お酒

泡盛を通じて、沖縄を知る。
「星のや沖縄」のソーシャルグッドな地酒探訪。

2023.03.07

泡盛を通じて、沖縄を知る。<br>「星のや沖縄」のソーシャルグッドな地酒探訪。

社会によりよい取り組みを行うソーシャルグッドなホテルを、トラベルエディター伊澤慶一が紹介。今回は沖縄県・読谷村に2020年7月に開業した「星のや沖縄」へ。滞在中、日本最古の蒸留酒「泡盛」を探究するアクティビティに参加することで、またひとつ沖縄の魅力を発見することができた。

星のや沖縄は一般的に思い浮かべる沖縄のビーチリゾートとは一線を画した存在だ。全室オーシャンフロントの客室からはサンゴ礁豊かな遠浅のビーチを心ゆくまで堪能できるし、その海まで続いて見える全長40mのインフィニティプールは開放感抜群。そこが楽園であることは紛れもない事実だが、その一方でレセプションやダイニング棟に窓はほとんど設けられておらず、その眺望を売りにしているわけではない。むしろ、海やプールだけじゃない、よりディープな沖縄文化と対峙するため、有料無料のさまざまなアクティビティを用意し本質的な旅を提案してくれる。星のや沖縄とは、そういう宿である。

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加温式のプールのため、冬でも温水で楽しめる。12月〜2月の夕方には、プールでシャンパーニュや泡盛カクテルが楽しめる「夕映えホットプールアペロ」が開催される。
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読谷村の伝説や風習を琉球紅型(びんがた)で描いた客室ベッドルームの壁紙。ほかにも読谷山花織(ゆんたんざはなうい)のコースターや、やちむんの茶器など、沖縄ならではの工芸品が置かれている。
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    沖縄の深海をイメージしたレセプション。この反対の壁側には天井から光が差し込み、実際の海中さながらのライティングで非日常へ誘う。
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    客室棟を囲む高さ4.5mのグスクウォールにも「読谷山花織」の模様が。沖縄の人々の暮らしを守るグスク(城塞)から着想を得たという。

例えば、チェックインしたゲストは「道場」と呼ばれる建物で、炒り米を煮出したお湯とさんぴん茶を混ぜて泡立た「ぶくぶく茶」が振る舞われる。これはかつて旅人の航海の無事を願って振る舞った伝統的なお茶で、実に沖縄らしいウェルカムドリンクから滞在はスタートする。ほかにもゲストは、読谷村で盛んだった琉球競馬にちなんだ「朝凪よんなー乗馬」や、琉球空手の型を採り入れたストレッチ「朝の鍛錬深呼吸」など、敷地内にいながら気軽に沖縄文化に触れ親しむことが可能。もっと本格的に学びたい人は「島の手習い」として歌三線や琉球舞踊、琉球空手などのレクチャーが受けられ、ゲストの本気度に合わせて数多くのアクティビティが用意されているのが星のや沖縄の魅力だ。

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正面に海を望む道場で、泡が乗ったぶくぶく茶を吸い込むように味わう「海辺のひととき」。毎日15:00-16:30の間、無料で開催される人気のアクティビティだ。
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    空手が沖縄発祥の武術であることから敷地内に道場が設けられている。東京五輪金メダリストの喜友名 諒(きゆな りょう)選手も「世界一美しい道場」と絶賛した。
  • 600_【星のや沖縄】朝凪よんなー乗馬_客室窓から
    かつて読谷村には琉球王府が管理する広大な馬場があったことから、海岸での乗馬体験を毎朝催行(有料)。高い目線から散策するビーチはとても心地が良い。

そんな星のや沖縄で、より沖縄文化にどっぷり浸かれるのが「泡盛ディスカバリー」だ。これは琉球王朝時代から続くと言われる日本最古の蒸留酒、泡盛についてとことん楽しみ尽くすアクティビティで、歴史や製造過程、テイスティングや料理とのペアリングなどを2泊3日にかけて学ぶ(2021年の冬より期間限定でスタート。今シーズンは2022年12月1日〜2023年2月28日)。星のや沖縄の敷地を飛び出しての見学・体験などもあり、ほかのアクティビティに比べてもより本格的な内容になっている。

「泡盛ディスカバリー」の客がホテルに到着すると、まず客室で「泡盛インビテーション」と名づけられた泡盛の歓迎を受ける。上を向いた注ぎ口が特徴的な「カラカラ」から、「ちぶぐわー」と呼ばれるお猪口に泡盛の古酒(クースと発音する)を注いで飲むのだが、「荒焼(あらやち)」と「上焼(じょうやち)」、焼き方の異なる2種のちぶぐわーで味わうことで、その繊細な舌触りや風味の違いを体験できる。私もこれまで沖縄料理屋で泡盛を飲んだことはあったが、ここまで華やかな香りではなかったため、序盤から想像を超えた衝撃的なスタートとなった。

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客室に置かれた「泡盛インビテーション」セット。古酒の育て方や酒器の特徴など、泡盛に精通したスタッフからレクチャーを受けながら、泡盛ディスカバリーの旅が始まる。

翌日の午前中は「泡盛ジオガイド」と呼ばれる、泡盛の源流を巡る旅へと出発する。まず向かったのは、沖縄本島中部最大級の鍾乳洞「CAVE OKINAWA」だ。泡盛に限らず日本酒や焼酎など、酒造りには奇麗で豊富な水が欠かせないが、起伏が少なく、雪解け水もない沖縄でそれを確保するのは本来容易なことではない。しかし、沖縄は場所によってサンゴ礁が隆起してできた琉球石灰岩という地層があり、これが水をよく通すことから周辺は地下水を豊富に含み、地層の境目で水が湧き出ることが多い。この湧水こそがおいしい泡盛の原料水となるのだが、そんな沖縄特有の地質を簡単に可視化できるのが鍾乳洞だ。水による浸食を受けやすい石灰岩は、しばしば地下で空洞化して鍾乳洞となる。鍾乳洞見学では、実際に洞窟内で石灰岩を通過して濾過された雨水が地下水として流れている様子も見ることができる。この美しい水が豊富にあったからこそ、沖縄は泡盛製造が可能だったと知るとなんとも感慨深い。

また個人的にとても楽しみにしていたのが、鍾乳洞のあとに訪れる創業明治15年の老舗泡盛酒造「神村酒造」の見学だ。これまでリゾナーレ八ヶ岳や界 松本のアクティビティでワイナリーを訪問したことはあったが、泡盛の酒造所を訪れるのは初めて。やはり酒蔵を見学し、職人たちによる製造過程やラベルの名前に込めた思い、おすすめの飲み方などを実際に教えてもらうと、そこの酒にも愛着が湧くというもの。お酒好きにはたまらない、大人の社会科見学である。

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CAVE OKINAWAでは、整備された歩道の脇をきれいな湧水が流れる。沖縄北部では鍾乳洞の中で泡盛を熟成させる酒蔵もあり、鍾乳洞と泡盛は密接な関係がある。
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かつて泡盛は琉球王府の指定した酒造所でしか造ることを許されなかった。神村酒造は那覇の首里に近い繁多川で産声をあげ、平成11年に自然豊かなこの地に酒造所を移転した。
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    原料のインディカ米の糠を落とし、蒸気で蒸し上げ黒麹菌を散布。その後、麹の生育からモロミの醸成、蒸留、そして貯蔵という一連の過程を見学することができる。
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    三代目神村盛英はウイスキー樽で泡盛を寝かすことを考案。樽貯蔵泡盛「暖流」はウイスキーのような樽香が漂い、ソーダで割った「暖ボール」は沖縄で人気の飲み物だ。

