特別インタビュー

マルタの石松一樹「庭に菜園、ゴミは堆肥に」
循環型レストランという考え方
[シェフがつなぐ食の未来]Vol.5

2020.04.27

小松宏子 小松宏子

マルタの石松一樹「庭に菜園、ゴミは堆肥に」<br>循環型レストランという考え方<br>[シェフがつなぐ食の未来]Vol.5
石松一樹シェフ

サステナブルなレストランを目指す「Maruta(マルタ)」

調布駅からバスで10分ほどの距離に、薪窯で調理をする一軒家のレストランがあることをご存じだろうか? その名は「Maruta(マルタ)」。四季折々の素材をこんがりとグリルすることで、持ち味を存分に引き出しながら、ウィットに富んだひとひねりを加えて食べさせてくれる。最も原初的な薪(まき)火を熱源としながら、食の楽しさを追求する、そんなレストランだ。

店内に足を踏み入れると、カウンターの奥で赤々と燃える薪火が目に入り、不思議と心が落ち着く。ふんだんに店の内外に使われた木が、居心地のよさを増している。実はこちら、レストランオーナーの意向で、設計の段階からハード面が環境に優しいということを大前提に作られている。

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そのひとつが、使用している木材に関してだ。山林のサイクルに負担をかけないことを第一義に、計画伐採された木を用い、外壁にはケボニー化させた余剰木材を使っている。また、庭には砂利を通して雨水をろ過する装置があり、スプリンクラーや化粧室の排水として再利用している。ゴミ問題も、野菜の皮や切れ端とコーヒーかす、薪の灰を庭に掘った穴に埋めてコンポストし、堆肥として庭の菜園に使用している。

「今まで働いていた店と比べても、生ごみの量は圧倒的に少ないです。こうした空間で働いていると、必然的に環境問題への意識が高くなります。スタッフの間にも食材を無駄にしない、循環型のレストランという考え方が自然に浸透していますね」と、シェフの石松一樹さんは言う。

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オーストラリアで学んだ「料理の在り方」

石松さんは、「エディション コウジ シモムラ」でフレンチの基礎を学んだのち、単身オーストラリアに渡り、縁あってメルボルン郊外の「ブラエ」で研鑽(けんさん)を積んだ。ブラエは、メルボルンから車で2時間という便の悪いところにありながら、世界的にも高い評価を得ているモダンオーストラリアンのレストランだ。

「ブラエで最も感銘を受けたことは、料理の技法やレシピそのものより、食材を巡る料理の在り方でした。野菜はすべて、敷地内の畑で作られたもので賄う。いわば自給自足です。だから、料理を作るときの発想が、この一品のために材料を手配するのではなく、この材料があるからこの料理を作るという考え方になります。それこそが人間の本来の姿ではないかと気づかされました。

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だからマルタでも、食材ありきで料理を構築しています。今はまだ少しですが、庭の菜園で育てている野菜やハーブなども増やしていきたい。そのほかの野菜は、近隣の自然栽培をしている農家さんから買うようにしています。それは、顔の見える生産者との信頼関係を大切にしたいからです。もちろんフードマイレージを減らすことにもなり、地方の活性化にもつながります」

マルタの料理でたっぷり使われている野菜がどれもおいしいのには、そんな理由があったのだ。

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マルタらしさを目指して、日々、進化を遂げる

自給自足という方向性ともつながってくるが、石松さんは、現在、保存食作りに凝っているという。それは、人類が保存食を作ってきた原点に戻るような「りんごがたくさんとれたからジャムにする」という発想での保存食作りだ。

現在手掛けているのはザワークラウト、からすみ、魚醬(ぎょしょう)など。いずれも保存の知恵から生まれた珠玉の美味であるが、発酵など素材の変化の過程を体験することで、食材の可能性を追求することにもなるのだそうだ。そんななかから生み出される、マルタらしい料理を大切にしたいのだという。

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では、マルタらしさとは何なのかと尋ねると「まだまだ模索している段階ですが、繊細すぎるものにはしたくない。野趣を残した料理に仕上げたいですね」と、考えながら石松さんは答えてくれた。

「お客さまがいらっしゃったら、まず庭と菜園を案内し、その後にテーブルへと導きます。料理は大皿でお出しして、グループごとで、また、隣同士で分かち合いながら食べてもらいます。そうしたプレゼンテーションは、自分たちの目指しているものを肌で感じてほしいからです。

マルタの料理を食べて、食することの喜びを感じてもらえれば本望。さらに食の在り方に関して思いを巡らせるきっかけになってまらえれば、これほどうれしいことはありません」

日々の料理を探求しながら、同時に地球に優しい料理を考案している石松さん。こうしてハード面に促されるようにして、ソフト面もどんどん、エシカルに向かっている。今後のマルタの料理がますます楽しみだ。

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プロフィル
小松宏子(こまつ・ひろこ)
フードジャーナリスト。料理研究家の家庭に生まれ、幼いころから料理に親しむ。雑誌や料理書の編集・執筆を通して、日本の食文化を伝え残すことがライフワーク。『茶懐石に学ぶ日日の料理』(後藤加寿子著・文化出版局)では仏グルマン料理本大賞「特別文化遺産賞」、第2回辻静雄食文化賞受賞。

Photograph:Nariko Nakamura

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