腕時計
【IWC】
Watchmakers' Philosophy
ブランドの顔は時計師にあり。
2023.05.22
われわれと同じ時代の空気を呼吸している、リヴィング・レジェンドと呼ぶにふさわしい時計師の手による時計からは、彼らの哲学や手触りが伝わってくる。ウォッチジャーナリスト、まつあみ靖が、彼らと出会った際の肉声と共に、その深遠な世界をナビゲート。
魂を継承するパーペチュアルカレンダー
1868年、ボストン出身の時計職人にして実業家のF.A.ジョーンズによってスイスのシャウハウゼンに創業したIWC。現在はパイロット・ウォッチ、ポルトギーゼなど7つの柱となるコレクションを擁し、質実剛健かつ実用性、信頼性の高さで評価を高めている。
そんなIWCが、クオーツショックからの機械式時計復興期に当たる1985年に発表した記念碑的モデルが「ダ・ヴィンチ・パーペチュアルカレンダー」だ。汎用ムーブメントのヴァルジュ7750をベースに、4桁の西暦表示を備えた永久カレンダー機能や高精度ムーンフェイズなどのモジュールを重ねた。この設計者こそ伝説的な時計師、クルト・クラウスである。
「75年に当時の経営陣に掛け合い、デイトやムーンフェイズ付きの機械式腕時計を作ったところ100本が完売。クオーツショックのさなかでも、こうした需要があると確信し、80年からパーペチュアルカレンダーの開発に着手しました」
2017年にジュネーブで対面した彼は、この特別なモデルの誕生について、こう語りはじめた。
「コンピューターなど影も形もなく、1000分の1㎜単位までさまざまな計算式を用いて算出し、設計も手作業で起こさなければならなかった。それもたったひとりで」
85年に発売にこぎ着けると、機械式時計復興を象徴するモデルとして大いに歓迎を受ける。しかし、彼は100%満足してはいなかった。ベースキャリバーも自社製に──その思いが残った。
30年以上を経た2017年、その願いがかなうときが来た。
「既に私は現役を退いていましたが、『ダ・ヴィンチ・パーペチュアルカレンダー』のリニューアルに当たり、自社製ベースキャリバーが採用されました。実はその10年前に、こうした場合を想定しパーペチュアルカレンダーモジュールの基本設計を作っておいたんです。それを現役の若い技術者がうまく化粧してくれました(笑)」
IWCの技術と伝統が、脈々と受け継がれていく。その魂が、このタイムピースに宿っている。
Text: Yasushi Matsuami
Illustration: Mai Endo
Edit: Mitsuhide Sako(KATANA)