カジュアルウェア
ストレスフリーな、究極の普通。
2021.05.24
ファッションエディターの審美眼にかなったいま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
「俺は24時間編集者だ!」なんてうそぶいて、休日でもビスポークスーツやジャケットを着ていた時代があった。まあ僕らの仕事って、編集部の床にダンボールを敷いて寝ていた数時間後に、巨大ファッション企業のトップと乾杯していたかと思えば、菓子折りを持って謝罪行脚に回ったりもする常在戦場が常識。ある意味そんなスタンスは合理的だったのだが。
ともあれいまは、豪華なパーティーも突然の会食もないニューノーマル。周囲にアピールする必要はないし、もはや何を着たって自由!……という生活に直面したときにはたと気づいたのが、ここ十数年、ジャンパーというか、ブルゾンってやつをまったく着てこなかったこと。ひと昔前の休日のオジサンのように、すっかりカジュアル下手になっていて、何を選んでいいかわからないのである。最近はやりの巨大なロゴが入ったテック系や、ビッグシルエットなんて、もはや理解不能だ。
そんな“中年の危機”を救ってくれたのが、イタリアブランド、ヘルノのナイロンパーカである。ナイロンといっても、けばけばしい原色や光沢とは無縁で、落ち着いた質感だし、シルエットもいたって中庸。もちろん巨大なロゴもついていない。究極の普通、というやつだ。ゴリゴリのヘビーウェイト生地であるほどに萌(も)え、海外でビンテージ生地あさりに精を出していた業の深いスーツ好きにとっては、15デニールという最新の極薄素材は軽すぎて逆に違和感を覚えるほどだったが、半日も過ごしたら慣れてしまって、すぐに手放せなくなった。
最近は休日ともなると、こんなアウターにぶっといチノパンを合わせて、手ぶらで気ままに街を歩くのがルーティン。おかげで長年悩まされていた肩こりが、すっかり治ってしまった。ニューノーマルな生活も、なかなか悪くないじゃん。
山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。
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Photograph: Yuji Kawata(Riverta Inc.)
Styling: Eiji Ishikawa(TABLE ROCK.STUDIO)