特別インタビュー

ジーンズのように育てるカシミヤ。

2022.01.11

ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。

400_main 210917_5554
もちろん洗濯によって落ちていくが、未加工ゆえ付着した紡績油の匂いが、どこかオイルドコートを連想させる。スウェット感覚で付き合いたい一着。¥42,900/Yonetomi(米富繊維 023-664-8166

「これって本当にカシミヤなの?」とは、撮影時に偶然スタジオに居合わせた、若いライターさんの言葉。まあ無理もない。このニットはカシミヤ100%ながら、昨今ちまたに出回っているカシミヤとは全く趣を異にする、ゴワゴワでカチカチの肌触りが特徴なのだから。でも、そこそこ歴史の長い洋服好きとしては、このタッチは決して不思議じゃない。というか、むしろ懐かしい。そういえば昔、こんなカシミヤをよく見かけたよな〜、なんて。

実をいうと、僕たちがカシミヤにイメージするふわふわですべすべの肌触りは、編んだ後に洗ったり薬品を使ったり、毛羽立たせたりと、各社それぞれの加工によって表現されるもの。それに対して山形のニットメーカー「米富繊維」がつくったこちらは、洗いどころか染色すら施さず、強撚糸を極限まで高密度に編み上げることで、あえてカシミヤとは思えない質感を追求したものだ。もちろん着込んで水洗いを繰り返すことによって、カシミヤならではのソフトでつややかな風合いが生まれてくるのだが、リジッドジーンズをはくような感覚でその経年変化を味わってね、という意味で、『リジッドカシミヤ』と名付けられている。それがなぜ懐かしいのかというと、昔ながらのスコットランド製高級カシミヤニットには、こういう風合いのものが多かったから。ジーンズもそうだけれど、便利さと引き換えに失われていくものも多いのだ。

本当はこのニットをさんざん着倒して、洗い込んだらどうなるか?というリポートをしたかったのだけれど、1度や2度洗ったくらいではほとんど変化がない。メーカーの方に聞いたところ、1年着込んでもその手触りはハードなままだという。ゴワゴワのビンテージジーンズやオイルドコートのように、一生をかけて育てていく、ほかにはないカシミヤニット。いかにもラグジュアリー、といった風合いではないけれど、ここには本質的なぜいたくさが宿っていると思うのだ。


山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。

「アエラスタイルマガジンVOL.51 AUTUMN / WINTER 2021」より転載

Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)

買えるアエラスタイルマガジン
AERA STYLE MARKET

装いアイテム

おすすめアイテム

あなたへのおすすめ

トレンド記事

  1. 俳優・町田啓太と考える、装う美学。<br>春恋しい、「如月」のブルゾン。<br>【第二期】

    俳優・町田啓太と考える、装う美学。
    春恋しい、「如月」のブルゾン。
    【第二期】

    週末の過ごし方

    2024.02.09

  2. ユニクロのスーツ<br>ビジネスからセレモニーまで。<br>アンダー3万円で探すコスパ抜群なスーツ

    ユニクロのスーツ
    ビジネスからセレモニーまで。
    アンダー3万円で探すコスパ抜群なスーツ

    スーツ

    2024.02.19

  3. 町田啓太さんからのスペシャルメッセージ!<br>次世代スポットでのロケの感想は……?

    町田啓太さんからのスペシャルメッセージ!
    次世代スポットでのロケの感想は……?

    週末の過ごし方

    2024.02.26

  4. 神楽坂『龍朋』のりゅうほうめんでマッチのハートに火が付く!<br>マッチと町中華【第10回】

    神楽坂『龍朋』のりゅうほうめんでマッチのハートに火が付く!
    マッチと町中華【第10回】

    週末の過ごし方

    2024.02.02

  5. もしも香港出張が入ったら? 最新香港街歩き。

    もしも香港出張が入ったら? 最新香港街歩き。

    お酒

    2024.02.28

紳士の雑学