カジュアルウェア
ニューヨーカーが蘇(よみがえ)らせたアメトラの幻想。
2022.04.04
ファッションエディターの審美眼にかなった、いま旬アイテムや知られざる名品をお届け。
「俺たちは一生アイビーの呪縛から逃れられないんだよ」。かつてDCブランドブームの一翼を担った団塊世代のファッションプロデューサーが、こんな言葉を漏らしていた。詳しくはアメリカ人ジャーナリストのデヴィッド・マークスさんが著した『AMETORA』という書籍を読んでいただきたいのだが、アイビーやアメトラという概念は、僕たち日本人のファッション観をある意味では支配しつづけ、そして近年は逆輸入という形で、本場のファッションにまで影響を及ぼしている。ずいぶん勝手なハナシだが、〝幻想のアメトラ〟を膨らませつづけた僕たちにとって、現代のアメリカブランドのつくる服は、本物感が足りないというか、少々薄味に思えたりもする。かといって日本人がつくる服でもダメなわけで、非常にややこしいのである。
そんな面倒くさい日本人を納得させる、数少ないアメリカ人デザイナーが、マイケル・バスティアン。僕たちが最もこだわる濃厚な蘊蓄(うんちく)の世界と、僕たちが知らない生粋のニューヨーカー的センスを兼ね備えた、唯一の存在である。実は昨年秋からはブルックス ブラザーズのクリエイティブ ディレクターを務めているのだが、そのコレクションが最高。繊細な色をまとったセーターや、現代的なフィット感に修正したシャツ、蘇った定番アイテムetc.。アメトラらしさもいまっぽさも、格段にアップデートされているのだ。
なかでも最も気になったのは、ボーダー柄のラグビージャージ。ラバーボタンをあしらったクラシックな仕立てだが、L.A.在住の現代アーティスト、デヴィッド・ホックニーが好んで着るような、ちょっとシュールなパステルカラーの組み合わせがたまらない。ジーンズやチノパンもいいけれど、僕だったらコットンスーツの下に着るだろう。いや、カットオフしたショーツに、素足でモカシンなんてスタイルも格好いいかも……。アメトラの幻想が、再び輝きを帯びてきた。
山下英介(やました・えいすけ)
ライター・編集者。1976年生まれ。『LEON』や『MEN'S EX』などの編集や、『MEN’S Precious』のクリエイティブ・ディレクターに従事した後、独立。趣味はカメラと海外旅行。
Photograph: Fumito Shibasaki(DONNA)
Styling: Eiji Ishikawa (TABLE ROCK.STUDIO)