特別インタビュー

自分らしくいるためのスウェットのセットアップ。

2022.01.17

ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。

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滑らかな裏起毛素材を使ったスウェットパーカとパンツ。ドローコード先端に施されたレザーの飾りも粋。パーカ¥132,000、パンツ¥99,000/ブルネロ クチネリ(ともにブルネロ クチネリジャパン 03-5276-8300

僕にとって理想のおしゃれとは、もう20年以上も前に、パリで見かけたオジサンのスタイルである。早朝のカフェにふらりと入ってきた彼は、スウェットの上下にキャメルカラーのカシミヤコートをガバッとはおって、突っかけがわりにクロコダイルのローファーという、究極の寝起きファッション。髪の毛なんてボサボサで、クロワッサンをボロボロこぼしながら食べているのだが、その適当さは、まさに解脱の境地。オジサンになったら絶対にまねしてやろう!と長年夢見ていたのだが、気がついたら僕も中年真っただ中。そろそろ挑戦してみようかな、と思い立った。

カシミヤのコートもクロコのローファーもすでに持っているので、僕が手に入れるべきはスウェットの上下なのだが、これが実に難しい。スポーティーな化繊ものはカシミヤには合わないし、安価なものはすぐに膝が出て、お尻のあたりがテカテカになってしまう。結局のところ、かなり上質なものじゃないと、僕の理想のスタイルは完成しないのだ。

そんな試行錯誤の末にたどり着いたのが、ブルネロ クチネリのセットアップである。どこから見ても上質なコットン天竺素材と、霜降りのキャメルカラーという組み合わせは、カシミヤやクロコにも劣らぬ風合い。しかもパンツにはトラウザース的なディテールも採り入れているから、決してルーズには見えないし、革靴にだって合わせられる。コートをはおらず、スウェット上下だけでも格好よく着こなせそうだ。唯一ネックなのはスウェットの常識をはるかに超える、スーツなみの価格くらい? でもライフスタイルが大きく変わったウィズコロナ時代は、もはやそんな固定観念にとらわれるよりも、自分を本当にリラックスさせてくれるものに投資すべきなのでは?とも思わされる。よく考えたら、昔パリで見かけたオジサンの格好よさも、そうした装いだけがもたらす、自分らしさの賜物だったのかもしれない。


山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。

アエラスタイルマガジンVOL.51 AUTUMN / WINTER 2021」より転載

Photograph: Satoru Tada(Rooster)
Styling: Hidetoshi Nakato (TABLE ROCK.STUDIO)

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