週末の過ごし方

洋の東西と歴史の新旧が交わる「結い」の街、イスタンブール

2020.02.28

洋の東西と歴史の新旧が交わる「結い」の街、イスタンブール

「洋の東西を結ぶ」と称される、イスタンブール。至るところで、東西文化の融合を感じることができる街だ。実は、日本との縁も結ばれている。今回は、「結い」をテーマに観光の定番のスポットからこれから注目されそうな穴場まで巡ってみた。

ヨーロッパとアジアを橋でつなぐ。
古くからの交通の要衝だったイスタンブール

イスタンブールが洋の東西を結んでいる最大の理由は、地理的条件だ。ボスポラス海峡を挟み、東側がアジア大陸、西側がヨーロッパ大陸であることから、古くから交通の要衝として栄えた。そして、地理的に重要な土地だけに、ローマ帝国、ビザンツ帝国、オスマン帝国と征服が繰り返され、その間にヨーロッパの文化とイスラムの文化が結ばれていったのだ。

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橋を真ん中に写真左側がヨーロッパ側、右側がアジア側。ボスポラス海峡には3本の橋が架かっており、ファーティヒ・スルタン・メフメット橋はIHIや三菱重工が建設。瀬戸大橋とは姉妹橋である

イスタンブールの主な観光地はヨーロッパ側に集中している。ヨーロッパ側は金角湾を挟んで新市街と旧市街に分かれており、いくつかの橋でつながれている。そのなかで最も有名なのがガラタ橋だ。

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ガラタ橋は上層が車道、下層がレストラン街というユニークな橋。新市街側のカラキョイと旧市街側のエミノニュをつなぐ

ガラタ橋を訪れたら、名物のサバサンドに舌鼓を打ってほしい。エミノニュ側では金角湾に浮かんだ屋台船でサバが焼かれており、周囲には香ばしい匂いが漂っている。この焼きサバと玉ねぎ、レタスをパンで挟んだのがサバサンド。テーブルに置いてあるレモン果汁と塩を振りかけてガブリといけば、脂の乗ったサバのうま味が口いっぱいに広がる。

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    揺れる船で器用に調理。特別に船に乗って撮影させてもらった

エミノニュにはイスタンブールの2大バザールのひとつ『エジプシャンバザール』も存在している。バザールとはさまざまな種類の店が集まった市場のこと。イスタンブールといえば大規模で活気のある『グランドバザール』が有名だが、エジプシャンバザールは適度な広さで客引きも少なく、比較的ゆっくりと楽しむことができる。

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    1時間もあれば全体を回れるほどよい広さ
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    エジプシャンバザールを歩くとスパイスの香りが鼻孔をくすぐる

貴金属からスイーツ、食器、布製品など多彩な商品が売られているが、オススメはスパイス。もともと、オスマン帝国時代にエジプトからの貢ぎ物が集まったことから「エジプシャン」の名が付いたこの市場は、香辛料を取り扱う店が多く、別名「スパイスバザール」とも呼ばれている。かつてほどの店舗数はないが、いまでもいくつもの店舗があり、取り扱っているスパイスの種類も豊富だ。

世界遺産『イスタンブール歴史半島地区』でみる
キリスト教とイスラム教の「結い」

旧市街はその名のとおり、歴史を感じさせる観光地が集中している。なかでも代表格は、世界遺産にも登録されている『イスタンブール歴史地域』だろう。周辺には、オスマン帝国の第14代皇帝だったアフメット1世の墓所である『スルタンアフメット1世廟』や「世界一美しいモスク」と賞賛される『ブルーモスク(スルタン・アフメット・ジャーミー)』などもある。

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ライトアップされるブルーモスクは、壮麗ながら神秘的なたたずまいだ

なかでも、「東西の結い」を感じさせるスポットが『アヤソフィア』、イスタンブール観光では外せないスポットだ。アヤソフィアは、もともとビザンツ帝国時代の西暦360年に、キリスト教の大聖堂として建てられた。しかし、1453年、オスマン帝国によってコンスタンティノープルが陥落した際、その美しさから破壊を逃れモスクに改修されたという。

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アヤソフィアは宗教施設ではなく、博物館として公開されている

内部に足を踏み入れると、広やかな空間と荘厳で神聖な雰囲気に圧倒される。特に、天井のビザンツ様式の象徴である半円ドームは、圧巻の存在感だ。細部に目を移すと、大理石柱や側廊の意匠もビザンツ様式であることに気づく。

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    大ドームの直径は約31m。黒地に金のアラビア文字が記された円盤には、アッラーやムハンマド、カリフの名が記されている
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    モザイク画で描かれたキリストや天使の絵も飾ってある。これらの絵は、オスマン帝国時代には漆喰で塗り固められていたという

