お酒
貴島明日香さんと行く、ニューノーマル時代の“一人飲み”案内。
第1回 釣り堀 武蔵野園
2022.11.02
“酒は百薬の長”なんて飲兵衛の免罪符にも聞こえますが、一日の疲れをねぎらい、明日への活力を与えてくれるという意味では確かに薬であり、燃料のようなものかもしれません。なかでも、誰かに気兼ねすることなく楽しめ、黙食にも適した “一人飲み”は、時代の流れにも即しています。そこで、モデルおよび女優として活躍する貴島明日香さんをゲストにお迎えし、ひとりで飲みに行けるお店やスポットを巡る新企画がスタート。案内役を務めるのは、酒場ライターとして数多くの著作を持つパリッコさん。感染症対策を講じた飲み方を教えるライフハックでもなく、ましてや予約困難店や話題のニューオープンを並べたグルメガイドでもない、日々の暮らしにほんの少しの彩りを添える“つつまし酒(©︎パリッコ)”の世界へと誘います。
連載第1回は、杉並区の和田堀公園内にある「釣り堀 武蔵野園」を紹介。「整備された観光地ではない、川沿いや公園の中にたたずむ趣深い酒場」をライフワークとして探求するパリッコさんのおすすめ店を、貴島さんが初めて訪れます。
「わー、これはおいしそう! オムライスの卵焼きってこんなにきれいに巻けるものなんですね」。名物であるオムライスを目の前に、貴島さんの顔も思わずほころびます。ここ「武蔵野園」は、和田堀公園に隣接した場所で70年以上営業を続ける昔ながらの釣り堀。3代目の店主、青木大輔さんがお店を受け継いでから、釣り堀の一角にあった小さな食事処を全てDIYで拡張し、現在のような70ほどの席数を誇る水上のオアシスとでも言うべき異形のスペースが完成しました。
むき出しになった鉄パイプの枠組みにびっしりと透明のビニールシートが張り巡らされた空間は、パリッコさんが“日常の隣にある非日常空間”を楽しむ「天国酒場」と称するのも納得。メニューは、各種定食をはじめ、ドラマ『孤独のグルメ』で井之頭五郎氏が頼んだ親子丼やカレーなどのご飯もの、さらに焼き鳥や餃子といったおつまみからデザートに至るまで、大衆食堂ならではの豊富なラインアップとなっています。
今回は、貴島さんリクエストのチーズカリカリ揚げと、パリッコさんおすすめのカツ煮とゲソ揚げをチョイス。薄焼きの卵でチキンライスを包み、ケチャップソースをたっぷりと添えたビジュアル100点(若者風に言えばビジュ爆発)のオムライスを含めて、貴島さんの大好きなハイボールが自然と進みます。
ここ最近は仕事が忙しく、自宅で晩酌することが多いと話す貴島さん。おつまみはどうしているんですか?と尋ねると
「なんだろう……いつもはチクワとかですかね(笑)。チクワと言ってもちょっといいものになるだけで、ぐっとテンションが上がるんです!」と、予想の斜め上を行く答えが。YouTubeでの実況配信やゲーム番組のレギュラー出演など、生粋のゲーマーとしても知られる彼女にとって、ひと口で食べやすく両手が自由になるチクワは、かえって好都合なのかもしれません。その昔、カードゲームに集中するためにサンドイッチを考案したサンドウィッチ伯爵を思わせる意外な“ものぐさ”振りは、チャーミングなキャラクターを理解するのに十分でした。
さらに、その飾らない人柄を象徴するこんなエピソードも……。
「中学生の頃にチャットで知り合った佐賀県に住む女の子をオンラインゲームに誘ったのがきっかけで仲良くなって、大人になった今でも普通に飲みに行ったりしますよ」
インターネットを介して出会った顔も知らないあすかちゃんが、テレビで活躍する貴島さんだと知ったときのお友達の驚きは想像に難くないですが、それを日常の一コマとしてひょうひょうと語る彼女。必要以上に自分を大きく見せようとしない素直な人間性もまた、大きな魅力と言えそうです。
〈貴島明日香(きじま・あすか)〉
1996年2月15日生まれ。兵庫県出身。高校在学時にモデル活動をスタートし、神戸コレクションやガールズアワードなどで活躍。2017年に『ZIP!』(日本テレビ)の第7代お天気キャスターに就任すると、ORICON NEWSの「好きなお天気キャスターランキング」で1位を獲得。2022年3月に同番組を卒業するまでおよそ5年間勤め上げ、歴代在任最長記録を更新する。現在は、『non-no』(集英社)で専属モデルを務める傍ら、ドラマ出演やABEMA公式アナウンサーとして活動するなど、多方面で活躍。ゲーム配信や愛猫家としての素顔を見ることができる自身のYouTubeチャンネル『あすかさんち。』は、登録者数45万人を誇る。
〈パリッコ〉
1978年東京生まれ。酒場ライター、DJ/トラックメイカー、漫画家/イラストレーター、他。2000年代後半より、お酒と酒場関係の執筆活動をスタートし、雑誌やWEBサイト、テレビ番組などさまざまな媒体で活躍。著書に『酒場っ子』『ノスタルジーはスーパーマーケットの2階にある』(共にスタンド・ブックス)、『晩酌わくわく!アイデアレシピ』(ele-king books)など多数。最新刊となるスズキナオ氏との共著『ご自由にお持ちくださいを見つけるまで家に帰れない一日』(スタンド・ブックス)が現在、好評発売中。
〈訪れた場所〉
釣り堀 武蔵野園
京王井の頭線西永福駅から徒歩15分ほど(永福町からバスでのアクセスも可能)の和田堀公園に隣接した釣り堀併設の飲食店。水上に建てられた飲食スペースでは、各種定食や麺類、カレー、おつまみなど50種類近くのフードメニューと各種ドリンク類を用意し、いつも多くの人でにぎわっている。釣り堀の利用は餌とレンタルの竿代込み1時間800円で、コイやフナなど4つの釣り堀を備えている。
東京都杉並区大宮2-22-3 和田堀公園隣接
TEL:03-3312-2723
営業時間:9:00〜17:00(※短縮営業中)
定休日:火曜
〈パリッコのここがおすすめ〉
「天国的なシチュエーションはもちろんなのですが、武蔵野園の魅力は家族経営の温かい雰囲気にもあります。とりわけ店主・青木さんのバイタリティーは圧巻で、水上テラススペースは日々進化中。訪れるたびに増えている新メニューも楽しみのひとつ」
Photograph:Satoru Tada(Rooster)
Styling / Hair & Make-up:Yusuke Hashimoto(TRAPEZISTE)
Text:Tetsuya Sato