週末の過ごし方
サステイナブルなシャンパーニュ造りをリードする「テルモン」
新しい価値観を創造する唯一無二の取り組み。
2022.10.18
シャンパーニュメゾン「TELMONT」(以下テルモン)には、いわゆるお決まりのラグジュアリーボックスがついていない。ボトルも主に再生ガラスを使用した明るいグリーンがベースだ。「ひとえに二酸化炭素の排出を減らすためです」と、CEOのルドヴィック・ドゥ・プレシ氏は言う。CO2の排出量を厳密に測ったところ、なんと、ボックス製作にかかる排出量が最も大きかったそうで、箱をなくせば8%減少できるとわかり、シャンパーニュ業界で初めて箱を廃止した。それほど、真剣にサステイナビリティに向き合っているのである。
テルモンは、シャンパーニュ地方エペルネ近郊のダムリー村で4代にわたる110年の歴史を持つシャンパーニュメゾンでもある。長い間、量より質を大切に、家族経営で真摯(しんし)にブドウ作りに向き合いながら、シャンパーニュを丁寧に醸してきた。できる限り昔ながらの方法でと、オーガニックへの転換も進んでいた。
一方、CEOのプレシ氏は、環境保護活動家としても知られるレオナルド・ディカプリオ氏と15年来の友人で、いわく「ディカプリオが、僕の頭の中に種を植えた」と言う。彼自身は、10年間ドン・ペリニヨンで働き、その後、レミーコアントロー社で経験を積んだ。その間に、サステイナブルなシャンパーニュを造りたいという、頭の中の種がどんどん大きくなっていったのである。「4つのキーポイントを満たすシャンパーニュメゾンを購入し、共同で経営し、理想のオーガニックシャンパーニュを世に出したいと思ったのです。4つのキーとは、100年以上の伝統を持つメゾンであること。家族経営であること。素晴らしいワインを造っていること。そしてすでにオーガニックに対して、高い意識を持っていること。それがかなったのが、まさにテルモンだったのです」と話す。最終的にはレミーコアントロー社が株式の半分を持ち、4代目当主のベルトラン・ロピタル氏とプレシ氏が4分の1ずつ、さらにディカプリオも出資し、「母なる自然の名のもとに」というスローガンをすべての活動の指標にし、シャンパーニュ造りに挑んできた。
活動のまず第一はオーガニック栽培。テルモンの自社畑は現在25ha。パートナー農家の畑が55ha。自社畑はすでにオーガニック認証を取得しているが、パートナー農家を含むすべての畑が2031年までに認証取得すべく取り組んでいる。実はシャンパーニュ地方では、オーガニック栽培がまだ4%しか進んでいないという厳しい状況のなか、いかに大変な数字であるかがわかる。
また、すべての醸造の工程に関して、透明性とトレーサビリティを何よりも大切にしていて、エチケットにはすべての数字が書き込まれ、一目瞭然で製造過程がわかるようになっている。ボトルの軽量化にも取り組んでいて、それが成功すれば、1本のボトルにつき8%ほどCO2を削減できるそうだ。
敷地内には太陽光発電を設置して、100%再生可能な電力を使用し、輸送に航空機を一切使わないなど、次世代のために多角的に環境を守ることに力を入れている。「カーボンニュートラルでプラスマイナスゼロに、という考え方もありますが、その前にまず私たちは、排出するCO2自体を減らすことに注力しているのです」とプレシ氏は言う。
日本には昨年から入荷しているが、知名度はまだまだ高くない。しかし、こうしたコンセプトが広く知られれば、多くの賛同を得るに違いない。今年からはさらに「テルモン サン・スフル」と「テルモン ブラン・ド・ノワール」が随時発売される。特にサン・スフルは無添加・無濾過・非加熱のナチュラルなシャンパーニュ。するすると喉を通る感覚は、自然派のシャンパーニュならではだ。ペルシ氏は将来的にはすべて亜硫酸塩無添加のナチュラルなシャンパーニュに転換していきたいとも話しており、ますます楽しみだ。
筆者も、シャンパーニュの箱が不要だと何度思ったことか。もちろんラグジュアリーなものに対する付加価値を生み出す必要があることは認めるが、それすら今後は時代遅れになっていくのではないかと思う。そんな新しい価値観を創り出そうとしているテルモンには、賞賛の声を惜しまない。テルモンが牽引することで、シャンパーニュ業界、ひいてはワイン産業また、一次産業に、意識改革が巻き起こることを願ってやまない。
Photograph:Hiroyuki Matsuzaki