写真映えする町バラットは観光地とは
ひと味違うイスタンブールを味わえる

旧市街での観光の目玉はイスタンブール歴史地域だが、市井の雰囲気を味わいたいなら、旧市街郊外の『バラット地区』に足を延ばしてみてはどうだろうか。オスマン帝国時代は裕福なギリシア人やユダヤ人が多く暮らしていたが、彼らが新市街に移ってからは寂れていた地域。しかし、最近はオシャレなカフェも増え、テレビドラマの影響などもあり若い人も訪れるという。

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昔ながらの家が立ち並ぶ通りは写真映えし、撮影にいそしむファッショニスタも多かった

カフェでの定番はチャイ。トルコのチャイはインド圏のものと違い、薄めのストレートティーに近い。日本で「一服」と称してお茶を飲む感覚で、街中の至る所でチャイを飲んでいる人々を見かける。ちなみに、水から煮立てて上澄みだけを飲むトルココーヒーもオススメだ。

ヨーロッパとトルコの雰囲気が融合した新市街

新市街は旧市街とうって変わり、とても近代的な街並みだ。トルコはイスラム圏だが、政治と宗教を分離する世俗主義を採用しており、公共の場でイスラムの戒律を意識することは少ない。街なかにはお酒が飲めるバーがあるし、スカーフを着用していない女性もよく目にする。特に、レトロな路面電車が走る繁華街『イスティクラル通り』は、ハイブランドのショップなどが多く、建築物の雰囲気も相まってまるでヨーロッパのよう。とはいえ、トルコアイスのお店があったり、トルコの有名なスイーツ『バクラワ』や『ロクム(ターキッシュディライト)』を扱うお菓子屋があったりとトルコの雰囲気とうまく融合している。

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イスティクラル通りは、日本で言えば銀座のような場所。イスタンブールを代表する目抜き通りで、ショッピング好きにはたまらない

イスティクラル通りを下っていくと、新市街のシンボルで観光名所の『ガラタ塔』が現れる。6世紀から存在しており、そのたたずまいはまるで塔がそのまま現代にタイムスリップしてきたようだ。

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    ライトアップされたガラタ塔
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    ガラタ塔から望む日が沈みかけたイスタンブールの旧市街

高さは約67m、展望階からは旧市街と新市街の両方を望むことができる。幸運なことに日没のタイミングで訪れることができ、オレンジに色に染まったあと、夜の帳(とばり)が下りて夜景に彩られるイスタンブールの街並みを堪能することができた。

世界で初めて結ばれた平和条約の原本展示に考えさせられる

今回は、「結い」をテーマにイスタンブールを巡ったのだが、どうしても見ておきたいものがあった。それは、『イスタンブール考古学博物館』のとある収蔵品だ。

イスタンブール考古学博物館は、スルタンの居城であった『トプカプ宮殿』の庭園にあり、特に、ギリシア・ローマ時代の石棺や彫刻といった収蔵品は評価が高い。

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アレキサンダー大王の戦闘を題材にした装飾とその見事さから、学術的には断定されていないにもかかわらず「アレキサンダーの石棺」と呼ばれる石棺。この博物館の目玉のひとつだ

お目当ての収蔵品は、古代オリエントの展示エリアにあった。『カデシュの条約タブレット』という名の、くさび形文字が記された小さな粘土板。アレキサンダー大王の石棺やさまざまな石像のような派手さはないが、人類の歴史上、大きな意味を持つものだ。

『カデシュの条約』は、紀元前1269年ごろ、エジプト王ラムセス2世とヒッタイト王ムワタリシュ2世が結んだ世界初の平和条約だ。内容は、捕虜の返還、相互不可侵、同盟関係、条約の永続性など非常に現代的で、この条約の拡大コピーは、国連ビルの玄関に飾られているという。いまから約3500年前の争いと和睦が、本質的に現代のそれと変わっていないことは、非常に考えさせられる。

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破損した『カデシュの条約タブレット』の一部が展示されている。これはヒッタイト側のタブレット。エジプト側にはヒエログリフで書かれたタブレットが存在する

古くから日本とも縁が結ばれているトルコ。親日国を実感

実は、トルコは日本との縁も深く結ばれている。そのきっかけのひとつが、1890年に和歌山沖で沈没した軍艦エルトゥールル号乗組員の救助活動やその後の尽力。トルコが親日国となるきっかけとされている。今回の旅行でも、あるレストランで、私が日本人だとわかると「15年前に寛仁(ともひと)親王がお越しになった」と誇らしげに署名を見せてくれた。

2020年は、これまで以上にイスタンブール、そしてトルコが身近になる年だ。3月30日には、ターキッシュエアラインズ(旧トルコ航空)が成田に加えて羽田〜スタンブール線を開設。また、ANAも7月6日より、日本の航空会社で初めてイスタンブールに直行便を開設する。さらに注目が集まることは間違いないだろう。洋の東西、そして日本とも結ばれた国に足を運んでみてはどうだろうか。

Text:Tukasa Sasabayashi

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