週末の過ごし方
『Lupin/ルパン』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #2
2021.09.02
2021年1月8日からNetflixにてシーズン1の5エピソードを配信されてから、約1カ月で7000万世帯が視聴するという大ヒットを記録したフランス発のドラマ『Lupin/ルパン』。その続編(シーズン2)が6月11日から配信が始まり、シーズン1同様巧妙なトリックと痛快な怪盗劇で高い評価を得ている。
この物語は「怪盗紳士アルセーヌ・ルパン」から着想を得て、現代版にアレンジしたもの。現代版ルパンことアサンは、父とセネガルからフランスに来た移民である。大富豪ペレグリニ家の運転手として父は働いていたが、ペレグリニ家に保管されているマリー・アントワネットの首飾りを盗んだ罪で、投獄されてしまった。
父は獄中で自殺。誠実で仕事に真摯(しんし)だった父がそんなことをするはずがない……。理不尽な扱いをされてきた移民の主人公アサンが、父を陥れた裕福な一家に復讐を誓う。亡き父からもらった怪盗紳士ルパンの本を参考に、悪事を暴きながら華麗な怪盗劇を繰り返してゆく。
ストーリーにたびたび織り込まれる過去のエピソードから、アサンがどんな環境で育ってきたかが次第にわかっていく。社会からまるで存在しないかのごとき扱いをされてきた彼は何者にもなれるのだ。差別すらもトリックに利用し、理不尽な階級社会で差別してきた連中を見事に翻弄してゆく。王道のストーリーのなかに、根深い社会問題に切り込んでいく緊張感が作品に深みを与えている。
差別や復讐……。重苦しそうな内容に思えるが、作品はとてもコミカルにテンポよく進んでゆく。暴力的なシーンは少なく、安心して家族で観ることができるだろう。昔ながらの手品や謎解きのようなトリックから、現代ならではのアレンジも。ドローンを使って侵入したり、音声合成ソフトで他人を演じたり、ハッキングもお手のものだ。
そんな完璧かと思われるアサンでも、家族が巻き込まれるとなると気が気ではない。人間味ある一面が垣間見えるたびに、作品に引き込まれてゆく。ダークヒーローはなぜこんなに魅力的なのだろうか? 間違いない、彼をそうさせてしまったのは金と権力を振りかざした善人の仮面をかぶった理不尽な悪人がいるからだ。必ずコテンパンにして、最愛の父の汚名を晴らしてほしい!
海外への渡航が難しくなった今、作品でパリの街並みを同時に堪能できるのはとても魅力的だ。第1話からいきなり現れるルーブル美術館での怪盗劇。冒頭のモナリザを見つめるアサンの表情はこれから何かが始まるのを示唆していた。そしてそのフランス随一の観光名所にフェラーリが突っ込んでいくわけだから、見応えは十分すぎるほどある。
主演のオマール・シーは今フランスで最も注目されている俳優と言っても過言ではないだろう。決して悪人ではない彼の笑顔と正義感と爽快なトリックの数々に、回を重ねていくたびにハマってしまうことだろう。そして、少し肌寒くなってきたころにハンチング帽をかぶり外套の襟を立て、少し肩をすくめながら街を歩きたくなるに違いない。
ルパンにはそんなカリスマ性があるのだ。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo