腕時計
【Hajime Asaoka】
Watchmakers' Philosophy
ブランドの顔は時計師にあり。
2023.05.15
われわれと同じ時代の空気を呼吸している、リヴィング・レジェンドと呼ぶにふさわしい時計師の手による時計からは、彼らの哲学や手触りが伝わってくる。ウォッチジャーナリスト、まつあみ靖が、彼らと出会った際の肉声と共に、その深遠な世界をナビゲート。
精密加工への執念と、デザイナーの視点と
CNCマシン※までも自作して時計製作に臨んでいると聞いていた。浅岡 肇のアトリエを初訪問したとき、峻厳なまでの製作姿勢に背筋の伸びる思いがした。
※コンピューター制御による切削マシン
「部品のひとつひとつを手作業で作るベテラン時計師を尊敬しますが、それでも手作業のみでは、微細な誤差が生じてしまう。それを機械も用いて完璧に近づけたい」
そこに“精密加工の鬼”がいた。
彼のキャリアは、一般的な時計師とは大きく異なる。東京藝術大学を卒業後、グラフィックやプロダクトのデザイナーとして活躍。本格的に時計製作に取り組んだのは2008年。
「リーマンショック後、仕事が減り時間ができたことで、腕試しのつもりで」
トゥールビヨンを手掛けはじめたのが夏。年末にムーブメントはほぼでき上がり、翌09年春には外装も自作し、1年足らずで完成させてしまう。
その後も、大型のテンプをムーブメントのセンターに配した「TSUNAMI」、クロノグラフなどを発表。日本の精密加工のスペシャリスト企業2社とコラボしたトゥールビヨンも、日本のハイレベルなもの作りを発信するプロジェクトとして注目を集めた。
世界のハイエンド・コレクターたちが熱い視線を注ぐ「HAJIME ASAOKA TOKYO JAPAN」の作品の一方、「浅岡肇のプライベートウォッチ」をコンセプトに立ち上げた「CHRONO TOKYO」およびその海外向けブランドで、カタカナの「クロノ」のロゴを掲げた「KURONO TOKYO」では、時計デザイナーとして力を傾ける。全工程を自身で手掛ける一点物の難しさはもちろんだが、量産化のためのデザインや発注の在り方には、別のハードルがある。それを、彼一流のノウハウでクリアしているのだ。「KURONO TOKYO」のモデルは、オンライン予約開始からわずか数分で完売という状況が続く。時計職人的観点とは異なるデザイナーとしての視点からの独創的な作風が愛好家の心を捉えているのは間違いない。
Text: Yasushi Matsuami
Illustration: Mai Endo
Edit: Mitsuhide Sako(KATANA)