特別インタビュー
その男、中村倫也。
2023.11.16
役作りを「今はほぼしない」と言う。開幕を間近に控えた主演舞台『アウト・オブ・オーダー』では、政治家の秘書ジョージ役を演じ、次々に巻き起こるピンチに奮闘し、舞台を動き回る。
「生真面目な役柄というキャラクターを拡大するといったことはしますが、『こんな人だからこう動く』といった細かい役作りはしないですね。そこに注力しすぎるとこぢんまりしてしまう。それよりもおもしろくなったほうがいいし、稽古場で実際に演じてみないとわからないところも大きい」
舞台は映像の仕事よりも稽古の時間が長い分、あえて大きく脱線させることもあるという。
「ものづくりって組み立てることはもちろん大事ですけど、同じぐらい崩す勇気も大事。『やっちゃいけない』ということをあえてやってみる。うまくいかなかったら『やっぱりだめだったね』って笑いながら楽しく稽古しています。自由じゃないとつまらない」
2〜3月に上演された舞台『ケンジトシ』では、稽古中、突然セリフに詰まったことがあった。
「僕の中にこれまで稽古してきたものと違うものが芽生えて、『この感覚はなんだろう』と考えていたら、セリフが飛んじゃった。だから、周りから見ればミスですが、僕にとっては発見なんです。仮にそれで怒られたとしても、縮こまることはないですね。役者なんてタンポポの綿毛のようなものなのだから、飛んで行かなかったら意味ないじゃんって思う」
今年37歳、役者歴18年。20代前半までは役に飢えていた。「特別秀でているものがなかったから、歌でも芝居でも、できることの分母を増やす作業を意識的にしていた」と振り返る。その積み重ねを経て、いつしか「カメレオン俳優」と呼ばれるようになった。
「絶対的な評価は存在しない世界だから、今も自分がいろいろな役を演じられているかどうかはわからない。それに、目に見える成果と、それが自分の人生において有意義かどうかは別のこと。楽しい現場があれば正直そうではない現場もありましたが、それを有意義にできるかどうかは自分次第だと思って生きてきました」
難役であればあるほど、中村がどのように演じるのか楽しみにしている人も多い。
「オファーする人は、僕が困っているところを見たいのかな(笑)。でも困らないし、悩まない。悩む前に動く」と言い、自分をねぎらったり、自分へのご褒美を買ったりすることは「ないです」とキッパリ。「一生懸命仕事をしていれば十分満たされる」のだそうだ。
演じることは楽しいですか。
「楽しいですよ。演技は役者同士作用し合うもの。作用し合えたときはすごく楽しいですね」
印象深い言葉で締めくくったかと思いきや、これから演じてみたい役を問うと、「売れる役をやりたいです!」と笑みを見せた。
中村倫也(なかむら・ともや)
1986年生まれ、東京都出身。2014年、舞台『HISTORY BOYS /ヒストリーボーイズ』で初主演し、第22回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞。2023年は連続ドラマ『ハヤブサ消防団』(テレビ朝日系)に主演したほか、主演舞台『ケンジトシ』、主演映画『宇宙人のあいつ』『沈黙の艦隊』に出演。待機作には『劇場版SPY×FAMILY CODE:White』(12/22公開)がある。
『OUT OF ORDER』
作/レイ・クーニー、演出/マギー 11月11日(土)〜12月3日(日)/佐賀、兵庫、宮城、愛知公演、12月7日(木)〜24日(日)/東京公演:世田谷パブリックシアター、12月28日(木)〜30日(土)/大阪公演:森ノ宮ピロティホール 詳細は、https://outoforder2023.com/にて。
Photograph: Sunao Ohmori(TABLE ROCK.INC)
Styling: Akihito Tokura Hair & Make-up: Emiy
Text: Yukiko Anrak