週末の過ごし方
『クリミナル』
いま観るべき、おしゃれな海外ドラマとは? #62
2023.12.14
人は無意識に、感情に伴った行動をしてしまう。行動心理学と呼ばれるものだが、たとえば、嘘をつくときに鼻を触ったり、不安に感じているときに唇をかんだり、焦っているときに近くの物を触ったり、貧乏ゆすりをしたり……。人間は意外と無意識に、感情が動作に現れてしまう生き物なのだ。
Netflixのアンソロジーシリーズ『クリミナル』の舞台は、取調室とエレベーター前の休憩所のみで構成されている。被疑者とその弁護士、対して尋問をする捜査チームだけが登場し、事件の全貌が明かされることはない。
この手のドラマにありがちな、ヒントになる回想シーンなど一切登場しない。視聴者側は、互いの会話とちらりと見える現場写真と捜査資料のみで、事件を読み解いてゆくしかない。捜査官と被疑者の心理戦が、ただひたすら続いてゆくだけのドラマである。
退屈そうだとか思うかもしれないが、とんでもない。被疑者が犯人かどうかは、ラスト数分までわからないというハラハラドキドキ構成。なるほど……、相手を知るためにこの質問をしたのか! おお……、被疑者が明らかに動揺している! ええっ! ここにきてその展開!? まさか……そうだったのかー!と、目線や行動、会話やため息さえも見逃せない、シンプルイズベストだからこそ面白いクライムミステリードラマだ。
捜査官側には証拠がないため、被疑者を逮捕することはできない。限られた保釈までの時間のなかで、いかに自白を引き出すかがポイントとなる。
まず、相手を知ることから始まる。男尊女卑的思考を持つ人だとしたら? 同性に対して嫌悪感を持つ人だとしたら? 被害者とのつながりは? 自己愛が強いタイプか?など、相手の性格を知り、怒りのポイントを知ることで、あおったりも、同情したりすることもできる状態をつくる。
いくら脚本が優秀でも、この条件のなかで面白い作品にするのは、非常に難儀なことだと思われるが、キャスト陣の見事な演技力で、いくらでも引き込まれてしまうのだ。数少ないちょっとした会話から、すぐに見て取れる人物像、服装や仕草などから得られる情報は多い。事件解決への道のりはもちろんのこと、捜査チームの関係性も徐々に見えてゆき、連続ドラマとしての面白さもプラスされている。
捜査官とはいえ、さまざまな個性を持つ、私たちと同じ人間だ。感情をあらわにしてはいけない場面だとしても、どうしても出てしまうこともある。被疑者も捜査官もそんな一瞬を感じ取り、弱みに付け込まれてしまったら最後……。なかなか立場を逆転させるのは難しい。
心理戦バトルものとでも言おうか、この闘いには時間の限りがあるだけに、静かに淡々と進んでゆくなかにも感じるドキドキ感はアクションもののようだ。
Netflixのアンソロジーシリーズ『クリミナル』は、『イギリス』(全7話)、『フランス』(全3話)、『ドイツ』(全3話)、『スペイン』(3話)とすべて同じ監督によって4カ国で製作されている。捜査官たちのことがより丁寧に描かれる『イギリス』編からの視聴がオススメ。国によってこうも違ったりするのだなあという楽しみ方もできるので、ぜひ4カ国制覇していただきたい作品だ。
ああ、謎解きって、最高に面白い。
Text:Jun Ayukawa
Illustration:Mai Endo