特別インタビュー

ものぐさ資本主義と
反飛行機運動。

2019.09.27

速水健朗

新しい技術を用いながら、古いものを楽しむ現代人。混沌とした世界のように見えるいま、ライフスタイルはどう変わっていく?

写真・図版

いまどきの世の中、資本主義とテクノロジーでどんどん便利になっている。というのは、やや間違っている。資本主義にもテクノロジーにも、得意分野と苦手分野がある。ものすごく便利になっている領域とそうでない領域とがくっきり分かれつつある。

この夏のお盆休み。家から一歩も出ずに過ごしたという人もいるだろう。なにせウーバーイーツとネットフリックスがあれば事足りる世の中である。コンビニやレンタルビデオ屋に行かなくとも、スマホのボタンをポチッとするだけで食べ物は届くし、ひまもつぶせる。いや、ひまをつぶすどころか、『ストレンジャー・シングス』『全裸監督』といった話題についていくためには、お盆休みをまるごとつぶすくらいの時間と覚悟が必要になる。

ものぐさな人たちが、さらにものぐさになるための手段は、ものすごい速さで発展している。しかも値段は安い。もし、ネットフリックスの月額料金が3000円だったら誰も見ないだろうし、ウーバーイーツの1回の利用料が1000円だったら誰も使わないはず。あまたの企業が競ってユーザーが負担すべき料金を引き下げてくれているのだ。資本主義とテクノロジーがその力を発揮するのは、まさにこうした領域である。

交通手段を変える
パーソナルモビリティー

もちろん、資本主義とテクノロジーが本領を発揮する領域は、それだけではない。アクティブに移動する人たちの手段を増やし、移動のコストを引き下げていることも確かだ。

例えば旅行を例に取ってみよう。チケットもホテルもレンタカー( シェアカー)もスマホで予約して出かけるのが当たり前。初めて訪れる場所でもグーグルマップさえあれば、オートマチックに目的地にたどり着くことができるし、行くべき観光スポットや穴場スポットを事前に把握することもできる。

そして、世界中の都市は、観光地としての輝きを増している。大都市の公共交通機関は、この10年で生まれ変わりつつある。地下鉄やバスといった公共交通機関は、地元の人々はともかく、よそものからすると使いにくい代物だった。だが、スマホの位置情報や乗換案内アプリができたおかげで、公共機関をスムーズに使うことができるようになった。

こうした交通と情報のイノベーションは、さらに次の段階に入ろうとしている。交通公共機関だけでカバーできない地域をカバーする手段として、シェア型のパーソナルモビリティーが普及していくだろう。パーソナルモビリティーとはなにか。セグウェイや電動のキックボードのようなものをイメージしてもらえればいい。これらは、スマホで登録するだけで利用でき、かつ乗り捨てが可能。新しい交通手段の隙間として定着していくだろう。これと似たサービスのシェアバイクは、日本でもなじみのものになりつつあるが、電動スクーター、キックボードは、この次の段階。新しいテクノロジーは、既存のサービスの抜け穴を見つける形で発展している。

エアポート投稿おじさん、
いまでは飛び恥なのか

一方、世界では、競争原理やテクノロジーの発達だけでは解決できない問題への対処の仕方も進んでいる。

ごく最近知った言葉に「Flygskam」というものがある。これは、スウェーデンから始まったムーブメントで、温室効果ガスを排出する航空機はなるべく避け、鉄道を利用しようという主張である。日本でも、〝飛び恥〞と訳されてメディアに取り上げられていた。

こちとら「エアポート投稿おじさん」(数年前にバズったことのあるワード)である。たまに飛行場に行くと、浮かれて飛行機やラウンジの写真をインスタに投稿してしまう。僕は子どものころから、ずっと飛行機が大好きだった。飛行機に乗るのはそれ自体が楽しく、特別なことと思ってずっと生きてきたのだ。まさかそんな飛行機に乗ること自体が批判の対象になるとは、想像だにしなかった。

「Flygskam」という言葉の広がりを伝える朝日新聞の記事(2019年8月21日)には、いまのヨーロッパで夜行列車が人気を呼んでいるという状況にも触れられている。

昔の映画を観ていると、国内といえども移動することの大変さがわかる。

刑事たちが飛び乗った列車は、ボックスの自由席車両。すでに座席は埋まっており通路に座ることになった。一昼夜かけて大阪まで行き、ようやくやっと1人座ることができた。時期は真夏。とにかく暑そうだ。もちろん、エアコンなど付いていない。刑事のひとりはあまりの暑さにカッターシャツを脱いでランニング一丁の姿になる。ランニング姿のおじさんというのは、いまは見かけることもない昭和の光景だ。戦前生まれの僕の祖父なんかも、夏はいつもランニングだった。

話がそれてしまった。当時、東京から九州までの移動には、二昼夜がかかった。寝台車両も存在していたが、庶民はボックスシートの車両で移動したのだ。1958年の当時は、まだ蒸気機関車が主流だった。この映画の直後くらいから、電力やディーゼルへのエネルギーの移行が始まる。ちなみに東海道新幹線が開通するのは、この映画の公開の6年後のこと。当時のテクノロジーの発展のスピードは、目まぐるしい。それに比べると、いまは時代が止まっているかのようだ。

テクノロジーの進化による
価値基準の変容

日本ではほぼ絶滅した夜行列車が、いまのヨーロッパで見直されつつある。この背景は、単に〝持続可能性〞という理由だけではないだろう。スマホの普及で、旅の目的地までの移動がとにかくスムーズにできるようになった。また、行かずとも観光地の様子も手に取るようにわかってしまう。そんな時代においては、旅先にたどり着くことよりも、その過程を楽しむことに価値が置かれつつあるのだろう。

こうした現象は、アナログレコードやカセットテープが復活し、音楽ソフト市場で影響力を伸ばしていることとよく似ている。時代が後戻りしているわけではないのだ。すでに消えつつある、まだ重要なテクノロジーへの再評価が進んでいる。おそらく近い将来、日本でも夜行列車に対する再評価の運動が起きるだろう。

かつては、お金のある人が高いチケット料金を払って飛行機に乗り、お金がない人が時間のかかる鉄道の旅を選んでいた。しかし、いまはそれほど単純ではなくなっている。お金がないから夜行列車に乗るわけではなく、ショートカットできない時間に価値を感じ、そこにお金を払いたいと思っているのだ。

そして、冒頭で取り上げたネットフリックスとウーバーイーツで休日を過ごす人々だって、単なるものぐさな人たちではないのだろう。そもそもウーバーイーツは、まだ都心でしか利用できない特別なサービスだし、ネットフリックスで盛り上がる人たちもまだまだ日本ではマジョリティーの消費者ではない。

外から見えている印象ほど世界は単純ではないのだ。

速水健朗(はやみず・けんろう)
ライター。1973年、石川県生まれ。パソコン雑誌の編集を経て、2001年よりフリーランスとして、雑誌や書籍の企画、編集、執筆などを行う。主な分野はメディア論、20世紀消費社会研究、都市論、ポピュラー音楽など。著作『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』『東京β』『フード左翼とフード右翼』『ラーメンと愛国』ほか、企画編集『バンド臨終図巻』『ジャニ研!』。

「アエラスタイルマガジンVOL.44 AUTUMN 2019」より転載

Illustration: Michihiro Hori

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