特別インタビュー
元ラグビー日本代表キャプテン、HiRAKU代表取締役
廣瀬俊朗の「新しいリーダー論」。[前編]
2022.01.12
いくつものプロジェクトを並行して抱え、多忙を極める廣瀬俊朗は、東京・青山のスタジオにひとりでやって来た。
高校、大学、社会人、日本代表でキャプテンを務めたラガーマンは、思いのほか穏やかかつスマートで、身体からは「静かなる気」だけを発している。2016年に現役を引退し、自身の会社「HiRAKU」を興した廣瀬だが、会社代表という気負いもなく、実に凜々(りり)しいたたずまいの人だった。
写真撮影のあと、インタビューが始まってからも、その印象は間違っていなかったことがわかる。ただし、内側にたぎるような情熱と大望を隠していたことを除いて。
現役引退を決めたとき、廣瀬のなかでは、まだ明確な目標は定まっていなかった。
「とにかく、ラグビーを一回離れよう、ラグビーじゃない世界でいろんな人とお会いしながら、次の道を模索して、自分のやりたいことを見つけていこうと思っていました。スポーツに恩返ししたいな、何かビジネスをしたくなるんじゃないか、ということだけがぼんやりとあったぐらいでした」
まず廣瀬は、大学院に進学することを選び取る。入学したのは、オンライン授業を特徴とする「ビジネス・ブレークスルー大学大学院」。学長は経営コンサルタントの大前研一である。
「東芝のときは、研究開発センターにいて、お金と縁のなかった部署だったので、経営の基礎的なところを学びたかったんです。バランスシートなんて見たこともなかったですし。授業は、リアルタイム・ケーススタディが特徴で、いま、この会社の社長だったら、あなたはどうしますか、と問われたりする。いまの業界の流れ、どの企業が利益をあげているかなど、現実のビジネスを学びました」
経営学修士(MBA)を修得した2019年の3月、廣瀬は、東芝を退社し、「HiRAKU」を立ち上げた。「1年間は経済的にもなんとか生きていける」と思っての英断だったが、ちょうどそのタイミングで、廣瀬には思いもよらない話が舞い込んでくる。
日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(TBS系)への出演依頼だ。
「最初、むちゃくちゃ悩んだんですけど、何に悩んでいるかと考えたら、自分が知らない世界を怖がっているということに気づいた。あ、それはダメだな、出ればラグビー界に貢献できるわけだし、この話は取りに行かないとまずいなと思って、すぐに返事をしました」
もちろん、廣瀬に演技経験はなかった。
「セリフは最初、標準語だったんですが、関西弁に変えてもらったのでまず助かった。一字一句同じことを言わなくてもいいよとか、すごい大事にしてもらった。ジャイさん(福澤克雄ディレクター)が自分をリスペクトしてくれているというのを感じました」
収録は、会社の立ち上げと重なり、スケジュール的には大変だったが、出演は追い風となった。オンエア(7月7日〜)とともに廣瀬の知名度は著しく上がり、無名の会社としては、これ以上はないというスタートになったのだ。