週末の過ごし方
『MR.ROBOT/ミスター・ロボット』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #9
2021.10.21
細部までこだわり抜かれた演出に注目!
廃墟と化した遊園地のゲームセンターで活動するf・ソサエティはハッカー集団。世界の消費者信用産業の7割を握っているEコープの金融データを破壊し、ありとあらゆる借金、ローンを帳消しにし、富の再分配をすることが目的だという。
たとえドラマであっても、テクノロジーの分野の描写に不備があれば、SNSなどですぐにたたかれてしまう時代。サム・エスメイルは、元々そのあたりに明るい人物らしく、コンピューター関連の描写が「細部まで実に正確」と世界中のハッカーやIT業界人から賞賛を浴びた。
FBIのサイバーセキュリティ監修のもと、全てのコードが正確なものであり、そのうえ至る所にハッカーにしかわからないメッセージが潜む。そのトリッキーなサプライズのなかでも特に印象的だったのが、主人公エリオットが持っていたノートに手書きのQRコードがあり、そのコードをスキャンすると昔懐かしいジオシティーズをほうふつとさせる謎サイトに飛ばされるというもの。サム・エスメイルの作品愛がこういった細部に感じられるからこそ、視聴者はどんどん作品にのめり込んでいく。
サイバーサスペンスのなかに大きな軸としてあるのが、ヒューマンドラマだ。自身をコントロールするのが難しいエリオットが、不正はびこる社会のなかで自身と闘いながら正義を探してゆく。頭の中にいる想像上の友達に話しかけている言葉は、観ているこちら側に問いかけているようにもとれ、共感してしまう。
エリオットを演じたのは、『ボヘミアン・ラプソディ』でのフレディー・マーキュリー役がまだ記憶に新しいラミ・マレック。狂気に満ちた悪の存在なのか? 格差社会を生み出した根源を制裁する革命家なのか? 彼の読めない表情が、謎をいっそう深めてゆく。彼のためにこの作品を?と思えてしまうほどのハマり具合だ。
サム・エスメイルのこれからに期待せざるを得ない。ストーリーの構成が素晴らしいうえに、映像や音でもそのセンスは抜群。見事なワンカットで撮影した回や、ファミリードラマのパロディ(?)といったテクニカルな映像美に、ミニマルなテクノサウンドがより緊張感を高める。
最初は、難しい作品?と構えてしまうかもしれない。確かに作り込まれた作品ゆえに多少の複雑さはあるが、数々の伏線が確実に回収されてゆく快感は唯一無二。『MR.ROBOT』は完結済みで、1~4シーズンがAmazon Prime Videoで配信中。
海外ドラマの常識を覆した神作品、ぜひお見逃しなく!
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo