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名店の匠が集結! 至高のフェス飯が日本の食文化を発信した

2023.09.22

名店の匠が集結! 至高のフェス飯が日本の食文化を発信した

去る99日(土)、10日(日)、さいたまスーパーアリーナで夏の終わりにふさわしい刺激的なイベントが開催された。その名も「SAMRISE Festival(サムライズ フェスティバル)」。日本の代名詞である「侍」と「日出づる国」を掛けた名称が象徴するように、日本文化の最先端を世界に向けて発信しようとする意欲的な試みは、2日間で約5万人が訪れる盛況となった。

INI(尾崎匠海・髙塚大夢・藤牧京介)やGENERATIONSなど総勢14組の旬なアーティストによるライブパフォーマンスと共に、大きな人気を博したのがSTAR FOOD COURT(スター フード コート)の食。食通から絶大な支持を集める7つの名店が、フェス飯を手がけることで反響を呼んだ。特に長蛇の列となったのが、「やま幸」「鮨 さいとう」「鳥しき」。その3人の代表にインタビュー。それぞれフェスへの参加は初めてだったが、その裏側にあったのは単なるプロモーションではなく、日本が誇る食文化を次のフェーズへ進めようとする匠たちの矜持と熱意だった。

天然の魚を通じて「食育」を試みる。築地の目利きが選んだマグロの味

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やま幸グループ会社代表取締役 山口幸隆さん

「やま幸」は店舗ではなく、日本一とも称されるマグロ仲卸業者。国内外を問わず、1000店を超える鮨や和食の人気店が絶大な信頼を寄せる。もともと仲卸の一番番頭を務めていた父の元で学生時代から修業を積み、日本近海のマグロの奥深さに魅せられた。他の追随を許さない、日本を代表する目利きだ。

本業は仲卸だから、通常は一般客に接する機会はない。今回はリアルな声を聴く絶好の機会。満を持して開発したのがマグロ丼とマグロカツカレーだった。マグロ丼は厳選された近海物を頭から尾まで使用し、一膳でマグロの美味を満喫できる逸品。カツカレーにはコラーゲンたっぷりな希少部位を使っている。

「日本は世界で最も海に面している国です。淡水と海水が混じり合い、プランクトンが多い。かつ遠浅が多いことから、小魚が豊富です。それを食べることで良質なマグロになるんです」

 マグロの味とは食べる餌の味だという。

「たとえばニシンが多い場所だとマグロもニシン臭がします。それに比べると日本のマグロはいい餌を食べているせいか、身が甘いですね。それを食べていることで、日本人の味蕾は鍛えられてきたと思います」

 山口さんは日本人の舌の繊細さを誇りつつ、危機感も隠さない。

「おいしいお店が観光地化して質を落としているのでは……と思うことがあります。もっと魚の本当のおいしさを伝えないといけないですよね」

 今年11月開業の麻布台ヒルズに巨大な魚屋をオープンする予定だという。若手職人の育成のみならず、一般の家庭に天然の魚を届けたいという信念からだ。パック詰めの販売ではなく、昔ながらの魚屋のように顧客と会話をしながら、旬の味わいとレシピを伝えていく。山口さんはそれを「食育」と位置付けている。今回の試みは絶好のリハーサルとなったに違いない。

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マグロのとっておきの部位を、赤酢を混ぜて炊いたご飯と共に。まかないで好評だったきんぴらが箸休めに添えてある。シャキシャキした食感が濃厚な味にぴったり。ボリュームのあるカツも後味はさっぱり。

会員制の名店が立ち返るファストフードとしての寿司の原点

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「鮨 さいとう」 齋藤孝司さん

世界が認める日本の寿司職人のひとり。齋藤さんのプロフィールにはそう書かれることが多いが、決して誇張ではないだろう。自身が握る「鮨 さいとう」は6年連続でミシュラン三つ星を獲得している。世界的に高い人気を誇るが、その味に舌鼓を打つのは至難の業。じっくりと常連の方と向き合いたいからと現在は会員のみとなっており、新規の予約は受け付けていない。だからこそ、今回の出店はちょっとしたニュースになった。

「今回は僕もよく知っている一流の料理人の方が出られるということで、一緒に日本の食を発信していきたいと思って参加を決めました」

もちろん不安はあった。いつもより若い顧客層、冷蔵冷凍のインフラが十分でないこと。いいものができるかどうか、手探りの部分が少なくなかった。それでも店を開けると早々に売り切れるなど、手応えは確かだったようだ。

「寿司は単純なものなんです。でも、回転寿司からうちのようにじっくりとお客さまに向き合う小さな店までいろいろある。若い人に『こんなお寿司もあるんだ』と知ってほしかったですね」

