週末の過ごし方
女子ゴルフをリードする山下美夢有と岩井姉妹
共通する「人として」の振る舞い。
2023.06.23
国内女子ゴルフツアーは今、山下美夢有(加賀電子)VS岩井ツインズの様相になっている。5月のRKB×三井松島レディスで3人によるプレーオフが、6月のニチレイレディスで最終日最終組が実現した。ニチレイレディス終了時のメルセデス・ランキング(MR)は、1位山下、2位岩井千怜、3位申 ジエ、4位岩井明愛。今季16試合中、7試合は3人のうち誰かが優勝(山下4勝、千怜2勝、明愛1勝)。直近、6試合では5勝(山下3勝、千怜2勝)となっている。
21歳の山下は昨年の年間女王。5歳のとき、一緒にゴルフを始めてくれた父・勝臣さんが今もコーチを務めている。仕事があるため、週末に駆け付け、スイングのズレを見つければ修正するの繰り返し。そこが最大の強みになっている。
「父はひと目で修正点に気付いてくれます。スイング自体は変えていませんが、父の指摘を信頼していつも試合に臨んでいます」
岩井姉妹にとっても、父・雄士さんの存在が大きい。小1で練習場リンクス・ゴルフクラブ(埼玉・毛呂山町)に連れて行ったことをきっかけに、2人がゴルフに夢中になった。運動能力が高く活発な姉妹は陸上競技も楽しみ、小学校時代の持久走は毎年1、2位を分け合った。裕福ではなかったが、雄士さんは節約をし、弟の光太も含めて3人の子どもたちが上達できる環境を整えてきた。強制はせず、その時々で本人に判断させる教育方針。体づくりの大切さは伝え、技術指導は同練習場の永井哲二コーチに任せてきた。
ニチレイレディス最終日の6月18日は「父の日」。最終組で回ることになった姉妹は「恩返しのためにも最高の父の日にしたいです」と話していた。優勝はできなかったが、父から教えられてきた「プロならプレーでお客さんを喜ばせる」を実践した。8番パー4、明愛はバンカーの淵に止まったボールを右手だけでアプローチし、チップインさせた。ツアー史に残るミラクルショットだった。千怜は得意のパッティングで、8番から4連続バーディー。さわやかなスマイルも含めて観客を魅了した。
そして、山下と岩井姉妹は戦いを終えた後、ハグをし合い、ボランティア、ファンへ丁寧に感謝を伝えていた。歩みは違えど、人として「大切なこと」を教えられてきたからだ。
山下は優勝会見で「ジュニアのとき、ミスをしてハウスキャディーさんにあたってしまって、父にめっちゃ怒られて泣いたことがあります。技術よりも、礼儀、マナーのことで厳しく言われてきました」と振り返った。岩井姉妹も幼いころから、父に「困っている人がいたら助ける」「独りぼっちの子がいたら仲間に入れる」「やられて嫌なことはしない」「女の子と小さい子に優しくする」と教えられたことを公言している。
そんな心技体がそろった3人の争いを見て、ツアーの人気が一気に上がった2004年、05年のことを思い出した。当時の最強は20代後半の不動裕理。対抗していたのが20歳手前の宮里 藍だった。宮里は「不動さんに勝ちたい」の一心で、「不動さんがコースを離れるまでは練習を続ける」と決めていた。その姿に引っ張られ、ほかの若手たちも練習量を増やした。長くツアーに携わる関係者は言った。
「とんでもなく強い人がいることは大きいです。その人に『勝ちたい』と思う気持ちこそが、力になるからです。不動VS宮里の時代と違うのは、姉妹がそろって最強の山下さんに対抗していること。世界でも見られない面白い構図です」
事実、岩井姉妹は「美夢有さんは隙がない。どうすれば勝てるのかと思いながらプレーしています」と声をそろえ、山下も「岩井さん姉妹は距離も出るし、一緒に回って勉強になることも多いです。焦ることもあります」と話している。リスペクトし合える1歳差の3人。7、8月には海外メジャー大会に挑戦するが、世界でどれだけやれるのか。ファンのみならず、本人たちもそれを楽しみにしている。