旅と暮らし

死ぬまでに一度は見たい絶景を肴にして6千年の歴史を持つワインを堪能、カッパドキア

2020.03.06

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フランスやイタリア、ドイツ、スペイン、ポルトガル、カリフォルニア、チリ。これらの国名を聞いて真っ先にワインを想起したら、立派なワインラバーだ。しかし、より通人を目指すなら、トルコワインに注目してみてはいかがだろうか。

実は、トルコはワイン発祥の地として推定される国のひとつ。紀元前4000年ごろには、アナトリア地方でワインが造られていたと伝えられている。日本では、アナトリア地方よりも、「カッパドキア」と言ったほうがなじみ深いだろう。死ぬまでに一度は見たいと言われる絶景が広がる世界遺産だ。世界で最も歴史あるワインと絶景のマリアージュ。今回は、そんな旅を紹介しよう。

世界遺産を空から眺める、カッパドキア名物の気球ツアー

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カッパドキアは、トルコ中央部に位置するアナトリア高原の真ん中に位置する地方だ。その範囲は広く、カイセリやネヴシェヒル、ギョレメ、ユルギュップなど大小さまざまな町がある。なかでも、世界遺産「ギョレメ国立公園とカッパドキアの岩石遺跡群」は特に有名で、さまざまな奇岩が織りなす風景は、「一生に一度は見たい絶景」として名高い。冒頭の写真を撮影した「ゼルベ野外博物館」は、奇岩が数多く存在することで有名。キリスト教徒とイスラム教徒が同じ場所で共存していた場所で、キノコのような奇岩であふれていた。

キノコ以外にも、ラクダ、ナポレオンの帽子、妖精の煙突など、さまざまなものに例えられる奇岩。実際に目にすると、自分なりの見え方があって面白い。子どものころに雲を見ながら想像を巡らせたように、奇岩を見ると想像力がかき立てられる。

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    通称ラクダ岩、確かにフタコブラクダに見える
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    妖精の煙突と呼ばれるカッパドキアを代表する奇岩。昔は岩の中に妖精が住んでいると思われていたそうだ

この雄大な芸術作品を最も堪能できるのが、カッパドキア名物の気球ツアーだ。夜明け前に出発するので、天候が良ければ日の出と朝日に照らされてあかね色に染まるカッパドキアの大地を上空から眺めることができる。

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最高750〜800mの高さまで上昇し、1時間程度、空中を散歩する

気球ツアーの楽しみはカッパドキアの大地だけではない。このツアーは多くの会社が実施しているので、数十という気球で辺り一帯が埋め尽くされる。しかも、出発は夜明け前。バーナーでほのかに光る数多くのバルーンが空に浮かぶ様は、なんとも幻想的。まるで、ダイナミックな天燈(ランタン)飛ばしのようだ。

洞窟に住居や教会を作り、ワインの製造も行っていた

カッパドキアの奇岩や洞窟は、ローマ帝国の宗教的迫害から逃れたキリスト教徒たちの隠れ家ともなった。ギョレメ一帯には、奇岩を削った教会が数百もあったと言われ、その一部は「ギョレメ野外博物館」として世界遺産に認定されている。いまでも残る洞窟教会のなかでも、フレスコ画が鮮やかで美しいリンゴ教会や暗闇教会、トカル教会などは、特に人気が高い。

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リンゴ教会のフレスコ画

「ギョレメ野外博物館」には、教会だけでなく修道院やそれに付随する生活施設も存在する。そのなかには、洞窟をくりぬいたワインセラーも存在していた。迫害から身を隠しながら、カッパドキアの地でブドウを育て、キリストの血たるワインを醸造していたわけだ。

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ギョレメ野外博物館に入るとすぐ目に飛び込んでくるのが、女子修道院。内部には教会、食堂、通路などが存在する

地下都市という劣悪な空間でも脈々と続いたワイン造り

キリスト教徒は、奇岩や洞窟だけでなく地下にも身を潜めた。それが、「カイマクル地区」や「デリンクユ地区」にある地下都市である。もともとは、この地に古くから住むヒッタイト人が周辺民族の侵略から身を隠すために掘ったと言われており、その後、キリスト教徒が隠れ住んだと伝わっている。

足を運んだのはカイマクル地下都市跡。地下8層に及び、最盛期には約2万人が暮らしたという。長い年月をかけて広げられた地下空間には、教会、学校、食料貯蔵庫、トイレ、通気口など、まさに街に必要なものが存在している。

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カイマクル地下都市跡の模型
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    カイマクル地下都市跡の内部。各部屋は細い通路と階段でつながれている
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    左上のプレートには「SARAPHANE」の文字。トルコ語でワイナリーを意味する

