週末の過ごし方
ディカプリオとスコセッシ監督の新コラボ作、
米国の史実と向き合う熱いドラマ。
2023.09.19
『ロミオ&ジュリエット』に『タイタニック』が立て続けに世界的大ヒットとなり、アイドル的な人気が絶頂に達した20代半ば。レオナルド・ディカプリオは『ギャング・オブ・ニューヨーク』(2002年)で巨匠マーティン・スコセッシ監督と初のタッグを組む。ここでの演技が高く評価されアカデミー賞にノミネートされ、彼の俳優としての転機となった。
以後、多くの作品を共に制作し、創作のパートナーとしての絆を強めてきた二人の最新作が『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』だ。1920年代、アメリカはオクラホマ州で起こった先住民連続殺人事件をもとにしたノンフィクション本『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』の映画化。オクラホマのオーセージ族の所有する土地から石油が発掘され、突如彼らは富を蓄える。町がオイルマネーに沸くなか、一人、また一人とオーセージ族が謎の死を遂げる事件が起こる。この実話をスコセッシ監督が見事に映画化し、本年度5月のカンヌ映画祭でプレミア上映された。そしていよいよ10月に世界同時公開となる。
「オーセージ族の人々が僕らの映画つくりの意図を理解してくれ、脚本に同意してくれたことに感謝している。この物語を、誇りを持って語るため最善を尽くして制作した。彼らがカンヌ映画祭に僕らと肩を並べて参加してくれたことは、悲劇となった歴史の1ページを語るうえで重要なことだと思う。この瞬間を絶対に忘れたくないと自分に言い聞かせているんだ」と会見でレオナルドは語った。
環境保護のアクティビストとして知られるレオナルド、人種差別や人権問題にも高い興味を示し、本作では先住民オーセージ族の視点を正確に反映させることが必須だったと強調する。またスコセッシ監督はFBI捜査官が事件を解くという原作の筋書きを、あえて白人男性のアーネストとモーリーという先住民女性の恋愛を軸にする筋書きに変え、犯罪スリラーに恋愛を織り込んだ見ごたえある人間ドラマに仕上げた。
「原作はFBIが捜査をするという視点だったが、映画化にあたり犯人解明がテーマではないことは明らかだった。レオは当初FBI捜査官トム役を演じることになっていた。ところが、この物語の核はどこにあるのだろう?と問いかけてきたんだ。そしてオーセージ族の人々と親しくなり、彼らの内部関係やコミュニティ内の慣習など、多くのことを学んだことで、映画の鍵は原作にはあまり登場しないアーネストに置きたいと感じるようになった。レオは、そのアーネストを演じたいと言った。そこでアーネストとは何者なのかを作り出すことになったんだ。モーリーとの悲劇的な恋愛、信頼、裏切りなどが素材になると感じた。二人の関係の心臓部に食い入り、屈折させ、ねじまげながら物語を作り上げていった。オーセージ族のテーマを扱うからには、気楽に構えていることはできなかった。危険を冒すのは当然のことだったんだ」と監督は熱く語った。
数年前のジョージ・フロイド殺人事件を機に、いまだ消え去らぬ差別社会、米国にはびこる根強い白人至上主義的な考え方に警告を発しつつ、本作は歴史の汚点に正直に向き合う映画であると、レオナルドは指摘する。
「マーティが監督として得意としているのは、きわめてゆがんだキャラクターでさえも、人間らしく描くという点だ。彼の作品に登場するキャラクターはみな現実的で人間らしい。本作を制作するうえで重視したのは、われわれの過去を認識するということだった。アメリカでも近年起こった事件から僕らは多くのことを学んだ。タルサの虐殺(1921年にアメリカで起きた白人暴徒による黒人住民の虐殺事件)について、今ようやく人々が知り理解するようになったと思う。本作の制作も、それに近いものがあった。この物語が自分の文化、歴史の一部であると認識する機会になった。その核には40年代の映画のような屈折した悲劇的な恋愛物語があり、それを描くために僕らは全力を尽くした。脚本が完成した後もオーセージの人たちから、毎日たくさんの話を聞き、可能な限り事件の本質を理解しようとした。真実を解き明かし、それを尊重しようとする作業は、考古学における検証のようでもあったんだ」と打ち明けた。
20年以上も共作を続けてきた二人の相互理解は深い。またレオナルドが子役時代から共演してきたロバート・デ・ニーロも加わり、三人の強力なタッグによってエンターテイニングな名作が生まれた。
「僕はマーティとロバートの映画を見ながら育った。俳優として彼らから影響を受けたばかりでなく、二人が共に達成した高いレベルの芸術的な業績は、僕ばかりではなく、僕と同世代の俳優全員に影響を与えたと思う。いかにテーマが醜く不快であっても、マーティの真実を追求することに対する忍耐力と、それを追求する技は熟達し秀でている。過去の巨匠から多くのことを学び、それが糧となって彼の偉大な映画つくりの技術が育まれたんだと思う。われわれの時代を代表する優れた監督として、現在も重要な物語を語り素晴らしい映画を作り続けてくれていることに感謝している。本作でも、真実を追求する名作を作り続ける彼の活力に圧倒されるばかりだよ」
Text: Yuko Takano