットやネクタイに用いてみましょう。シャツもプレーンなものより織り柄のほうが、より温かみを感じさせることができます。

Vゾーンのカラーコントラストは、濃淡の差が大きければ大きいほど権威や自信、プロフェッショナルな印象になります。究極のハイコントラストを生み出す組み合わせは燕尾服やタキシードのような白と黒ですが、この組み合わせはフォーマル感が強く、ビジネスシーンには不向き。ビジネスシーンでは、黒よりも一段階明度を上げたチャコールグレー、またはダークネイビーに真っ白なシャツを合わせましょう。さらにネクタイ、スーツ、シャツのひとつひとつのアイテムにツヤ感をプラスすれば、ビジネスシーンに適した範囲でよりフォーマルな印象を演出できます。 私が米国での仕事を通して出会ってきたニューヨークのエグゼクティブたちには、オフィスに光沢感のあるシルクのネクタイ、ポケットチーフとボウタイを何点かストックしておき、アフター6のパーティーやイベントに、小物だけさっと付け替えて出席する方もいました。

外見上の印象を高めることは、現代のビジネスにおける成功の必須条件であり、大切なビジネススキルのひとつ。セルフ・ブランディングは、一部の政治家や経営者だけでなく、若手のビジネスパーソンたちにも広がりつつあります。ニューヨークのエグゼクティブたちのような戦略的なイメージ作りを実践していけば、きっと周囲のビジネスパーソンと差をつけられるでしょう。

昔アリストテレスは言いました。「自分を知ることが、すべての英知の始まりである」と。皆さまもぜひ、一年に一度のイメージ戦略会議を開いてみてはいかがでしょうか?

安積陽子(あさか・ようこ)
アメリカ合衆国シカゴ生まれ。ニューヨーク州立ファッション工科大学でイメージコンサルティングの資格を取得。2005年、Image Resource Centerof New York社で各界の著名人を対象に自己演出のトレーニングを開始。09年、同社の日本校代表に就任。16年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立し、非言語コミュニケーションのセミナーや研修、コンサルティングを行う。著書に『CLASS ACT( クラス・アクト)世界のビジネスエリートが必ず身につける「見た目」の教養』(PHP研究所)、『NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草』(講談社 +α新書)がある。

Illustration:Akira Sorimachi

※アエラスタイルマガジンVol.42からの転載です

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