スーツ
アメリカという文化を宿したブレザー。
2022.03.28
ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
僕は買い物が大好きだ。なかでも海外製品には目がない。だけど、単なるファッション好きとか、モノ好きとはちょっと違うと思っている。僕にとっての買い物とは、旅をするのと同じくらい大切な、その国の文化を知るための手段なのである。
たとえば薄く柔らかな仕立てで体のフォルムを意識させるイタリア製のジャケットからは、古代ローマ人の美意識を。頑丈な英国製のグッドイヤーウェルト靴からは、産業革命による機械化のルーツを。そして驚くほど適当に縫われたキューバ製のシャツからは、労働に対する嫌悪感を……(笑)。一着の洋服には、その国の歴史と哲学、そして美術史まで秘められているからこそ面白い。単純にクオリティーが高ければいいってもんじゃないのだ。
そういう意味では、最近のアメリカンブランドの洋服には少しがっかりさせられることも多い。トレンドに迎合してほかの国の要素を中途半端に採り入れた、無味無臭の服が多いのだ。縫製なんて多少雑でもいいから、多様性に富んだ文化や人種をガバッと丸呑のみするような、おおらかな服――。これこそが“made in U.S.A”でしょう!
そんな僕たちの思いを体現したかのようなネイビーブレザーが、この春復活を遂げた。つくったのは、かつてブルックス ブラザーズの傘下にあったファクトリー、サウスウィック。こちらは2年前にいったん操業を停止したものの、シップスが商標を取得。今季からブランドとして再始動したのだという。ナチュラルショルダー、3つボタンの段返り、パッチ&フラップポケット……。アメトラのお約束とも言えるデザインに加え、生地やボタンに至るまでアメリカ製にこだわった本物の一着は、ステッチ幅まであの頃と同じで、どんな人たちが縫っているのか想像すると思わずニヤニヤしてしまう。ただのいいモノならもういらない。僕がいま手に入れたいのは、お金だけでは決して買えない、文化と物語なんだ。
山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。
Photograph: Fumito Shibasaki(DONNA)
Styling: Eiji Ishikawa (TABLE ROCK.STUDIO)