この日、神村酒造を案内してくれた古酒蔵店長の中里さんは、「泡盛は、時を重ねるごとにおいしくなるお酒です」と話してくれた。例えば寝かせる甕(かめ)の材質によっても、成分が溶け出すことで味わいが異なるという。また古酒の熟成には当然適した環境があるが、神村酒造では気温や湿度変化の少ない地下蔵を設け、一般客が購入した神村酒造のお酒を保管。最適な環境で、最高の古酒へと育てる手助けもしてくれる。知識が深まったところで見学後には古酒を含んだ計4種の泡盛の試飲とペアリングを体験し、存分に堪能することができた。

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地下蔵に眠る古酒。預けた年別に分けられ、所有者のメッセージや写真が添えられている。子どもが成人してから飲もうと、家族写真を飾る方が多いという。
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フラッグシップである「守禮」と樽貯蔵の「暖流」を、新酒・3年古酒で飲み比べ。それぞれに合うペアリングを提案してくれ、泡盛の奥深さを知らされた。

神村酒造見学から星のや沖縄に戻ると、いよいよ泡盛ディスカバリーもクライマックス。お待ちかねのディナーは、道場の隣にある「ゆがふキッチン」を貸し切ってのプライベートダイニングだ。「ゴーヤーと人参のもろみ酢和え」や「グルクンの南蛮漬け」といった沖縄らしい先付から始まり、旬魚のお造り、4種の部位を味わう牛肉しゃぶしゃぶなど、非常にぜいたくな内容となっている。泡盛は「粗濾過泡盛 (咲元酒造)」「時雨(識名酒造)」「守禮(神村酒造)」をストレートやロック、お湯割などさまざまな飲み方でペアリング。最後はアイスクリームと「残波(比嘉酒造)」を一緒に味わう泡盛のアッフォガードで締めくくり、まさに泡盛三昧のディナーである。

そして夕食後は、なんと道場内に場所を移してのプライベートバータイム。この空間を貸し切りにして提供するのは、こちらのアクティビティが初だそうで、そうした使われ方が今までなかったのがもったいないと思うほど、厳かで素晴らしい雰囲気だ。ここで楽しむのは9種の肴(さかな)を詰め込んだ「泡盛ダイアログセット」。専属のバーテンダーのおすすめのもと、いよいよ自分好みの最高の泡盛が見つかる瞬間だ。

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    「ゆがふキッチン」での夕食、お供はもちろん泡盛。アルコール度数が30度前後と高いお酒だが、多彩なアレンジが可能なため、食中酒として幅広く楽しめる。
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    泡盛に精通するスタッフが、20種類以上の泡盛からおすすめを提案してくれる「プライベートバー」。
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田芋フリットとチーズ、島らっきょう、島豆腐と海ブドウ、カプレーゼ、チョコレートテリーヌ、沖縄ぜんざいなど、多彩な味覚でペアリングがますます楽しくなる「泡盛ダイアログセット」。

ちなみに「泡盛ディスカバリー」は、プライベートバーで泡盛を堪能した翌朝、部屋の冷蔵庫に冷えているもろみ酢(泡盛の製造過程で抽出される健康ドリンク)を飲み、すっきりと目覚めるところまでが一連のプログラムなっている。地元沖縄の酒文化に触れ、理解促進や普及にひと役買う、なんともソーシャルグッドなアクティビティ「泡盛ディスカバリー」。古酒という非常に奥深い世界も教わり、今後の沖縄旅行や食体験がますます楽しいものになりそうだ。

そういえば星のや沖縄も2023年7月で開業3周年。時と共に円熟味を増していくのは、古酒もホテルも同じであろう。3年、10年、そしてその先も……。これからどのような進化と熟成を遂げていくのか、こちらも楽しみでならない。

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今回2022年12月〜2023年2月で催行していた「泡盛ディスカバリー」。2023年12月にはまた内容を新たにカムバック予定とのことで乞うご期待!

星のや沖縄
■アドレス 沖縄県中頭郡読谷村儀間474
050-3134-8091(9:30〜18:00)
https://hoshinoya.com/okinawa/

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