スーツ
卒業&入学式に親子で着たいセレモニーコーディネート。
“ハレの日”こそ、ルールとマナーが肝要と心得よ!
2023.03.06
春は旅立ちの季節。本誌の読者のなかにも卒業式や入学式に参列し、成長したお子さんの晴れ姿を見届ける方も多いはず。そこで本稿では、大学の卒業および入学式典における父親と息子、それぞれに適したセレモニースタイルを提案します。コーディネートのアドバイスをいただくのは、「ザ・スーツカンパニー」のプレス・萩原秀哉さん。スーツのプロが考える“ハレの日”にふさわしい装いを学べば、思い出のワンシーンはきっとステキなものになることでしょう。
Situation 1 入学式
見た目の華やかさより、調和する美しさを。TPOを意識した、端正かつスマートな装いがベストな選択
「大学生なんだから、入学式の服くらい好きに着させてよ」。お子さんがそう言いたくなる気持ちもよくわかります。おしゃれが好きな子なら、なおさらでしょう。とはいえ、18歳はもう成人。大人になれば、さまざまな場面でそれにふさわしい言動や振る舞いが求められます。
装いもまたしかり。Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場面)を意味する「TPO」がいかに大切なのかをこの機会に知ることは、今後の学生および社会人生活においてきっと役立つことでしょう。何より、ルールやマナーにのっとったスーツスタイルは、装うことの楽しさという新たな気付きを得るはず。“論より証拠”とは堅苦しいクリシェですが、父親はファッションを通してそれを伝えてみてはいかがでしょうか。
【息子の入学式スタイル】
萩原さんがまず、子どもの入学式用に提案してくれたのは、グレーのシングルスーツ。
「初めてスーツを着る方のために、大人っぽい印象を与えるチャコールグレーのスーツを選びました。Vゾーンも爽やかなネイビー系でまとめれば、フレッシュな正統派コーディネートの完成です」
落ち着きのあるグレースーツですが、Vゾーンの組み合わせ次第でぐっと洗練された印象に映ります。
「ピッチ幅の狭いロンドンストライプのシャツと、ネイビー地に同色のシャドードット柄を配したネクタイを合わせることで、さりげないしゃれ感を添えました。全体的に寒色系の合わせなので、足元は黒のストレートチップがマストですね」
最もフォーマルな靴が黒のストレートチップであることも、若者世代なら初めて知るドレスのルールなのかもしれません。ちなみに、避けたほうが無難なスーツスタイルはありますか?
「入学式では割と多い、過度な色使いはあまりおすすめしませんね。鮮やかな色みのシャツやネクタイは実際には着こなすのが難しく、式典では悪目立ちする可能性もあります」
【父親の入学式スタイル】
一方、父親にはダークネイビーのシングルスーツをセレクト。
「晴れて大学生となった息子の門出に父親も張り切りたいところですが、今回はシンプルなダークネイビーのスーツを選びました。生地は『カノニコ』(イタリアの織物業者『ヴィターレ・バルベリス・カノニコ』)製を選び、上質なSUPER110’sウールならではの美しいつや感とドレープが品のある高級感を漂わせます」
「Vゾーンはサックスブルーのシャツにグレーのソリッドタイで上品な印象に。シューズはむろん、ブラックのストレートチップ一択です」
一見すると、シンプルかつ正統派な装いですが、スーツとVゾーンの合わせを親子で見比べると、ベースカラーや色調が対になったクロスコーデになっています。こうした知的な遊び心を忍ばせるのも、スーツスタイルの醍醐味のひとつといえるでしょう。
Situation 2 卒業式
素材使いや合わせのテクニックで、華やかさを演出。息子の晴れ舞台をリンクコーデで忘れられない思い出に。
袴や振袖姿の女子学生も多い卒業式は、解放感も手伝って多幸感あふれる “ハレの日”ムードに包まれています。男性も入学時と比べれば、過酷なリクルート活動を経て、スーツにおける着こなしのイロハを理解したに違いありません。それならば、いつものスーツスタイルを格上げした、華やかな装いにチャレンジしてみてはいかがでしょう。
上質なファブリック、目を引く柄行き、アクセントを添える小物使いなど、確かなアイテム選びとちょっとしたテクニックひとつで華やいだセレモニースタイルが完成します。さらに、親子でさりげないリンクコーディネートができれば、何げない記念撮影だって何年たっても見返したくなるような特別な一枚になりそうです。
【息子の卒業式スタイル】
萩原さんがおすすめするのは、ネイビーのスリーピーススーツ。成長した大人の姿を品格と共にアピールできそうだが、それ以外にも理由があるのだとか。
「スリーピースであれば、シチュエーションによってベストを外して雰囲気を変えたり、友人の結婚式で着用したりと、卒業式以降の汎用性が高いのもポイントです」
加えて、スリーピースの場合、渋くなりすぎないような色柄も重要。
「ネイビー地の繊細なマイクロチェック柄を選びました。Vゾーンは、サックスブルーのシャツとブルーのヘリンボーン柄ネクタイを合わせてワントーンにまとめることで、スマートかつスタイリッシュに決まります。ネクタイとチーフも上質なシルク素材を選べば、式典に合わせたラグジュアリーな雰囲気を演出できますよ」
3ピースを着なれていない若者には、もうひとつ萩原さんからの念押しが。
「ベストのボタンは一番下をあえて開けるのがセオリーです」
着用する際は、お忘れなく。
【父親の卒業式スタイル】
近年のビジカジスタイルの普及を踏まえ、「これから社会人になる息子に対して、父親なりのお手本」というイメージで、萩原さんがチョイスしたのは今回唯一のジャケパンスタイル。
「北イタリアの生地メーカー『レダ』社のネイビージャケットに、ミディアムグレーのスラックスという王道の色合わせ。ジャケットはさりげないウィンドーペン柄を選び、こなれ感やほどよい華やかさを意識しました」
父親は大判のチェック柄、息子は細かいチェック柄でそろえた、これ見よがしにならないリンクコーディネートは、ぐっと洒脱な印象に。
「ジャケットが大柄なのでシャツは無地、ネクタイは小紋柄を選ぶことで、柄同士がうるさくならないようにうまくバランスを取っています。足元はカジュアルなローファーでも成立しますが、やはり式典ですので、レースアップシューズでかっちりと決めるのが良いでしょう」
今回紹介した4つのスタイルに共通するのは、見栄えだけに終始せず、スーツやジャケットスタイルにおける着こなしのルールや鉄則がまず前提にあること。華やかな場だからこそ、TPOをしっかりわきまえることが大人のたしなみと言えます。これを参考に早速、親子でコーディネートの相談をしてみてはいかがでしょうか。
Text:Tetsuya Sato