お酒
伝説の喫茶店「大坊珈琲店」の店主が語る。
じつは、ウイスキーとコーヒーの店をやりたかった
2023.07.20
![伝説の喫茶店「大坊珈琲店」の店主が語る。<br>じつは、ウイスキーとコーヒーの店をやりたかった](http://p.potaufeu.asahi.com/96d3-p/picture/27705180/b5585d1e8b27073d3c9ab3c99e92496a.png)
スコットランド北東部・ハイランド地方の”スコッチウイスキーの聖地”スペイサイドにあるザ・マッカラン蒸溜所。1824年に蒸溜ライセンスを取得し、政府登録蒸溜所としてスタートした名門中の名門だ。ハイランド地方の肥沃な土地がモルトウイスキーの原料である大麦を育て、湿地帯ではスモーキーなフレーバーのもととなるピート(泥炭)が採れる。蒸溜所の近くを流れるスペイ川の水は清涼でミネラル豊富だ。さらに、冷涼な気候はウイスキーを穏やかに熟成させる。スペイサイドの豊かな土地が、シングルモルトウイスキー「ザ・マッカラン」の芳醇な味わいを育んでいる。多くのコンペティションでNo.1を獲得してきたウイスキーは、「シングルモルトのロールスロイス」と称えられている。
ザ・マッカランのラインナップに、2022年から「ザ・ハーモニー・コレクション」が加わった。「自然と調和しながら生きる」というコンセプトのもと、ウイスキーの枠組みを超えた様々なコラボレーションによって生み出された限定シリーズだ。これまでのマッカランスタイルを踏襲しつつも、伝統の味づくりに徹してきた蒸溜所にとって、新しい挑戦となった。第1弾はカカオとのコラボレーションだった。今年はその第2弾として「インテンスアラビカ」を世に送り出した。ザ・マッカラン蒸溜所の誇るウイスキーメーカー(製造責任者)、スティーブン・ブレナー氏が、エチオピア産のコーヒーにインスピレーションを得てつくり上げた。
日本でのローンチ施策のひとつとして、伝説の珈琲店の店主・大坊勝次さんの淹れるコーヒー✖️「インテンスアラビカ」の世界を体感できるイベントが先日、開催された。大坊さんの築いたコーヒーの世界が「インテンスアラビカ」の目指すものと重なるため、ウイスキーとコーヒーが共鳴する時間をゲストに体感してもらおうという企画だ。
伝説の珈琲店の甘く濃厚なコーヒーの秘密
東京は表参道交差点の近く。大坊珈琲店は創業から38年間、村上春樹らの文化人をはじめ、大勢のお客様に愛されてきた。店主・大坊さんが手廻しのロースターで自ら焙煎し、その豆を挽いて、手づくりしたネルフィルターで1杯ずつハンドドリップする姿を、筆者は忘れられない。ほの暗い店内で、大坊さんがコーヒーを淹れ始めると、そこだけ時間が止まっているように見えた。コーヒーの香気と芳醇な味わいが舌に、脳に、刻まれている。残念ながら表参道のお店は、2013年12月にビルの取り壊しにより閉店したのだが。
![1050_daibo-116](http://p.potaufeu.asahi.com/6c67-p/picture/27705179/dd4c3b97953aa393e2d4c546a643b2b7.png)
大坊さんのコーヒーの淹れ方は独特だ。普通、1人分10〜13gのコーヒー豆を使うところ、大坊さんは1人分に25gも使う。直前に豆を挽き、80℃のお湯を一滴一滴、豆の上に落とす。それから、左手に持ったフィルターを、弧を描くように細く少しずつ回しながら、右手のポットからお湯を注ぐ。ポットを持つ手はほとんど回さない。5分ほどかけて抽出し、温めたデミタスカップに注ぐ。全ての所作に無駄がなく優美。茶道のお点前に通じる美しさだ。デミタスカップに注がれた液体は、とろりと深い甘みを湛えていた。
「開店した当時、とにかく酸味がゼロになるまで焙煎していました。酸味がなくなって苦味が生まれる前の一瞬を狙っていましたね。でも、今は少し酸味があってもいいかなと思っています」
仕入れた豆の状態は毎日違うし、その日の気温や湿度も異なる。毎日焙煎を繰り返していても、コーヒーを淹れて味を見るまでわからない。「いまは酸味も苦味もあっていいと思っています。それらがあってこそ、深みのある甘みになる。味に表情が出てきます」
さて、いまのコーヒーブームはサードウェーブと言われるが、その火付け役となったアメリカ発の「ブルーボトルコーヒー」は、スペシャルティコーヒーをハンドドリップで淹れてくれる。このスタイルのもととなったのが「大坊珈琲店」はじめ、日本の喫茶店だったことをご存知だろうか。「ブルーボトル」の創業者・ジェームズ・フリーマン氏は、日本の喫茶店文化に感銘を受け、特に一杯ずつハンドドリップするスタイルに影響を受けたという。
大坊さんはフリーマン氏に会ったときに、「うちの店に入ったときに何を感じましたか」と尋ねたそうだ。フリーマン氏は「自分はこの空気を壊してはいけないと思った」と答えた。「コーヒーを淹れる時間、それを味わう時間を大切にしたいということだと思います。私は時間をかけて淹れますが、その時間をお客様は黙ってお待ちくださるんです。その流れでコーヒーの味わいや香りに集中できる。お客様自身が、楽しむ時間を自ら作っておられるのですね」。
スコッチウイスキーの名門が挑戦する味とコーヒーが織り成す宝石のような時間
エチオピア産アラビカ豆にインスピレーションを受けて作られた「インテンスアラビカ」。色はエスプレッソの泡に、香りはティラミスやカプチーノ、味わいはエスプレッソやダークチョコレート、レーズンなどに例えられる。ザ・マッカランらしい華やかで上品な味わいはそのまま、味と香りの奥底にコーヒーを感じさせるものが潜んでいる。それらは、大坊さんが淹れる深い味わいのコーヒーと響き合う。
![1050_IMG_0876](http://p.potaufeu.asahi.com/0717-p/picture/27705174/706511f16c33fd428c16fc8a600860b8.png)
「実は、ウイスキーとコーヒーの店をやりたかったんです」と大坊さんは微笑む。「自分の人生を振り返ったり、これからの時間に思いを馳せたり。遠く異国への旅を思い出す人もいるでしょう。この前は20代の自分を思い出した、と話してくれた人もいます。家庭でも職場でもなかなかできないことを一杯のコーヒーが、ウイスキーが可能にしてくれる。こんなこと、喫茶店やバーじゃないとできないでしょう? そんなときには、ウイスキーならストレートで。そしてコーヒーは濃くなきゃね」。
「インテンス・アラビカ」の味わいの奥にあるコーヒー感を探しながら飲んでも、ウイスキーとコーヒーをペアリングで楽しんでも、コーヒーとのウイスキーカクテルを味わってもいい。ウイスキーとコーヒーを嗜むことは、その至福の時間を嗜むことでもあるのだから。
Text:Mika Kitamura
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