そして、もちろん、ワイン醸造所とワイナリーも存在していた。ここでは、岩を削り、ぶどうを発酵させたりワインを熟成させたりするプールを作り、できたワインをワイナリーに貯蔵していたという。決して恵まれたとは言えない環境でも、ワイン造りに情熱を燃やす。カッパドキアとワインが紡いだ歴史の深さに触れた感じがした。

鉄器を作ったと言われるヒッタイト人が使ったデキャンタでワインを注ぐ

ワインに欠かせないものと言えば、デキャンタとグラスだ。カッパドキアは陶器でも有名な地。なかでも、クズルウルマク川(赤川)の近くの地域「アヴァノス(アワノス)」は、陶器を作るのに適した赤土が豊富だったため、ヒッタイト時代から陶器作りが盛んに行われている。その地で有名な陶器工房が、陶器作りの見学や購入ができる「シェ・ガリップ」だ。

なかでも目を引いたのが、ヒッタイト時代から使われているデキャンタ。肩に担ぐようにして注ぐのだが、コポコポという音を聞いていると、遙か昔、ヒッタイト人の宴でも同じ音がなっていたのかと想像すると不思議な気分に包まれた。

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ヒッタイト時代から使われていたデキャンタ。お土産でも購入が可能で、ワイン好きの友人には喜ばれそうだ

カッパドキア固有のブドウで造られたワインをテイスティング

紀元前4000年ごろから始まったとされる、カッパドキアのワイン造り。しかし、イスラム教徒が飲酒しなかったこともあり、トルコがフランスやイタリアのようなワイン大国になることはなかった。

それでも、しっかりと6000年の歴史を紡いできたトルコワイン。その味を確かめるために、カッパドキアで最も有名なワイナリーのひとつ「トゥラサン」へと赴いた。トルコは国民の大半がイスラム教だが、政治と宗教を分ける世俗主義なので、飲酒やアルコール販売に関して寛容だ。「トゥラサン」でもカッパドキアで造られたワインを試飲することができる。

ここでは、ワイン蔵と工場を見学。担当者から「カッパドキアの夏は、日差しの強い晴天が続き、ブドウの成長に適している。また、カッパドキアの土地は鉄分や硫黄が含まれた火山灰土壌で力強い味のブドウが育つ」という説明を受けた。

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見学が終わったらいよいよ試飲だ。いただいたのは、白の「エミール」と赤の「オクズギョズ」。どちらもカッパドキアエリアの固有種だ。

王様という意味を持つエミールは粒が小さく、水分量が少ない。その分、身がギュッと詰まっており優雅な甘みと適度な酸味が特徴だ。フレッシュで果実味があふれる味わいは非常に飲みやすく、食前に喉を潤すのにピッタリだ。

オクズギョズは、カッパドキア最古のブドウ。エミールと違い大粒で肉厚で、見た目も味も濃い。フルボディの辛口で、強い味の料理にピッタリ。トルコ料理は肉やスパイスが有名なので、ぜひ合わせて楽しみたい。

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世界三大料理のひとつと言われるトルコ料理に舌鼓

せっかくなら、ワインに合うトルコ料理も味わいたい。お目当てはカッパドキア名物の「テスティ・ケバブ」だ。小さな壺に羊、牛、鶏のいずれかの肉とじゃがいもや玉ねぎ、トマト、唐辛子といった野菜を入れ、壺ごと窯で煮込む。スパイスが効いた料理で赤ワインにピッタリ。やわらかく煮込まれた肉のうまみとほくほくの野菜がたまらない。

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    壺の口をナイフで切り落とすパフォーマンス。実際には、事前に切り込みが入っており、ナイフでその部分をたたいて外すイメージ
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    今回、味わったのは牛のテスティ・ケバブ。ケバブとは肉などを焼いたり煮込んだりした料理の総称。例えば、シシ・ケバブは串に刺した肉料理を指す

もう一品は「ドルマ」。米やタマネギ、ひき肉、香味野菜などとスパイスを混ぜたものをキャベツやブドウの葉で巻く料理だ。ブドウ栽培が盛んなカッパドキアでは、ブドウの葉のドルマが名物だという。ほかには、肉料理がとにかく美味。なかでも、羊の調理方法にたけていて、内臓も調理する。日本ではなかなかお目にかかれない羊のモツだ。こういった羊料理もオススメしたい。

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左がブドウの葉、右がキャベツの葉で包んだドルマ

その独特な絶景から、日本での人気が高いカッパドキア。そんな絶景を肴(さかな)に、世界最古のワイン栽培が行われたと伝わる土地での一杯は、まさに贅沢の極み。それを目的にトルコを訪ねたくなるほどだ。世界三大料理のひとつと言われるトルコ料理との相性も抜群なので、ぜひ一度、堪能してみてほしい。

<<洋の東西と歴史の新旧が交わる「結い」の街、イスタンブール はこちら

Text:Tukasa Sasabayashi

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