週末の過ごし方

トップシェフたちが医療従事者へ送るエール

2020.06.05

小松宏子
小松宏子

トップシェフたちが医療従事者へ送るエール
「ザ・バーン」の米澤文雄さん監修のモダンアメリカンの弁当ボックス

それは、4月6日のフェイスブックへのひとつの投稿から始まった。フレンチレストラン「シンシア」のオーナーシェフであり、海洋資源の問題に真剣に取り組む、「シェフス フォー ザ ブルー」のリードシェフを務める石井真介さんの一途な思い。

「想像に絶する状態にあるフランスで現地の日本人シェフ達が医療機関に差し入れをしたとのこと。誇らしいです! 僕たちもやりたい!!だって今日本で感染が一番広がっているのって医療関係従事者ですよね?命がけで働いてくれる人達に何かしたい!・・・」(原文まま)

「スマイル フード プロジェクト」が発足するまで

この投稿を目にしたサイタブリア(「レフェルヴェソンス」などのレストラン経営と、ケータリング事業を行う)社長・石田 聡さんは、まったく同じことを考えていたと、すぐに手を挙げた。そして思いを同じくした人がもうひとり。交通広告を主に扱う広告代理店NKBの役員、寺田裕史さんだ。

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豊洲に立つ、サイタブリアのセントラルキッチン

こうして投稿からわずか2日後、第1回目のミーティングが開かれた。後手後手に回る政府の動きに比べると、なんと迅速なことか。結果、ケータリングサービスを行うサイタブリアが、キッチンとマンパワーを提供。そして、現在28人のシェフス フォー ザ ブルーのメンバーから有志が献立の立案と実働部隊として参画。

NKBは主に資金調達を担当。こうして即日にプロジェクトチームが発足し、投稿から数えて7日後には、弁当ボックスの配布が始まったというから驚くべきスピード感だ。強い意志があれば、あったらいいなの夢で終わらせず、実現できるのだということを身をもって証明してくれたとも言える。

プロジェクトの名は「スマイル フード プロジェクト」、ほっこり心が和むような、なんとも温かい名前だが、名付け親は、シェフス フォー ザ ブルーのもう一人のリードシェフである「ザ・バーン」の米澤文雄さんだという。食の力で、苦境にある人を笑顔にできたら、そんな願いが込められているという。

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スマイルフードプロジェクトのアイコンをクッキーにして、デザートに

多くのレストランが、コロナ禍のなか、自分の店やスタッフを守ることで精一杯という状況下でも、食を通して困っている人の力になりたいという強い思いには、ただただ頭が下がるばかりだ。

おいしさと愛情が詰まった弁当ボックス

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ところで気になるのは弁当ボックスの中身だろう。「忙しい現場で食べやすさを考えてのメニューであることはもちろんですが、おいしいが大前提。でなければ、人を笑顔にすることはできません。そこはトップシェフのプライドにかけて、全力で取り組んでいます」と石井さんは胸を張る。

写真は4月24日に実際に配布された弁当ボックスで、メインディッシュが塩麹(しおこうじ)ローストポーク、新玉ねぎとレモン、ローズマリーのコンディマン サイドディッシュが➀人参のスパイスロースト スパイスアーモンド ②新玉ねぎのパルメザンチーズロースト ③ 新じゃがと春野菜のクリームチーズサラダ そして新じゃが、スナップエンドウ、 グリンピースのスープ。メニューはモダンアメリカンの「ザ・バーン」米澤文雄シェフが考案したものだ。ボックスのふたを開けると、季節感たっぷり春爛漫の料理が目に飛び込み、誰しも笑顔になるに違いない。

ほかにも、和食は「HIGASHIYAMA-Tokyo」梅原陣之輔さん、「後楽寿司やす秀」の綿貫安秀さん、「鮨えんどう」遠藤記史さん合作のばらちらし弁当。中華は「慈華」田村亮介さんと「茶禅華」川田智也さんが考案した、特製麻婆豆腐と棒棒鶏が中心のお弁当、フレンチは「シンシア」石井真介さんが担当した、サステナブルな白身魚のベニエ(フランス風の衣つきフライ)や山菜をのせたごはんのお弁当。エスニックは「サイタブリア」ケータリングシェフ奥田祐也さんの、桜海老を使った香り豊かな春巻など彩り鮮やかなお弁当と、計5パターンのひな型が作られた。

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医療従事者でなくとも、どれも味わってみたいというラインアップがずらりと並ぶところはさすがだ。現在、クオリティーを落とさずに最大限に作れる量ということで、今は最大で昼夜合計400~450個を製作。運搬はサイタブリアが保有冷蔵設備のあるキッチンカーで担う。

都内11(4月末現在)の病院の昼の休憩時間に間に合わせるために、豊洲のキッチンを朝9時半に出発する。だから仕込みは前日と当日の2日がかりの仕事となる。生半可な気持ちではとても参加できるものではない。また、いくら個人の思いが強くてもあっても、これだけの機動力を持つことは不可能だ。シェフたちとサイタブリアの石田社長が最強のタッグを組んだ結果にほかならない。

料理の力を持ってしての社会貢献

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「医療従事者の方たちから笑顔が引き出せれば、本望です」と、米澤文雄さん。

さて、忙しく立ち働く合間を縫って、米澤さんに話を聞くことができた。

「シェフス フォー ザ ブルーの活動のほかに、僕はミールプログラムという取り組みを行っています。成育医療センターで治療を受けている難病や重症の子どもを持つ母親へ、料理を届けるというボランティアで4~5年続けています。

なぜ、始めたのかと言えば、実は次女が生まれたときに東京医科歯科大学病院のNICU(新生児集中医療室)にしばらくのあいだ入らなければならなかったんです。賢明の看護で一命をとりとめました。そのご恩返しができたらという思いを、僕なりの形にしたものです。そのこともあって、今回のプロジェクトにも、積極的にかかわっていきたいと思い、手を挙げたんです」。

鬱々(うつうつ)とした今の世の中に、心温まる話を聞いて、直接手伝いをすることはできないが、なんとか役に立ちたいと思う人たちもきっと多いことだろう。4月24日からヤフーネット募金が始まっている。下記のアドレスから入り、クリックするだけで手軽に寄付できる多くの人の善意に支えられ、目標額を達成した。行動を起こすことの大切さを改めて教えられた。

https://donation.yahoo.co.jp/detail/5274001

Photograph:Miyuki Fukuo

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