特別インタビュー

未来のドレスコードを読み解く。
ピッティ歴33年の目利きの見立てとは?

2022.07.19

未来のドレスコードを読み解く。<br> ピッティ歴33年の目利きの見立てとは?
セブンフォールド社CEO加賀健二氏。25歳からイタリアの有名メゾンを日本に紹介しはじめ、「ピッティの羅針盤」とも言われたイタリアのウエルドレッサー・故フランコ・ミヌッチ氏の薫陶を受け、伝説のセレクトショップ「タイ・ユア・タイ・フローレンス」の暖簾(のれん)を守りつづけているメンズファッション界のレジェンド。関西とフィレンツェ気質が融合する雑談力の持ち主。

ひと足早い酷暑に見舞われた6月のピッティでは、スポーツやカジュアル系ブースが目立ったとはいえ、クラシコ・イタリア部門はファンタスティック・クラシックと名称を刷新し手堅いブランドが戻ってきた。そして会場に輝きを添えるのは、やはり仕立てのいいスーツに身を包んだ紳士たちである。このメンズファッションの祭典に1989年から通い詰め、ピッティ・ダンディの重鎮でもあるセブンフォールド社代表取締役の加賀健二氏に、これからのドレスコードの見通しを伺った。

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ピッティ会場内にて、クラシック系のメインパビリオンとアウトドア系のカヴァニリア・パビリオンの狭間にある出展者たちの一服どころの様子。かつてはスーツやジャケパン姿が多勢であったのに年々ラフなスタイルに押され気味で、スーツを涼しげに着こなす紳士にますます注目が集まる。

今回のピッティをどう見たのか

「前回よりも訪問客がぐんと増えて喜ばしいことです。全体的にヴィヴィッド・カラーが新鮮でした。そしてどこもスニーカーなどはやりのアイテムに特化している。旬なものを売ることは正しい姿勢と思います」。とは言えクラシック系ブランドはカジュアル化の津波にのまれそうだが。「グッチがアディダスとコラボしたように、カジュアルやストリートを咀嚼(そしゃく)し採り入れてゆくでしょう。でも多くのクラシコ系はバカ売れした時代から抜けきれていません。付加価値をどう捉えた売ってゆくかという課題が見えたピッティでした」。

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メインパビリオン前の大広場は例年だとスナップを狙う大勢のカメラマンでにぎわうが、コロナと炎天下でまばらモード。ピッティの今後について加賀氏は「バイヤーが皆パリコレなどに行けるわけではないので、イべントとして残ってゆくと思います。トレンドが見られて、直接オーダーできるとても効率のいい場ですから」と予測する。

未来のドレスコードはどうなる?

「今回のピッティでも、世界市場でもカジュアルの台頭とテーラーメイド志向の二極化は明らかです。後者はセミ・オーダーも含め特にアジアで順調に売上が伸びている。加えてコロナ禍のリモート生活中に着心地のいい服に慣れてしまったので、柔らかいラインと素材を採り入れた緩いスタイルの流れは続くでしょうね」。年の大半をトランクショーなどで世界を巡る加賀氏の実感のこもった言葉だ。

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ガリバルディブルー・ホテルの優雅なロビー奥に構えた展示会場でじっくりと接客する加賀氏。出入りするクライアントの年齢層が意外にも若くてびっくり。日本はもちろん、東南アジア各国に北欧から南米、オーストラリアまで世界中に世代を超えてファンがいるという。

売れるものは作らない選択

そんな目利きの加賀氏が率いるセブンフォールド社はどんな戦略を持つのだろうか。ピッティ会期中は街中心の常駐ホテルにブースを構え、主力ブランド「アットヴァンヌッチ」のネクタイの受注会を行う。あえて時代に逆行するようなアイテムで一本勝負である。会場には驚いたことに20〜30代とおぼしき各国のバイヤーが次々と訪れオーダーしてゆく。「秘訣? はやりで売れるものは作らないことかな。とりわけ効率の悪いセッテピエゲにあえて特化し、うちでしかできないものが評価されてきた感じです。覚悟が要りますよ」。

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主力ブランド「アットヴァンヌッチ」の2023SSのテーマはIsola Deserta。毎シーズン生地もデザインもオリジナル生産し、フィレンツェの自社工場で全工程熟練の職人の手により丹精込めて作られる。ミヌッチ氏直伝の「セッテピエゲ」は、生地も手間暇もかかる究極のネクタイで、手触りも締め心地も柔らかく艶やか。

経営魂がそのままサステイナブル

そうして好きなものを作りつづけられる環境を整えてきたという加賀氏。「いい生地屋や従業員に安心して働いてもらいたいから値引きはしません。私はもうかりませんが(笑)。そのまま後に続く者に渡してゆけたらと思っています」。なんと経営方針そのものが実に潔くサステイナブルだったのだ。ピッティで審美眼を鍛え、歴史と伝統に支えられたフィレンツェの粋と和の心が融合した加賀氏のネクタイは、もはやカルチャーでもある。

Photograph:Mitsuya T-Max Sada
Text:Michiko Ohira

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