週末の過ごし方

女子ゴルフ騒動で注目のプロキャディー……
気になる報酬額と求められる能力。

2022.06.29

写真・図版
6月11日の宮里藍 サントリーレディスオープンでの大西 葵(左)と大江順一キャディー(右)。(写真:日刊スポーツ/アフロ)

プロゴルフ史上、前代未聞の騒動が起きた。6月23日~26日、千葉・カメリアヒルズCCで開催された国内女子ツアーのアース・モンダミンカップ初日、キャディーが“職場放棄”してしまったのだ。そもそもプロゴルフ界では、選手が報酬を払ってキャディーを雇っており、そこには主従関係があるのだが……。その謎を解き明かしながら、プロキャディーの存在意義を紹介する。

これまでの報道によると、大西 葵が17番パー4で第2打を放った後に騒動は起きた。ボールは右サイドのペナルティーエリアである池方向へ。その後の対応で、大西のバッグを担いでいた大江順一キャディーは、ボールがあった位置(2打目地点)に戻り、1打罰で4打目を打つことを提案。それを大西が受け入れなかったことで、大江キャディーが「キレた」とされている。

結局、大西のボールは池の手前で止まっていたことから無罰で第3打を放ち、4オン1パットのボギー。だが、大江キャディーは第2打地点からバッグを担ぐことを放棄していたという。その後の振る舞いも含め、我慢ができなくなった大西は18番パー5のプレー前、競技委員にキャディーの交代を相談。一方の大江キャディーはそのままクラブハウスへと戻り、コースからも立ち去ったとされている。

大西は18番のティーグラウンドであふれる涙を拭き、なかなかショットを打てなかった。打った後は、同伴競技者の2人から励まされてもいた。その様子は、ネット中継でも映し出されていた。

あり得ない事態……。競技ゴルフで試合中に選手が頼れるのはキャディーだけで、JLPGA(日本女子プロゴルフ協会)ツアー規則の中には「帯同キャディー規則」の項目がある。そして、こう記されている。

「キャディーは、いかなる時でもエチケットとマナーを守り、他のプレーヤーに対しても心配りを忘れず、スポーツマンシップに違反するような言動をしてはならない」

「キャディーに関する一切の責任は、当該キャディーを帯同した選手が負うものとし、キャディーが本規則に違反したときは、トーナメント事業部は、当該キャディーを帯同した選手に対しても、別途定めるJLPGAトーナメント罰則規定に従って罰則を科すことができる」

要するに、選手だけでなくキャディーにも礼節が求められ、選手にはキャディーの「使用責任」があるということだ。事実、男女ともプロのトーナメントでは、多くの選手がプロキャディーを雇っている。年間で専属契約を結ぶケースもあるが、1試合ごとの契約が大半で、キャディー側への支払い条件は下記が一般的だ。

〇週10万~12万円(交通費、宿泊費込み)
〇予選通過で賞金額の5%を加算
〇トップ10で賞金額の7%を加算
〇優勝で賞金額の10%を加算

今大会アース・モンダミンカップの賞金総額は、ツアー最高の3億円で優勝賞金は5400万円。相場通りなら優勝した木村彩子に帯同した坂口悠菜キャディーは、週540万円を手にしたことになる。しかも、今大会には異例の「ベストキャディー賞」が設定されており、賞金100万円も獲得。夢のある職業だが、その仕事内容は過酷だ。

まずは、15キロ以上あるキャディーバッグを担ぎ、18ホールを歩く必要がある(手押しカート使用も可)。距離は10キロ以上で、起伏の激しいコースもある。練習ラウンドを含めると、それを週に5日、6日と続けることにもなる。

さらに、ターゲットまでの距離の計算やパットラインを読むことも含め、コースマネジメント(戦略)を選手と考える仕事もある。ただ、女子プロは若い選手が多く、キャディーは20代~50代の男性が中心。経験豊富なキャディーが、選手では想定外の判断を示すことで、スコアメークにつなげることもある。だからこそ、選手がキャディーに依存し、立場が逆転するケースも見られる。

しかしながら、キャディーにいちばん求められているのは、「選手を気持ち良くプレーさせること」。リラックスさせたり、励ます言葉を掛けたり、タイミングよく水や食べ物を渡す。そんなキャディーの「空気を読む」能力も、雇う選手はチェックしている。

かつて有名選手とコンビを組み、優勝に貢献したこともあるプロキャディーは、自身の経験も踏まえて言った。

「優勝争いの中、選手がミスをした直後に『まだここから』と言ったら、『うるさい』と返されました。腹が立ちましたが、そこは選手の置かれた状況を考えてグッと我慢しました。そして優勝が決まると、大歓声の中で『ごめんなさい。ありがとう』と言われました。あの瞬間のことは忘れられませんし、『一緒に戦ってきて良かった』と思いました。今回騒動を起こしたキャディーも優勝経験がありますし、同じような思いをしているはずです。もう『残念』としか言いようがありません」

選手を輝かせるために、全力を尽くすキャディーたち。木村が「優勝できたのはキャディーさんのお陰です。楽しい会話で和ませてくれました」と涙したように、その献身ぶりには頭が下がる。それだけに、騒動の衝撃度は大きい。再発がないことを願うばかりだ。

<<過酷な女子プロゴルフ界で際立つ鉄人・小祝さくら。 記事はこちら

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