週末の過ごし方
『THE LOST FLOWERS OF ALICE HART/赤の大地と失われた花』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #56
2023.09.14
人は誰しも嘘をつく。
見栄を張ったり、誰かをかばったり、お世辞を言ったり、醜い真実を隠したり、たいてい自分や誰かを守るために嘘をつくことが多い。もし、自分の人生が、誰かの嘘で塗りたくられた、偽りの人生だったのだと知ってしまったなら……。
『赤の大地と失われた花』は、オーストラリアの作家ホリー・リングランドの小説が原作の、全7話からなるリミテッドドラマ。1979年公開の『エイリアン』や『ゴーストバスターズ』をはじめ、近年では『アバター』シリーズで14歳の少女を演じるなど演技の幅も広く、実力派女優として長きにわたり活躍しているシガニ―・ウィーバーが主演。
そしてW主演として、『THE 100』や『フィアー・ザ・ウォーキングデッド』でのアリシア・クラーク役で知名度を上げたアリシア・デブナム=ケアリー。リミテッドシリーズながらも、数時間ある壮大な映画を鑑賞したような満足感を得られたのは、いつまでも観ていたいと思わせる広大なオーストラリアの自然と、この実力派女優たちによる迫真の演技によるものだろう。
9歳のアリス・ハートは、街から少し離れたところで、もうすぐ生まれてくる弟を待ちわびながら、両親と共に暮らしていた。学校には行かず、ひとりで家にいることが多かったアリスは、本を読むことが大好き。父は気性が激しく、何か悪いことをすると暴力を振るうけれど、機嫌がいいときはとても幸せだった。
しかし、あるきっかけで家は全焼し、アリスは両親、そしてもうすぐ生まれるはずだった弟を失ってしまった。初対面ではあるが、唯一の親戚である祖母のジューンに引き取られ、アリスはソーンフィールドの花農場で暮らすことになった。
火事のショックから言葉を失ったしまったアリスは、花農場でジューンに花言葉を教わり、気持ちを伝えるときは、花言葉で会話をするようになる。
農場の仕事をこなしながら、農場で働くワケアリな女性たちとの共同生活。今まで感じたことのなかった家族、初めての学校、友達、愛するということ、アリスは心に傷を抱えながらも、オーストラリアの自然と共に成長してゆく。
作中には、オーストラリアのネイティブフラワーに添えて、毎回花言葉がつづられる。日本では、あまり見ることができないが、気候ゆえなのか葉は肉厚で、原色に近い色合いのものが多く見られる。そして花言葉たちも、太陽に向かって力強く伸びてゆくような前向きな言葉が多い。
この作品の軸に、オーストラリアのたくましいまでの自然とアリスの成長物語をおいていることもあり、自然の映像美に関してはそうとう繊細に作り込んでいると見受けられる。
アリスも太陽の恵みを受け、大地にしっかりと根を生やし、上へ上へと美しく咲く花たちを見て、どんなにつらい気持ちでも、前を向いて歩いていこうと思えたのだろうか――?
しかし、忘れてはならない、自然ははかなくもあるのだということを。美しい風景とは裏腹に、ジューンには誰にも言えなかった秘密が、アリスには忘れかけていた記憶が、痛々しくふたりの人生にのしかかってくる。
初めは、大切な人を守るためについた嘘だった。その嘘のために、小さな嘘を重ねなくてはならなかった。真実を知ったとき、初めてアリスは自身のアイデンティティと向き合うこととなる。
なぜこんなにも……。はたまたこれは運命なのか? そう思わざるを得ない展開に、美しさと痛みが混沌とし、味わったことのない苦しみが生まれる。
『THE LOST FLOWERS OF ALICE HART/赤の大地と失われた花』はAmazon Prime Videoにて配信中。ネイティブフラワーの花言葉たちに癒されながら、オーストラリアの自然と共に強く生きて抜いてゆくアリスの物語をぜひ。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo