紳士の雑学
マディソン街の老舗ショップ、
ポール・スチュアートがリニューアル。
2019.07.22

クリエーティブ・ディレクターの
ラルフ・オリエンマ氏に聞く!
ニューヨークのマディソン街といえばかつてビジネスマンたちが就業前やランチ時に訪れるメンズウエアの聖地だった。この地でいまもビジネスを続ける紳士服の草分けショップにポール・スチュアートがある。新クリエーティブ・ディレクターに、ラルフ・オリエンマ氏を迎え入れ、1938年に創業した本店の改革に乗り出したという。オリエンマ氏に会いに本店を訪ねた。
まず玄関を入ると、この店に出入りする顧客たちを70年以上も迎え入れている名物のタペストリーがかつてと同じようにかかっている。けれども古き良きアメリカのグラマラスだけれど少し重苦しかった雰囲気が、フロアや照明のリノベーションによって風通しのいいオープンなものに生まれ変わっている。
「リニューアルの意図は、ポール・スチュアートのクラシックなDNAを維持しながら、よりアクセシブルで現代の時代性を反映した場所にすること。ブランドとしても同様に進化しなければならない」

長年社長を務めたクリフォード・グロッド氏が2010年に逝去し、新CEOが就任した。クリエーティブ・ディレクターに指名されたオリエンマ氏が着手したのは、店全体の商品展開に一貫したビジョンを浸透させること、そしてブランドとショップを現代に合わせてアップデートすることだったという。
「ブランドとしてのアイデンティティーは常に確固として存在する一方で、ポール・スチュアート、フィニアス・コールのブランドや各階のコーナーを通じて流れるシーズンごとの一貫したビジョンがなかった。それを作るのが私の仕事です」
熟練のテーラーたちがカスタム・スーツのオーダーに手を貸してくれるセカンド・フロアやテーラリング重視のアプローチを維持しながら、テクニカルな素材を導入することで、ビジネス・カジュアルを進化させる。また初心者に優しい価格帯のセミ・カスタムを提供する「カスタム・ラボ」、リベットやウオッシュを選ぶことのできるデニムのオーダーメイドなど、新事業も開始した。
「ポール・スチュアートは、ビジネス・カジュアルの新ドレスコードを提案する存在になりたいんです」
変わらないのは、店を訪れる体験をスペシャルにするための環境づくり。
「スーツ作りは、男性が自ら素材などを選んで自己表現できるもの。このお店には、そのために必要なアイテムとサービス、そしてクオリティーがそろっている」

ラルフ・オストロフ氏が1938年に創業したマディソンアベニューにあるフラッグシップショップはいまではミッドタウンのランドマーク的存在。中2階も入れて3フロアからなる店舗は、売り場面積2600平米と、いまどきのニューヨークでは珍しく優雅にのんびりと買い物を楽しむことができる。ブランドとしての伝統とアイデンティティーを保ちながら、よりモダン、よりオープンな場所へと現在少しずつリニューアル中である。







「アエラスタイルマガジンVOL.43 SUMMER 2019」より転載
Photograph:Omi Tanaka
Text:Yumiko Sakuma