週末の過ごし方
100年後の豊かさのために…
映画と学術タッグを組む
【センスの因数分解】
2023.05.01

仕事を形容する言葉は多々ありますが、「やりがいのある仕事」ほど多くの人が目指す存在はないかもしれません。一方で、使命を与えられたかのような「役割としての仕事」も確かにあることを、実は誰もが知っているのではないでしょうか。
映画と学術がタッグを組んだ『YOIHI PROJECT( 以下YP)』は、「100年後の君たちが、YOIHI(良い日)を迎えられる」ことを目指し、エンターテインメントの力でアクションを起こそうと発足。ファウンダーは、長らく第一線で活躍してきた映画美術監督の原田満生さんです。

「いわゆる商業映画の制作に携わってきましたが、体調を崩したことで自己を見つめ直す時間が生まれました。そんなときに、バイオエコノミーにおいて国内をリードするフェローの方と知り合う機会があったんです」
バイオエコノミーとは、バイオマスやバイオテクノロジーを利用し目指す循環型社会経済のこと。化石燃料や食料不足の問題や自然破壊などを抱える現代において、地球規模で取り組まなくてはならない事柄です。
「彼らは考えるということに関しては一流ですが、それを伝えるには足りないところがあると感じました。ならば映画という手法を用いてそれを広く伝えられないかと考えるようになりました。そんなとき、フェローから江戸時代のサーキュラーシステムの話を聞く機会があり、社会を下支えする産業やそれに従事する人たちにスポットを当てた時代劇という案が浮かんできました。多くの映画を一緒につくってきた阪本順治監督に話したところ、一緒にやろうと快諾してもらったんです」

こうしてYP発信の映画『せかいのおきく』は始動します。当初はプロデューサーを務める原田さんが私費を投じていました。「はじめは短編映画として作り、配信での公開を考えていたのですが、やはり15分では伝えたいことが伝わらないと、劇場映画を目指すことにしました」
その後出資者を得て、劇場版として完成。伝えたいメッセージを映画にするだけでなく、映画を通して得たレスポンスを学術チームにフィードバックすることで、循環型社会実現への相乗効果を目指しているそうです。
「次はマタギのドキュメンタリー映画を製作する予定です。マタギには跡を継ぐ、というテーマも含まれ、これも循環の一種だと思います。活動を通じて、循環していくことの大切さを実感しています。ですからYPにゴールはない。続け、そして回していくのが目的です」
ランキングやアワードが大きな到達点であるエンターテインメントの世界。しかし歩みを止めず、大きなメッセージを人々に伝えていくのも、大切な役割ではないでしょうか。やりがいだけでなく、役割として。ひとりの映画人から始まったYPは、循環、命をつなぐ大切さを伝えつづけます。