普段のお店のコースは4万円から。そのエッセンスをぎゅっとまとめた握り6貫が供された。どれもネタに事前の仕込みを施した「江戸前」。シャリも店と同じだという。それがフェスでは破格な値段で供された。だが、江戸時代は屋台で売り買いされており、寿司はもともとファストフードに近い。その意味ではひとつの原点回帰といえる。

今や寿司は世界中に広がり、各地でさまざまなアレンジも生まれている。だが、日本の味は抜きん出ており、今も圧倒的なアドバンテージがある。その理由はどんなところにあるのだろうか。

「寿司にはレシピがないんです。ネタを仕込むことまではできても、職人がご飯をどう握るかを完全には教えられません。経験を積んでいくしかないですよね」          

漁師の釣った後の処理技術も賞賛する。

「獲った魚の血抜きをする、内臓を取って冷やす、運ぶときも氷を下に敷くなど、僕らの元に届くまでにやっていただけることがすごく多い。これはほかの国ではないでしょうね」いかに新鮮な状態で料理人に届けるか、日本の漁師の技と気配りも随一のようだ。そうした日本の豊かな食文化が、イベントを通じて若い人にも伝わったはずだ。

「今回は冒険でしたが、機会があれば、次回もぜひ参加したいと思います」

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握り6貫は白身2種、こはだ、赤身2貫、穴子。マグロは山幸から仕入れしたものを漬けで。名店ならではの繊細な仕事が生きている。太巻きは椎茸、車海老、卵焼き、きゅうり、穴子をふんだんに使用したもの。実際にお店でもコースの最後に提供されている。

焼き鳥の醍醐味(だいごみ)をバーガーで。規制を逆手に取ったアイデアにうなる

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「鳥しき」 池川義輝さん

東京の下町生まれの池川さんにとって、食の原体験は焼き鳥だった。モウモウとする煙に加え、甘く香ばしい匂い。商店街の路地で、幼い 五感に刻み込まれた記憶だという。そして今は数カ月先の予約があっという間に埋まってしまう人気店「鳥しき」の名職人だ。以前は居酒屋での品書きのひとつだった焼き鳥を、至高の料理に押し上げた立役者のひとりといっていいだろう。2011年以降、ミシュランの星の栄誉に浴していることがその証しだ。

「海外では僕たち職人はアーティストと呼ばれます」という池川さんの言葉は、決して誇張ではない。「鳥は捨てるところがないほど、いろんな料理ができます。僕たちは部位ごとにさばいて、それぞれに合った料理にしていく。日本では当たり前なんですが、海外の方には『すごい』と驚かれますね」

ローストチキンに代表されるように、欧米では丸ごと焼かれることがほとんど。焼き鳥であれば、部位ごとに仕込みや焼き加減を変える。こんな細かく丁寧な職人技が、日本の食の伝統を裏側から支えている。

そんな池川さんが用意したフェス飯が、なんと鳥しきブラックチキンバーガーと鳥しき鶏ワンタンそば。会場の関係上、炭火が使えないことから、バーガーには竹炭バンズを使用している。ピクルスの代わりの柚子大根が爽やかなアクセント。ひと口でいろんな食材のレイヤーが楽しめるハンバーガーの特徴を生かし、焼き鳥の世界観を表現したセンスはさすがだ。

「今回は音楽フェスと一緒の開催です。音楽はどんどん気分を上げてくれる。料理もそう。おいしいものを食べると元気になりますよね。今回は一流の仲間たちと一緒に、日本の食文化を発信できるいい機会だったと思います」

商店街に立ち込めた煙はなくても、世界が認めた鶏料理のアーティストの熱意は確かに若い来場者にも伝わったに違いない。

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ワンタンの具は福島産伊達鶏の挽き肉、スープは鰹節と鶏だしのしょうゆペースを使用。あっさりとしながらも鶏のうまみはしっかり。バーガーはクリスピーフライドチキンの香ばしさが癖になる。
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V字回復したインバウンド市場で、目玉となっているのが日本食だ。2013年にユネスコ無形文化遺産に選ばれたこともあり、ここ10年あまり世界的な注目を集めている。実際、多くの外国人観光客が食べることを目的に日本を訪れ、寿司や天ぷらといった定番からコンビニスイーツまで舌鼓を打つ。まさにわが国のキラーコンテンツと言っていい。

だが、そうした時期だからこそ、あらためて本物を伝える努力は怠りたくない。現在の日本を代表する食の匠が集まった「SAMRISE Festival(サムライズ フェスティバル)」は、確かにその一歩となったようだ。次はどんな食がどのように文化として発信されるのか、第2回の開催を心して待ちたい。

Text:Mitsuhide Sako(KATANA)

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