お酒
墨田区錦糸町「黄金湯」編
【昼のオシャレセント酒】
2021.12.10
それは、アエラスタイルマガジン版「昼のセント酒」。
リモートワークをサボって平日の真っ昼間からセットアップを脱ぎ捨てて出かける、
オシャレな今どきのデサイナーズ銭湯上がりからのよく冷えたビール!
あぁぁぁぁ~っ、申しわけないっ!
背徳感のなかで味わう至福の瞬間。これに勝てるモノがあったら連れて来い!
第二湯 錦糸町「黄金湯」からのキュウリの一本漬けでクラフトビール
井出温志(いで あつし)31歳、独身。自宅は中野の家賃9万の1Kロフト付き賃貸マンション。仕事先は、中堅不動産会社の西新橋支店。1年前に内勤の業務部から企画営業2課に異動したばかり。もちろん、愛読誌は「アエラスタイルマガジン」と「週刊朝日」。毎朝、通勤中にスマホで朝日新聞web朝刊も読む……つもりが途中からゲームになってしまう、どこにでもいるいまどきのビジネスパーソンである。
ごたぶんにもれず、井出の会社でもコロナ禍によるリモートワークが推奨されて、今年に入ってから出社は週に一度の会議と打ち合わせだけで、あとは自宅勤務でリモートワークの日々。
そんな井出の密かな楽しみは、シェアオフィスのリモートワーク中に仕事をサボって真っ昼間からこっそり出かけるオシャレなデザイナーズ銭湯巡りと、そのあとの渇いた喉に流し込むキンキンに冷えたビール。さぁーて、セットアップのジャケットを脱ぎ捨ててラクチンなドローコードパンツ一丁で、今日はどこのオシャレ銭湯に出かけよう。
今回、井出が駅前のシェアオフィスでやっていたリモートワークを抜け出していそいそと向かった銭湯は、錦糸町の「黄金湯(こがねゆ)」。すぐ近くにはスカイツリーが見える東京の下町錦糸町で戦前から続く老舗の銭湯だが、オーナーも高齢で建物も老築化して廃業の危機に陥っていた。しかし新たに若きオーナー夫妻が引き継いで「下町の銭湯をなんとしても次世代に残したい!」とクラウドファンディングを実施すると、黄金湯を愛する人々によってあっという間に目標金額を達成。2020年8月、スタイリシッュなデザイナーズ銭湯として華麗にリニューアルしたのである。
まず驚くのがコンクリート打ちっぱなしのオシャレな建物。あえて残してある「黄金湯」と書かれた古い看板がなければ、一瞬「ここは代官山か中目黒のクラフトコーヒーを出すカフェ?」と思ってしまう。古くからの常連のおじいちゃんなんか、むき出しのコンクリートを見て「建て直すお金が足りなかったんだなぁ」なんて言うくらいだ。
それもそのはずでリニューアルした建物は、『ブルーボトルコーヒー』などを手がける『スキーマ建築計画』の長坂 常氏によるもの。ロゴデザインなどクリエイティブディエクションをしたのは『アディダス』などともコラボするアーティストの高橋理子氏だ。そうそうたるクリエイターたちの名前を聞いて、「むむっ、さてはどこかの広告代理店が絡んでるな」と思いきや、なんとみなさん銭湯が好きで、「黄金湯のためなら!」とひと肌脱いだのだそうだ。あぁぁぁぁ~っ! ひとっ風呂浴びる前からいい話を聞いてしまって、心がホッとあったまってしまったではないか。
さっそく長細いのれんをくぐって入ると、いままでの銭湯の概念を覆す空間が広がっている。番台ならぬフロントはなんとアータ、DJブースにもなっていてレコードが置かれている。しかもかける選曲は松田聖子からデヴィッド・バーンまでなんでもアリ。なんでも当初はレコード好きな従業員が持ってきてかけていたのだか、おじちゃんおばちゃんから今どきの若者まで、常連客が「これをかけてよ」と持ってきてどんどん増えたんだそうだ。
靴入れは、以前の黄金湯で使用していた昔ながらの下足箱をそのまま再利用している。サステイナブルでいいですね~。番台ではなく入浴券を自動販売機で買って入るシステム。肌触りと吸水性にこだわったオリジナルロゴの入った今治タオルや、手ぬぐい、Tシャツなども売っている。もちろん銭湯ですから、どんなにオシャレでも大人480円(2021年12月現在)で入れるのだ。
下足箱に靴を入れたら入浴券を自動販売機で買って、下足札と入浴券をフロントの中にいるスタッフに渡してロッカーキーをもらう。ちなみにおそろいの黄金湯のハッピを着たスタッフは、みんな今どきの若いZ世代の女子と男子。いずれは自分で銭湯を経営したいと、ここで働いているのだそうだ。いやはや時代は変わりましたな。堺 正章のケンちゃんと樹木希林の浜さんと浅田美代子のミヨちゃんが従業員だった「時間ですよ」のころとはえらい違います。あ、Z世代の若者は知らないか。